今日から実践! すぐに始められる家庭での金融教育

2022年に入り金融教育という言葉を聞く機会が圧倒的に増えました。その大きな理由の1つとしては、高校学習指導要領の改訂によって今年の4月から高校の家庭科の授業の中で資産運用をはじめとする金融教育を行うという報道が数多くなされたことが挙げられるでしょう。しかし、学校の授業だけでは十分ではないと考える親も多く、子どもに何をしてあげられるかを気にする声も多く聞きます。今回は海外の事例も参照にしつつ、今日からできる家庭での金融教育について考えていきます。

日本が抱える課題

金融教育の目的として金融リテラシーを高めることが挙げられますが、金融リテラシーはどのように測るのでしょうか?

日本の場合は金融広報中央委員会が3年に一度「金融リテラシー調査」を行っています。一方で、海外の場合は米国FINRA(金融業界監督機構)や OECD(経済協力開発機構)、INFE(金融教育に関する国際ネットワーク)等の海外機関が同様の調査を行っていますが、調査主体も調査内容も完全には一致していません。そのため単純に横比較はできないのですが、共通する質問内容に対する正答率を比較してみると、日本が47%なのに対して米国は50%。また、欧州との比較で見ると、日本の正答率が59%なのに対して、英国が60%、フランスが67%、ドイツが68%となっています。海外との比較に当たっては、金融商品や金融サービス、税制、教育制度等の面で事情が異なるため、幅を持ってみる必要がありますが、日本が海外に比べて金融リテラシーが高いということはないと言えるでしょう。

日本の正答率の推移を見てみると、2016年が55.6%、2019年が56.6%、2022年が55.7%と一切の改善が見られず、金融教育の重要性は何年も前から叫ばれているものの、実態としては何もできていなかったことが明らかです。高校の家庭科で金融教育をしてこの数字がどこまで改善するのかに注目が集まりますが、前述の通り学校の授業だけでは十分とは言えないため、家庭でどのような金融教育をするかが今後の課題になります。

海外の金融教育とは?

それでは、海外ではどのような金融教育が行われているのでしょうか。国ごとに法律や文化、価値観など事情が全く違うため、あくまで参考情報として確認し、日本には日本の事情にあった形でカスタマイズする必要があることを前提としておきます。日本では義務教育が憲法や教育基本法などに準拠しているのに対して、米国の場合は各州の州憲法などに準拠しています。これはつまり、日本が国として教育カリキュラムを制定しているのに対して、米国の場合は州の権限で教育内容が制定されているということです。
 
しかし、米国ではほとんどの州で金融教育は実施されているのですが、驚くべきなのは教育対象年齢です。幼稚園児から高等学校最終学年までが金融教育の対象となっています。ようやく高校の家庭科の中で金融教育について少し触れる程度で盛り上がりを見せている日本とは大きな違いがあることが分かるでしょう。
 
米国における金融教育ではパーソナルファイナンスという言葉が1つのテーマになっています。パーソナルファイナンスという言葉は聞きなじみのない言葉かもしれませんが、その内容はかなり日常生活に根ざしたものとなっています。当然、投資の話も含まれますが、それよりも収入と支出の管理や、ローンなどの借金の考え方、収入を高めるためのキャリアプランなど、個人が人生を送る中でお金とどのようにかかわっていくかという内容になっています。
 
他国についても見てみましょう。英国でも金融教育は行われていますが、こちらもカリキュラムは3歳から組まれています。米国、英国ともに共通するのは子どものころから金融教育を始めているということです。

今日からできる金融教育

子どもに対して家庭でできる金融教育とは何があるでしょうか。2018年から金融教育ベンチャーであるマネネを創業した筆者によく寄せられる質問です。自身も3人の子どもがいるため、いろいろと試行錯誤をしていますが、やはり現金を有効活用すべきだということが現時点での結論です。

子どもと買い物に行くときには会計で現金を使うシーンを見せるようにしています。いきなりクレジットカードやキャッシュレス決済を見せてしまうと、子どもにとってはお金の価値が理解しづらくなります。まるでカードやスマホが魔法の道具のように見えてしまうわけです。

また、わが家ではお小遣いは現金で渡しています。そして、お小遣いはいったん各自の豚の貯金箱にしまわせています。未就学児のタイミングからお小遣いをあげているため、まだ四則演算ができない子どもたちは、貯金箱の中にいくら残っているとか、あといくらためれば何が買えるかなどは分かっていないのですが、ためていくと豚さんが重くなり、いっぱいお金を使ってしまえば豚さんが軽くなるなど、物理的な手触りでお金の価値などを実感させています。

高まる金融教育の重要性

金融リテラシー調査の2022年版を見てみると、OECD調査参加国のうち上位10ヶ国と日本を比較すると、比較可能な正誤問題の正答率(知識面)では「インフレ」についての見劣りが目立っています。これをもって、日本の金融リテラシーが海外と比較して低いとする意見も目にしますが、筆者はそうは思いません。かれこれ20年、30年とデフレ経済を続けてきた日本において、国民がインフレに対する関心や知識を持ち合わせないことは必然でしょう。

しかし、昨今ではコロナ禍におけるさまざまな供給制約、ロシアによるウクライナ侵攻、円安などの影響もあり、日本国内でも徐々に物価上昇圧力は高まっています。このような現状を考えれば、ますます金融教育の重要性は高まったと考えられます。また、最近でも芸能人が投資詐欺のトラブルに巻き込まれたことが連日のように報道されていましたが、メタバースやNFT、Web3など新しい言葉が出てくるたびに、それらの言葉を利用した投資詐欺が発生します。

日本人の多くが金融教育は投資教育と捉え、お金の増やし方を学ぶと考えているようですが、実際にはこのような詐欺からお金を守るための知識も身につけることが金融教育の本質です。そう考えれば、やはり金融教育の重要性は日に日に高まっていくのだなと実感するのであります。

この夏休み、ぜひお子様とお出かけした際は現金で買い物するシーンを見せてあげてください。

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