リタイアした方や、契約社員・派遣社員の方は、継続・安定した収入がないとみなされて住宅ローンの審査が通りにくく、借りることができない場合や、十分な額が借りられない場合があります。そんなとき、正規社員などの親族が、自分の名義を貸して住宅ローンを組むことはできるのでしょうか。

「住宅ローンの名義貸し」とは?

定年退職した方や、契約社員、派遣社員の方、自営業の方は、住宅を購入しようと思っても、住宅ローンを借りられず、住宅を取得できない場合があります。なぜなら、金融機関のローン審査で、長期的に安定した収入がないと判断され、返済が滞る可能性があるとみなされるからです。住宅ローンは住宅を担保すれば誰でも借りられると誤解している方がいますが、「継続的に安定して返済ができだけの収入がある人」でなければ借りられないのが一般的です。実際には本人に貯蓄などがあってローンを返済する能力がある場合でも、審査では雇用形態などが重視され、結果的に融資を受けられず、住宅の取得を断念せざると得ないことがあります。また、融資が受けられたとしても十分な額を借りることができないことがあります。

 名義貸しは“違法”行為

そんな親や子供などの親族が身近にいる場合、正社員で働いている自分の名義で住宅ローンの契約を結び、実際には親族のお金で返済してもらうことができないかと考える方がいるかもしれません。 このことを「住宅ローンの名義貸し」といいますが、実際には認められてはいません。住宅ローンに限らず、名義貸しをして借金をすると、名義を貸した人が法律的にもすべての責任を負うことになり、さまざまな問題が生じます。

「名義貸し」の問題点

リタイアした両親2人が住む住宅を、子どもが名義貸しをして住宅ローンを借り、実際の返済は親の収入や貯蓄から行う場合を例にとって考えてみましょう。なお、子どもは現在賃貸住宅に暮らしており、仕事の関係などから両親と同居する予定はないとします。

住宅ローンは、原則として契約者本人が居住することを条件に借りることができます。転勤などの例外は別として、本人の居住を前提としない住宅ローンを契約することはできません。つまり、この例では、そもそも取得する住宅に住むつもりのない子どもは契約をすることができないのです。それでも子どもが契約しようとすれば、両親と同居しなければなりません。実際には同居するつもりがないのに同居の形式をとることは、住宅ローンを借りる金融機関を欺くことになりかねません。

 親が子どもに変わり返済すると、贈与に該当することも…

取得する住宅は、住宅ローンの契約者が借りた金額や負担した自己資金に応じて所有権の持ち分登記をしなければなりません。親のための住まいであっても、住宅ローンを子どもが契約すると、その住宅には子どもも持ち分登記をする必要があります。

さらに、住宅ローンの返済は、親に返済能力がある場合でも親が直接返済することはできません。契約者は子どもなので、親が一旦返済金を子どもに渡して、子どもから金融機関に返済する必要があります。このとき親から子どもに渡されるお金は贈与となり、贈与税の課税対象になります。年間の非課税枠110万円を超えた場合、子どもに贈与税の申告・納税の義務が生じます。なお、親の収入や貯蓄が減って返済する能力がなくなった場合、以後の返済は子どもが自分の収入や貯蓄から行わなければなりません。

万が一の場合に発生する影響とさまざまな制約

親は住宅ローンの契約者ではないので、団体信用生命保険に加入していないはずです。そのため、返済の途中で親が死亡した場合、住宅ローンの残債が子どもに残ってしまいます。親からの相続財産で返済できればよいですが、それができない場合、返済負担はすべて子どもが負わなければなりません。

住宅ローンの契約者である子どもが死亡した場合は、子どもが加入した団体信用生命保険の保険金で残債は完済されます。ただし、子どもに子ども(両親からみると孫)がいる場合、住宅を相続できるのは原則として配偶者や孫であって、親に相続する権利はありません。

また、子どもが今後、他の理由でお金を借りようとした場合、住宅ローンの契約者になっているために、制約を受けることになります。たとえば、教育資金や自動車購入資金、マイホームの購入資金を借りようとする場合、既に契約している住宅ローンの返済額も審査の対象になり、新たに借りる金額に制限が加わり、必要な額を借りられない場合があります。

さらに、住宅ローンを活用して住宅を取得した場合の優遇税制である「住宅ローン減税制度」の適用も受けることができません。子どもは住宅ローンの契約者ですが、その住宅に居住していないために受けられず、親は実質的に返済負担を負っていても住宅ローンの契約者でないために受けられません。

自己資金をできるだけ多く、借入額はできるだけ少なくする!

このように、もともと認められていない「住宅ローンの名義貸し」を無理矢理行おうとすると、さまざまな問題が生じます。名義貸しをした本人の将来の家計を圧迫し、希望するライフプランを実現できなくなる可能性もあります。

「住宅ローンを借りる」ということは、金融機関との信頼関係を基礎に行われるものですので、故意に形式と実態を違えることのないようにしなければなりません。

住宅ローンを借りることができないにも関わらず住宅を取得したい場合には、できるだけ自己資金を多くする必要があります。自己資金であれば、子どもが住宅購入資金の一部、あるいは全部を負担して親の住居を提供しても、何ら問題はありません。

自己資金が不足する場合には、十分な額に達するまで住宅の購入を延期するか、居住する本人が借りられる範囲で住宅ローンを借りて、自己資金と住宅ローンを加えた額に収まるように購入する住宅の予算を抑えることでしょう。

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この記事の筆者
中村宏 ファイナンシャル・プランナー

ファイナンシャル・プランナー(CFP)、住宅ローンアドバイザー

個人相談、セミナー講師、新聞や雑誌・Webの記事執筆や取材協力が主な業務。
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FPオフィス ワーク・ワークス代表

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