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Q.現在独身で、都内の自宅に80代の母親と同居しています。母の資産は不動産評価額が3,000万円の自宅と400万円の預貯金だけです。結婚して持家がある妹が一人いますが、自宅しかなくても相続で揉めることがあると雑誌で見て急に心配になりました。何か対策をしておくことはありますか?(50代/男性/会社員)

親が生きているときは仲が良かった兄妹も、いざ相続が発生すると思わぬトラブルになることも少なくありません。特に主な相続財産が自宅だけだと、土地や建物を2分の1に分けることはむずかしく、揉める可能性がでてきます。もし別居の妹に法定相続分の権利を主張されれば、自宅を売却して売却代金を分けることにもなりかねません。

万が一に備えて、同居家族がそのまま自宅に住み続けるためにどのような対策ができるのか考えておきましょう。

相続税がかからなくても相続争いは起こる

相続対策を考える場合、大きく2つに分けて考える必要があります。1つは「相続税対策」、2つ目は「分割」です。

相続税は相続財産が「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」までは非課税です。今回の事例では法定相続人が2人であるため、4,200万円までの財産には相続税がかかりません。現時点で、ご自宅を含めたお母様の財産は3,400万円ですから、相続税を支払う心配はなさそうです。したがって、納税資金を準備する必要はありません。

では、何も対策をしなくてもいいのでしょうか?

実は、相続にかかわる裁判の75%は相続財産が5,000万円以下の場合です。なぜなら相続財産のほとんどを自宅やその他の不動産が占め、分割できないことで争いが起こっているからです。
相続税はかからなくても、合計3,400万円の相続財産を2人で分けるためには、一人1,700万円ずつとなり預貯金だけでは足りません。しかし、同居家族がその家に住み続けるためには、自宅を分割するわけにはいきません。

では、どうしたらよいのでしょう。

同居家族がいる場合必ずやっておきたい対策とは?

まず、はじめにやっておきたいのは、自宅を長男に相続させる旨の遺言書の作成です。

一般的な遺言書では、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類がよく使われます。「自筆証書遺言」は、遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自筆し、これに押印することによって成立します。「公正証書遺言」は、公証人に遺言の趣旨を口述し、その内容を公証人が本人と証人2人の前で筆記し各自が署名捺印することで成立します。

自筆証書遺言は簡単に書くことはできますが、日付や署名捺印などに不備があったり、内容があいまいだったりと、実際に相続が発生した時には要件を満たしておらず、効力が発生しない恐れもあります。

遺言の内容を確実に実行したいのであれば、「公正証書遺言」が安心です。証人2人と公証人の前での口述が必要で、財産の額に応じた費用もかかりますが、公証人よって筆記、保管されるため紛失や偽造などの危険もなく安全な遺言書です。また、相続発生時には裁判所の検認もなく、すぐに名義変更などの手続きが開始できます。

それぞれの特徴を表にまとめましたので、参考にしてみてください。

<自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴>

  自筆証書遺言 公正証書遺言
遺言を書く人 本人 公証人
署名・押印 本人 本人・証人・公証人
証人・立会人 不要 証人2人以上
検認の要否 必要 不要
メリット ●秘密が保持できる
●決まった様式がなく、いつでも書く事ができる
●簡単に書き換えられる(日付が新しいものが有効)
●内容が明確である
●紛失・偽造・変造等の危険がない
●検認の手続きを行わずに遺言の内容を実行できる
注意点 ●ワープロ・録音などは無効
●内容が不明確になることがある
●日付・氏名・押印など不明確な場合、無効となる可能性がある
●遺言書の文言の加筆・訂正・削除など変更箇所を指示し、変更した旨を付記しないとみとめられない
●本人が貸金庫等に保管する必要がある
●手続きが煩雑である
●費用がかかる
●秘密が漏れる危険がある
●利害関係がない証人が2人必要

遺言書だけでは自宅に住み続けられない?

遺言書は相続対策として有効ですが、これだけで安心して自宅に住み続けられるわけではありません。なぜなら、遺言よりも優先して、相続人のために残しておく最小限度の財産割合が決められているからです。これを「遺留分」と言います。

たとえば法定相続人が子ども2人の場合、法定相続分は2分の1となりますが、そのうちの2分の1、全体の4分の1は遺留分として権利が残ります。遺言書があっても3,400万円の4分の1である850万円の権利は残ります。

これでは400万円の預貯金は妹が相続したとしても450万円分は不足してしまいます。この場合自宅を分割できなければ、自分の預貯金から450万円をねん出して妹に渡さなくてはなりません。

こうして、同居家族が介護や看病などを献身的にやってくれたにもかかわらず、別居の兄弟が強硬に権利を主張すると、相続争いに発展してしまう可能性もあるのです。

みんなが元気な時に話し合いを!

財産は時間の経過とともに変化するため、すべてを確実に決めておくことはできません。しかし親も子も元気なうちに将来自宅を誰が相続するのか、預貯金はどうするのかを話し合っておくことも重要です。

もし同居家族が自宅をすべて相続しても、残りの預貯金を別居の妹が相続することで話し合いが付けば特に確執は残りません。どのような分け方でも当事者が納得していれば、法律的には何の問題もないのです。

小さな相続財産で大きな揉め事になっては家族全員が不幸になってしまいます。権利を主張しあうのではなく、お互いを思いやる気持ちを忘れずに、円満相続を目指したいものです。

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この記事の筆者
有田美津子 ファイナンシャル・プランナー

ファイナンシャル・プランナー(CFP)、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、相続診断士
銀行での住宅ローン相談、住宅販売、損保会社を経て独立。現在は人生と仕事の実務経験を活かし、子育て世代の住宅購入とシニア世代の住替え相談を行う。ライフプランに沿った資金計画から物件の引き渡しまで一貫したサポートが好評。共著・監修に「トクする住宅ローンはこう借りる」(自由国民社)。

50代からの住まい専門FP

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