2015年2月に成立した平成26年度補正予算により、2015年2月9日以降に【フラット35】の住宅ローン資金を受け取る人は、「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」による制度拡充の恩恵を受けられることになりました。金利引き下げを軸とした制度拡充の概要を知っておきましょう。

【フラット35】Sの仕組み

金融機関と住宅金融機構の提携により提供されている、全期間固定金利型の住宅ローン【フラット35】には、購入または新築する住宅が「省エネルギー性」「耐久性・可変性」「耐震性」「バリアフリー性」のいずれか1つ以上の基準を満たすと、一定期間は金利が引き下げられる【フラット35】Sという制度があります。

金利引き下げの期間は、当初10年間の金利Aプランと当初5年間の金利Bプランがあり、下表の通り各々のプランで求められる住宅性能の基準が異なります。マンションの場合、金利Bプランの条件に適合するものは多いですが、金利Aプランはまだ少ないのが現状です。一戸建ての住宅では長期優良住宅や耐震等級3など金利Aプランの条件を満たすものがかなり増えています。

<図表1 【フラット35】Sを利用できる住宅の基準>

【フラット35】S(金利Aプラン) 新築・中古住宅共通の基準
省エネルギー性
  • (1)「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づく「住宅事業主の判断の基準(通称 トップランナー基準)」に適合する住宅(一戸建てに限る)
  • (2)認定低炭素住宅
  • (3)一次エネルギー消費量等級5の住宅
耐久性・可変性
  • (4)長期優良住宅
耐震性
  • (5)耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)3の住宅
バリアフリー性
  • (6)高齢者等配慮対策等級4以上の住宅(共同住宅の専用部分は等級3でも可)
【フラット35】S(金利Bプラン) 新築・中古住宅共通の基準
省エネルギー性
  • (1)断熱等性能等級4の住宅
  • (2)一次エネルギー消費量等級4の住宅
耐久性・可変性
  • (3)劣化対策等級3の住宅で、かつ、維持管理対策等級2以上の住宅
耐震性
  • (4)耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上の住宅
  • (5)免震建築物
バリアフリー性
  • (6)高齢者等配慮対策等級3以上の住宅
【フラット35】S(金利Bプラン) 中古住宅特有の基準
省エネルギー性
  • (1)二重サッシまたは複層ガラスを使用した住宅
  • (2)建設住宅性能評価書の交付を受けた住宅(省エネルギー対策等級2以上または断熱等性能等級2以上)他
バリアフリー性
  • (3)浴室及び階段に手すりが設置された住宅
  • (4)屋内の段差が解消された住宅
(住宅金融支援機構【フラット35】ホームページを参考に筆者作成)

【フラット35】Sの金利引き下げ幅を0.6%に拡大

金利の引き下げ幅はこれまで0.3%でしたが、今回の制度拡充により0.6%に拡大されています。
引き下げの対象期間ですが、2015年2月9日以降に資金を受け取る人から適用され、2016年1月29日の申し込み分までとなります。ただし、この制度には予算の金額があり、予算の金額に達する見込みとなった場合は、終了日を前倒しすることとなりますので注意が必要です。

<図表2 【フラット35】Sの金利引き下げイメージ>img_00030_01 img_00030_02

 

(住宅金融支援機構【フラット35】ホームページを参考に筆者作成)

【フラット35】融資比率9割超の上乗せ金利を引き下げ

住宅の購入価格あるいは建築費の9割超を【フラット35】で借りた場合、9割以下で借りた場合に比べ、これまでは0.44%程度(取扱金融機関によって多少異なることがあります)の金利が上乗せされていました。

しかし、今回の制度拡充により、これまでの上乗せ分から0.31%引き下げられ、0.13%程度になります。例えば2015年5月の【フラット35】(融資比率9割以下、返済期間21年以上)の最低金利は1.46%です。これまでの上乗せ分であれば、融資比率9割超の場合は1.90%となるところが1.59%となっています。

上乗せ金利が引き下げられる期間は前述の【フラット35】Sの金利引き下げ幅拡大の期間と同じで、2016年1月29日までの申し込み受付分です。

変動金利(半年型)と比べても大差ない金利に

【フラット35】Sの金利引き下げ幅拡大を実際の金利に当てはめて考えてみましょう。
【フラット35】は2015年1月と2月に過去最低金利を連続で更新しており、3月、4月は少し上昇しましたが、2015年5月の【フラット35】(融資比率9割以下、返済期間21年以上)の最低金利も1.46%と過去2番目に低い水準となっています。これが、【フラット35】Sなら、当初5年間または10年間は0.6%金利が引き下げられ、0.86%という低い金利になります。

これに対し変動金利(半年型)は、例えば都市銀行の店頭表示金利は2.475%で、そこから審査結果などにより金利引き下げの幅が決まりますが、1.7%の金利引き下げで0.775%程度が適用金利となることが多いです。
従って、これら2つの金利差はわずか0.085%と、0.1%に満たない水準です。

5年前(2010年3月)を見ると、【フラット35】(返済期間21年以上)の最低金利は2.55%で、【フラット35】Sにより0.3%金利が引き下げられたと想定して2.25%です。当時の都市銀行では1.275%~1.475%程度が変動金利(半年型)の当初適用金利となることが多く、1.275%とするとその当時の【フラット35】Sの金利と比べて、金利差は0.975%と1%近いのです。過去から考えても、現在の金利差は本当にわずかであると見ることができるでしょう。

さらに、【フラット35】は返済期間が20年以下の場合は金利が低くなります。2015年5月の最低金利(融資比率9割以下)は1.23%のため、【フラット35】Sなら当初は0.63%と都市銀行の変動金利(半年型)よりむしろ低い水準になっています。

変動金利(半年型)との比較はどう考える?

変動金利(半年型)と【フラット35】S適用中の金利に大差がないことは明らかですが、【フラット35】Sの金利引き下げは当初5年間か10年間だけで、その後に0.6%金利は上がることが確定しています。一方、変動金利(半年型)の適用金利は半年に1度見直されるため、返済期間中は常に金利上昇のリスクがあります。どのように比較して考えればよいのでしょうか。

【フラット35】Sは将来の金利が確定しているため、返済完了までの元金と利息の支払い総額(総返済額)も確定しています。変動金利(半年型)の金利が、いつ上昇するかはわからないので、例えば5年後と10年後でそれぞれ金利が0.5%と1.0%上昇した場合の総返済額を【フラット35】Sと比べてみましょう。
3,000万円を返済期間35年で借り入れた場合の総返済額を下表にまとめました。

<図表3 【フラット35】Sと変動金利(半年型)の総返済額シミュレーション>

■【フラット35】Stable_30_04

■変動金利(半年型)table_30_05

※2015年5月の【フラット35】S(融資比率9割以下)最低金利で、3,000万円を返済期間35年、元利均等返済、ボーナス返済なしで借りた場合

まず、【フラット35】Sの金利Aプランと比べてみましょう。変動金利(半年型)は5年後に金利が0.5%上昇すると、総返済額がかなり近づきますので、それより金利が上昇すると変動金利(半年型)が不利になっていくということになります。また変動金利(半年型)の金利上昇が10年後であれば、上昇幅を0.5%とすると、総返済額は約82万円少なくなりますが、1.0%とすると約76万円多くなります。表にはありませんが、上昇幅を0.76%とすると総返済額はほぼ同じになりますので、そこが損益分岐点と見ることができます。

次に【フラット35】Sの金利Bプランと比べてみると、変動金利(半年型)の金利上昇が5年後であれば、上昇幅0.5%では総返済額が約96万円少なくなり、1.0%では約131万円多くなります。総返済額がほぼ同じになる上昇幅は0.71%でした。10年後であれば、上昇幅1.0%では総返済額がかなり近づきました。

【フラット35】Sの金利AプランおよびBプランと変動金利(半年型)の比較をみてきましたが、特に【フラット35】Sの金利Aプランでは、損益分岐点となる金利上昇の幅は小さいと感じられるのではないでしょうか。金利上昇の可能性を踏まえ、損益分岐点を意識して金利タイプを選びたいものです。

金利は上がる?上がらない?

そこで気になるのが、金利の動きだと思います。いつ、どの程度の幅で変動金利(半年型)が上昇したら【フラット35】Sより総返済額が多くなってしまうかは把握できましたね。極端な上昇でなくても総返済額が多くなってしまうケースはありそうですが、そもそも金利は上がるのでしょうか。

金利の動きは誰もわからないというのが本当のところですが、金利の動きに大きな影響を与える物価については知っておきたいことがあります。
日本銀行は、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これを早期に実現するために通貨の量を増やして金利を下げる金融緩和策を実施しています。
また物価に関しては為替の動向も気になるところです。日本は食糧やエネルギーの多くを海外からの輸入に頼っています。もし円安が進めば、それらの輸入価格は上昇します。そのため、生活に関連するものの値段が上がっていくと考えられ、物価の上昇につながるのです。

つまり、物価上昇は可能性として排除するのが難しい状況にあります。実際に物価上昇が確かなものになれば、金利も上がっていく可能性が高いことを頭に入れておく必要があるでしょう。

金利タイプの選択は、主に家計の金利上昇リスクの許容度から判断するべきです。金利が上昇しても支払える収支の余裕が現在および将来の家計にある人だけが、変動金利を選ぶとよいとされています。しかし、今回の制度拡充により、そうした家計の収支に余裕がある人も含め、多くの人に【フラット35】Sを選択肢とすることをおすすめする状況になったと考えています。

なお、本コラムでは金利だけを考慮した総返済額での比較を行っていますが、個々の住宅ローン商品の正確な比較は、団体信用生命保険の特約料、保証料、事務手数料などの諸費用を加えて行うべきことに注意が必要です。

 

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この記事の筆者
平野雅章 ファイナンシャル・プランナー

ファイナンシャル・プランナー(CFP)、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー

住宅ローンと保険を中心に1,200件超の相談実績を持つ相談専門ファイナンシャルプランナー。2007年に独立し、横浜FP事務所を主宰。豊富な相談経験を活かし講師や執筆も多数。2011年より(一社)全国FP相談協会の代表理事として、FP相談普及にも尽力。

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