コロナ禍においてテレワークの普及などが進み、都心から人が出ていく動きが加速しているといいます。移住する先として、ここ数年特に人気なのが、国道16号線沿線のいわゆる「16号線エリア」です。その理由はどこにあるのか、『国道16号線―「日本」を創った道―』の著者、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授 柳瀬博一さんと共に探っていく2回シリーズ。第1回は、16号線エリアが子育て世代に人気である理由を解き明かします。

16号線エリアが子育て世代に人気

2021年の住民基本台帳の人口移動報告によると、東京23区では、人が出ていく“転出”が、人が入ってくる“転入”を上回ったそうです。コロナ禍前は5~7万人程度の転入超過が続いていて、東京都心部へ人が集まっていましたが、ここにきて人の流れが大きく変わっているといえます。

大きな理由としては、やはり2年にわたるコロナ禍でリモートワーク&スタディが、普及したということが挙げられるでしょう。「リモート」というスタイルはコロナ禍以前から存在していましたが、自粛期間中により多くの人に使われたことで、現場にいないとできないもの以外については、リモートで十分だということが理解されました。移動時間の節約や、遠方の人ともやり取りができるなど、多くのメリットがあることもわかってきました。

これまでは「会社から○分」「最寄り駅から○分」という通勤の利便性が、居住地選びで最も重視されてきましたが、リモートで働くことができるようになって「職場との距離」という項目の優先度が下がってきました。

そこで人気になっているのが、郊外や準郊外といわれる地域です。中でも「16号線エリア」は、子育て世代から熱い注目を集めているといいます。

今回は、柳瀬先生と柏の葉キャンパス駅、流山おおたかの森駅に取材に訪れました。この2つの駅周辺は、16号線エリアが注目されている理由がわかりやすく揃っているエリアです。

16号線エリアが子育てに最高なのは4つの環境がそろっているから

「国道16号線」は、神奈川県横浜市を起点として、東京、埼玉、千葉を結ぶ環状線です。
神奈川県相模原市、東京都町田市、八王子市、埼玉県さいたま市、川越市、千葉県千葉市、柏市、木更津市などを通っています。環状線としては、環八(環状線八号線)の外側を巡っています。

では、なぜ16号線エリアが人気を集めているのでしょうか?
それは、子供を「文武両道」に育てるための、最高の環境が整っているからだと柳瀬先生は話します。

16号線エリアが子育て世代に人気なのは、大きく分けて4つの理由があります。

・大学が多い
・スポーツしやすい
・自然が豊か
・アミューズメント施設が多い

1つずつ見ていきましょう。

16号線エリアが子育て世代に人気な理由「大学が多い」

柳瀬先生と取材に訪れたのは、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅です。「ARUHI本当に住みやすい街大賞2020」で、第4位に入るなど、人気の街です。

千葉大学柏の葉キャンパス
千葉大学柏の葉キャンパス。広大な敷地で研究が行われている。

柳瀬博一先生(以下、柳瀬)
「柏の葉キャンパス駅周辺には千葉大学柏の葉キャンパス、東京大学柏キャンパスがあります。

千葉大学柏の葉キャンパスには、環境健康フィールド科学センターが置かれ、環境と健康に関連した園芸学、教育学、薬学、看護学、医学という分野を横断した形の教育が行われています。広い敷地を活かして植物を育成しながら研究を進めつつ、育てた農産物や加工品の直売所などもあって、地域とも結びついています。

東京大学柏キャンパスは、本郷、駒場に次ぐ第3の主要キャンパスとして2000年に造られました。宇宙線や地球表層圏など、最先端科学の分野での研究が行われています」

東京大学柏キャンパス
2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授は、東京大学柏キャンパス宇宙線研究所の所属。

柏の葉キャンパスには、大学だけでなく、科学警察研究所や国立がん研究センター東病院などもあります。

柳瀬
「つまり、ここ柏の葉キャンパスでは、日本最先端の研究を担う人たちが集まっているわけですね。彼らの多くは教育に対する意識の高い人たちですから、自分の子供たちにも質の良い教育を施そうという傾向にあります。

そういった人たちが近隣に居住していることで、周囲の“偏差値”は上がっていきます。大学や研究所などがあることで地域の教育水準が上がっていくのは、こういった背景があります。また2023年には、千葉大キャンパス内に、イギリスの名門パブリックスクールである『ラグビースクール』の日本校が開校する運びです」

16号線エリアには、他にも大学が数多くあります。同じ千葉県柏市には二松学舎大、取手市には東京芸大、印西市には東京基督教大学、千葉市には千葉大、千葉経済大があります。神奈川県横浜市には東工大、横浜国大、関東学院大などが16号線の近くにキャンパスを構えています。

そして、特に多摩地区の16号線エリアには数多くの大学が集まっています。東京都八王子市には中央大、拓殖大、工学院大、多摩美大、東京造形大、都立大、多摩市には大妻女子大、町田市には法政大など。

学生運動が盛んな時期を経て、1980年前後に都心にある大学を郊外に移転する動きがありました。大学は都心からの鉄道アクセスと広い敷地の両方が必要なので、16号線エリアの台地や丘陵地に造られたという経緯もあります。

多摩美術大学
東京都八王子市鑓水にある多摩美術大学
東京造形大学
東京都八王子市宇津貫町にある東京造形大学 16号線を挟んで近くに位置する両美術大学。

神奈川県相模原には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の相模原キャンパスがあります。これも、相模原台地があったために造られた施設です。広く平らでありながら水辺の少ない台地の真ん中は、もともと農業には向いておらず、近代になるまで住宅開発も遅れていました。

16号線エリアには、この相模原台地のほかに、下末吉台地、武蔵野台地、大宮台地、下総台地など複数の台地があり、近代になって軍用飛行場として拓かれました。現在、16号線沿いには、米軍基地と自衛隊基地が多数ありますが、もとはといえば、戦前の日本軍の基地があったところです。

JAXA相模原キャンパス
「はやぶさ2」で一躍有名になった、神奈川県相模原市中央区由野台にあるJAXA相模原キャンパス。地名に「台」がついていることからもわかるように、台地の上に造られている。周囲には、相模原市立博物館や淵野辺公園、県立相模原弥栄高校などがある。

柳瀬
「16号線エリアの街は人口規模が大きく、都心から延びた私鉄駅前には進学塾がいくつもあります。大学がたくさんあるので大学生も多く、家庭教師も探しやすい環境です。郊外でありながら、都心と変わらず小学受験や中学受験のような“都市型”の受験が可能なわけです。

16号線エリアの柏市、流山市、町田市、八王子市、さいたま市などは、コロナ禍以前より、0〜14歳の人口流入が多いことが統計データでも明らかになっています。その理由として、都心に比べて地価や家賃が安く、住居を広く構えることができて自宅の勉強環境を整えやすいという特徴があると思われます。さらに、子供の進学先である大学も、受験対策のための塾も近くにある。子育て世代にとって16号線エリアが人気なのは、このように複数のニーズを全部満たしてくれるエリアだからでしょう」

16号線エリアが子育て世代に人気な理由「スポーツがしやすい」

16号線エリアには、横浜F・マリノス、柏レイソル、ジェフユナイテッド市原・千葉、浦和レッズなどJリーグのクラブが数多く本拠地を構えています。

柳瀬
「Jリーグのクラブは地元密着を理念としていて、若い世代のチーム組織やアカデミーなどを備えているので、地域のサッカーレベルが高くなります。また、利根川、江戸川などの河川敷は、少年野球や少年サッカーのグラウンドがあってチームが多く、スポーツが盛んな地域が多くあります。『勉強ばかりでなく、体も鍛えてほしい』という親の希望がかないやすいエリアであるといえますね。勉強だけでなく、文武両道で子供を成長させるのに適した環境だということです」

もちろん、Jリーグの試合をホームスタジアムで観戦できるという楽しみもあります。

16号線エリアが子育て世代に人気な理由「自然が豊か」

勉強やスポーツだけでなく、子育てにはレジャーも欠かせません。16号線エリアは、こうした面でも良い条件が整っています。

国道16号線は、台地のヘリを通っているという特徴があります。ざっくりいえば、内側に入れば“街”、外側には“自然”という端境にあるのが国道16号線です。

柳瀬
「16号線は三浦半島、相模原台地、多摩丘陵、狭山丘陵、房総半島など、自然豊かな地域を走っています。利根川や荒川、多摩川、相模川といった大河川が近所にあり、海に面したエリアも多くあります。少し足を伸ばすだけで、自然豊かな地域にアクセスできるのです。アウトドアアクティビティ(キャンプ、ハイキング、海水浴、登山など)が満喫できる環境にあるので、趣味やレジャーを楽しみやすいエリアといえるでしょう」

16号線エリアが子育て世代に人気な理由「アミューズメント施設が多い」

16号線の近く、あるいは少し離れた場所には、神奈川県横浜市には八景島シーパラダイスや横浜アンパンマンこどもミュージアム、東京都あきる野市には東京サマーランド、埼玉県宮代町には東武動物公園、千葉県袖ケ浦市には東京ドイツ村など、アミューズメント施設が多いというのも特徴的です。

柳瀬
「16号線エリアにアミューズメント施設が多いのは、都心が始発駅となっている私鉄会社が、沿線を開発する際に終着点にアミューズメント施設を作ったことが起源ともなっています。沿線の住民は、平日は都心のオフィスに向かい、週末は郊外のアミューズメント施設に遊びに行くというライフスタイルを送っていたわけです。16号線エリアは、家族で遊べる場所が豊富なので、余暇の過ごし方にバリエーションができるのも注目を集めている一因です」

取材から見えてきた子育て世代に人気の街

柳瀬先生との取材で、次に訪れたのがつくばエクスプレスの流山おおたかの森駅です。こちらも住みやすい街としてさまざまなランキングの上位に入る街です。

駅の周辺を見ていて気になったのが、散歩をしている保育園児が多いことです。ざっと見かけただけでも、3〜4つの保育園からの“園児の行列”がいました。保育士さんに連れられて、となりの子同士で手をつなぎながら歩く姿は、なんともほっこりした気分にさせます。

柳瀬
「これだけの保育園児がいるということは、それだけ子育て世代が多いということですね。しかも、“保育園児”というところも注目です。子供を保育園に預けているということは、おそらく夫婦共働きの世帯が多いのではないかと推察できます。このあたりも、時代を象徴しているといえるかもしれませんね」

また、駅そのものの作りにも、街が活性化する原因があると柳瀬先生は指摘します。

流山おおたかの森駅南出口の広場
流山おおたかの森駅南出口の広場。クルマは入ることができず、徒歩や自転車が行き交う。芝生やベンチもあり、ちょっとした休憩やお弁当を食べる人たちの姿を見ることができた。小さな子供連れの家族もいて、穏やかな時間が流れている。

柳瀬
「流山おおたかの森駅の南出口には、ショッピングモールが囲むようにして大きな広場が設けられています。ここはクルマが入ることはなく、歩行者が安心して歩き、そしてちょっとした休憩もできるようになっています。街にとって、『歩けること』というのはとても重要で、人の流れによってお店などにも活気が出てくるのです。小さな子供を連れて歩いても安心なことは、子育て世代にはとても大切な要素で、街が人気になるひとつの要因となっているのではないでしょうか」

バスやタクシー、一般のクルマは、西出口や東出口のロータリーを使うようになっていて、明確にクルマと歩行者の動線が分離している作りになっています。

まとめ

16号線エリアが「子育てに適した街」であり、「趣味が存分に楽しめるエリア」「仕事以外の人生の目的に取り組める地域」であります。それは、将来的には「老後を過ごすのに安心な場所」ともなってくるとも考えられます。今後も、16号線エリアの人気は続いていくのではないかと思われます。

お話しいただいた人
柳瀬博一さん
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授(メディア論)
1964年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社し「日経ビジネス」記者を経て単行本の編集に従事。2018年3月、日経BP社を退社、同4月より現職に。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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