「コロナ禍で東京から郊外へ」は本当? 人口統計をもとに専門家が解説

2020年春から新型コロナウイルス感染症拡大が継続し、「都心から人が流出する」「郊外に人が流れる」などということが盛んにいわれてきました。実際はどうだったのでしょうか。人口移動と不動産価格は相互に影響を与えることから、今回、不動産の専門家に話を聞きました。

東京の人口は7ヶ月連続で転出超過

総務省は12月23日、11月の住民基本台帳人口移動報告を発表しました。東京都からの転出者が転入者を3,254人上回っており、7ヶ月連続の転出超過です。東京都への人口集中が緩和されているようですが、問題はその理由です。

ほとんどの報道機関は「新型コロナウイルス感染を踏まえ、人が集まる東京都への転入を控える傾向が続いているとみられる」と報じ、明確にコロナ禍の影響であると分析しています。

例えば、東京近郊の横浜や大宮、千葉に引っ越せばコロナ禍を避けることはできるでしょうか。東京近郊の中規模以上の都市でもかなりの人口密度です。駅前やショッピングセンターなどは相当な混雑具合であることに変わりはありません。

2021年4月19日付の東京新聞では東京23区からの転出者がどこに移ったのかを分析しています。それによれば、1位が藤沢市(神奈川県)、2位が三鷹市(東京都)、3位が横浜市中区(神奈川県)です。4位以下は小金井市(東京都)、川崎市宮前区(神奈川県)、川崎市高津区(神奈川県)、船橋市(千葉県)、鎌倉市(神奈川県)、つくば市(茨城県)、横浜市港北区(神奈川県)となっています。コロナが怖くて東京から脱出したという話ではないことが一目瞭然です。

都心は不動産価格が高騰しすぎた状態

画像素材:PIXTA

なぜ東京から人口が流出しているのでしょうか。個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所の長嶋修会長はこう説明します。

「東京都の人口流出は、23区に限っていえば、圧倒的に外国人が多い。そもそも、新規で入国する外国人がいなくなりました。日本人に関していえば、流入のペースが鈍化したに過ぎません。都心から郊外に移動するケースも多少はありましたが、それは都心の不動産価格が高くなりすぎたからです。現在の低金利を利用して、郊外に住宅を求める人が増えました。潜在的に地方移住しようと考えていた人の中には、コロナ禍をきっかけに移住した人もいたでしょう。コロナがきっかけを作ったということはあるかもしれませんが、民族大移動みたいな流れにはなりませんでした」

2020年1年間で外国人3万人が減った

住民基本台帳によれば、2020年1月1日時点の東京の人口総数は1,383万4,925人、そのうち外国人は57万7,329人です。2021年1月1日時点の人口総数は1,384万3,525人で、うち外国人は54万6,436人となっています。つまり、外国人が東京都から30,893人減っています。

これは2020年1年間の数字ですが、2021年になってさらに外国人が減ったであろうということは容易に想像がつきます。例えば、コロナ禍で多くの外国人留学生や技能実習生は帰国を余儀なくされました。

なお、住民基本台帳は「住民票」の数字をまとめたもので、ビジネスや観光で長期滞在していた外国人は含まれていません。

2021年1月29日の出入国在留管理庁発表によれば、2020年の外国人入国者数は約431万人で、前年比約86.2%の減少です。1950年の統計開始以降最大の下落率となりました。よって、数字以上に都心の“人口減少感”は大きいかもしれません。

長嶋さんが指摘するように、東京のマンション価格はバブル状態といえます。民間調査機関の不動産経済研究所の調査によると、10月の首都圏新築マンション平均価格は、1戸当たり6,750万円。これはバブル期の1990年を超えて過去最高です。

東京23区に限れば8,455万円(前年同月比11.8%上昇)になっており、東京23区が首都圏全体の平均価格を押し上げる形となっています。8,455万円という価格は、平均的なサラリーマンが購入するにはかなりハードルが高そうです。

コロナ禍でも利便性重視の住宅選びは変わらない

テレワークの影響はどうでしょうか。

公益財団法人日本生産性本部は2021年10月21日、第7回「働く人の意識調査」結果を発表しました。これは、新型コロナが組織で働く人の意識に及ぼす影響を継続的に調査したものです。

それによれば、テレワークの実施率は22.7%で、2020年7月調査以降、2割前後で定着しています。また、テレワーカーの直近1週間における出勤日数が週当たり3日以上、58.8%でした。ちなみに、まったく出社しないという完全テレワークは12.4%です。

コロナ禍をきっかけに、テレワークを導入した会社がかなり増え、日本生産性本部は「テレワークが一定程度、定着」と分析しています。

長嶋さんは、コロナ禍であっても住まい選びは依然として利便性が重視されていると話します。

「2020年4~5月の緊急事態宣言中には、ネットで住宅を探す際、検索範囲が郊外や地方物件へと拡大し、情報閲覧や資料請求なども増加しました。しかし、宣言が解除されると、そのトレンドもすぐにしぼんでいきました。むしろ『密を避けるため公共交通の利用を極力避けたい』『通勤時間のムダを削減したい』などの理由から、通勤や買物の利便性を重視する傾向が強まっています」

日本生産性本部の調査によれば、テレワークを実施していても週の半分以上はオフィスに出勤している企業がほとんどとのこと。まったく出勤せずに自宅で自己完結するという業種・職種は、IT系などのごく一部に限られます。そうなると、首都圏よりさらに遠方への思い切った地方移住はかなり難しいかもしれません。

現在、オミクロン株の感染拡大が懸念されていますが、今後も都心の不動産価格への影響について注視していく必要がありそうです。

<取材協力>
さくら事務所

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