アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、2つのテーマで短編小説を募集する『ARUHI アワード2022』。応募いただいた作品の中から選ばれた10月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。

「一週間に一回くらいは電話します。特に用事はないけどかかってくるんです。ちょっと鬱陶しいですね。………はい、心配なんですかね。少しは放っておいてほしいんですけど。はい………できるだけ電話は出るようにします。」
 ちょっと困ったような笑顔を作って答える。
田舎から上京した三年目社会人。都会暮らしにはもうすっかり慣れたのに、未だに田舎の両親はよく電話してくる。鬱陶しいと感じつつも、両親が自分を想っていることも理解しており、そろそろ親孝行したいとも考えている、そんな好青年、の顔だ。
五十路を超えた部長は、満足そうに頷く。「そうそう、いくつになっても親は心配なもんだよ」
「はい。ありがとうございます。」
今度ゆっくり飲みながらでも話そうよ、と締めて、部長が自席に戻る。はい! と元気よく答えておく。
 最初から最後まで展開の読める会話だった。歳を食うとああなっていくのかな。
持ちっぱなしだったサンドイッチを食べるようとすると、具のトマトが落ちてしまった。ハンバーガーにも言えることだが、トマトは挟まれるのに向いた形と質感ではない。自席でのコンビニ飯なら、栄養バランスを気にしてトマト入りのサンドイッチなんて選ぶべきじゃなかった。こういう野菜は洗われすぎて栄養価もほとんどないんだから、と思いながら机に落ちたトマトを、ティッシュで包む。「あーお腹いっぱい」
斜め向かいの席に、ランチに行ってきたらしい石川が戻ってくる。石川は同期の女性社員だ。先月、この部署に公募で異動してきた。それまでは部署の最若手は自分だけだったので、石川の異動は、あまり嬉しくなかった。
「何食べてきたの? 石川ちゃん」
部長が石川に話しかける。
「金子さんとパスタ食べてきたんです。大盛無料だったから欲張ったらすごく多くて……部長がご一緒だったら、ペロッと食べてもらえたんですけどね」
「いやいや僕だって、普通盛で十分だよ」
部長が笑う。石川は僕より、なんというか、愛嬌があった。ショートカットで活発そうで、よく笑うし、目が大きく可愛い顔をしている。目上に対して、多少失礼なことを言っても許される雰囲気がある。
そのおかげか、石川は出社時、必ず誰かとランチに行っていた。僕はたいていの場合、お昼はコンビニで済ます。ランチ代に千円以上かけていられない。ただ部長や課長のランチの誘いは断りづらいので、弁当を用意することはしない。
なんとなく食欲がなくなり、残りのサンドイッチは残した。ゴミを捨てに行くついでに、自販機で紅茶を買う。コーヒーは口臭が気になるし、紅茶のほうがカフェインが多いと最近知った。

席に戻ると、部長と石川は僕を待っていたようだった。
「ねえ、今日の夜空いてる? 部長が飲みに行かないだって」
「あ、空いてますよ」
心底楽しみです、という顔をして答える。
「よかった。じゃあ金丸課長には悪いけど、三人でいこうか」
今日、金丸課長がテレワークだったのは幸いだった。上司二人との飲み会はより疲れること間違いなしだ。
「やったー! ちなみに解散何時くらいになりますかね? 母にラインしておきたくて。」
こういうことをまっすぐ聞けるのも石川のすごいところだと思う。とりあえず今日は残業できない。昼休みはまだ終わっていないが僕は早めに業務に取り掛かった。

 部長が連れてきてくれたのは、個室の和食居酒屋だった。部長も石川もかなりハイペースで飲み、開始一時間ですっかり出来上がっていた。さっきからずっと二人で盛り上がっている。
奇数での飲み会は嫌いだ。特に三人は良くない。二人での会話が盛り上がった時、残った一人は愛想笑いをするしかない。
「だから私は『デスクトップ』の話をしてるのに、母は『タンクトップ』の話をしてるせいで全然話がかみ合わなくって」
「誰だって止めるよ。娘が何十万するタンクトップ買うなんて」
「ほんとアナログで困りますよ」
「ははは、でも我々世代はデスクトップって単語使わなかったからなあ」
「うちは専業主婦ってこともあるんですかね」
「うーん、どう思う?」
突然話題を振られる。でも、しっかり話の流れは把握していた。

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