菌に負けない家事テクニックを伝授! 抗菌博士が教える掃除の基本とは

一般的に、お正月は普段よりも家の中で過ごす時間が長くなります。久しぶりの帰省や集まりで来客が増える人も多いのではないでしょうか。お正月休みを楽しんでいる人も、年末に大掃除ができないほど忙しくしている人も、新年のスタートは「家のきれい」を保っておきたいものです。

そこで大切になってくるのが日々のちょっとした家事。衛生管理にまだまだ気を使う状況だからこそ、効果的に菌対策を行いながら家事するテクニックをご紹介します。お話を伺ったのは、銀系無機材抗菌剤を製造・販売しているシナネンゼオミックの梶浦義浩さん。梶浦さんは抗菌博士として同社で研究を行い、小学生向けの出張授業なども行っている菌のスペシャリストです。

菌対策は「抗菌」「殺菌」「除菌」の3種類

菌と聞くとマイナスイメージを抱きがちですが、一概に悪いものだということはできません。広く知られている通り乳酸菌など体に有益な善玉菌もたくさんあり、常在菌として私たちの体の内外に生息しているからです。

クリーンルーム(防塵室)の空気中の菌を採取
クリーンルーム(防塵室)の空気中の菌を採取し、3日間培養した様子。菌は空気中にはもちろん、人間の皮膚にも1,000種類ほど棲んでいます。(画像提供:シナネンゼオミック)

「身の回りで無菌状態を保つことは、はっきり言うと不可能です。そして無菌にする必要もありません。人間に悪さをする菌ばかりではないからです。私たちが日々の暮らしの中でできる悪い菌への対策は抗菌、殺菌、除菌の3つがあります」(梶浦さん)

抗菌は、ものの表面で菌を増やさないこと。菌の増殖を抑えて、菌が住みにくいような環境を作ることです。私たちの身近にある抗菌加工の商品は、菌が増えないよう加工されていることを表しています。

殺菌は、そこに存在する菌を殺すこと。商品に「殺菌」と記載できるのは、薬機法により効果が認められた医薬品、医薬部外品だけです。ただし殺す菌の数や種類についての基準はありません。

除菌は、菌をそこから取り除くこと。殺すわけではなく、あくまでその場からいなくなるという意味です。風で菌が吹き飛ばされたり、水で菌が洗い流されたりするだけでも除菌になります。

掃除の基本は、菌を殺して増やさないこと

菌対策に使用する洗剤やその他の掃除アイテムには、抗菌や除菌という言葉がよく使われています。使い分けの判断に迷うという声もよく耳にしますが、基本は菌を殺して増殖を抑えることだと梶浦さんは言います。

「家の中ではカビも気になりますよね。カビは菌の仲間で真菌の一種です(カビ、酵母、キノコの仲間)。菌にはいい菌と悪い菌がありますが、特にカビは殺菌しなければどんどん増えていく悪いものです。悪い菌は、いったん菌がいない状態に戻してから抗菌して増殖を防ぐことが大切。もともと増えている状態で抗菌対策をしても、あまり意味がありません。菌を殺すのには界面活性剤が含まれている洗剤類や塩素系の漂白剤が最適です。これらを使ってものを洗ったり拭き掃除したりすれば、菌は死んで洗い流されていきます」(梶浦さん)

梶浦さんによると、家の中で菌やカビが増えやすいのは、水のある場所。キッチンや浴室、そして冬場は結露で窓ガラス周辺にも多く発生します。

キッチンではシンクをできるだけ乾いた状態に

最も多くの菌が存在しているのは、キッチン。調理や皿洗いで常に水を使うためです。キッチンでの菌対策は、こまめに水気を切ることだそう。

「水のあるところで菌が増えるということは、逆に乾燥させておけば増殖を防ぐことができるということです。皿洗いのスポンジは使ったらぎゅっと手で絞り、できるだけ水を切りましょう。まな板など調理器具に黒いカビがあるのを見つけたら、すぐ塩素系漂白剤に浸けて殺菌してください。その後で抗菌スプレーを吹きかけるなどしておけば、効果が長持ちします」(梶浦さん)

スポンジは濡れたままだと菌が増殖
スポンジは濡れたままだと菌が増殖。しっかり絞ってから保管を。最近では抗菌剤が練り込まれた抗菌スポンジも増えています。

調理台やテーブルを拭くためにふきんを使っている人は要注意。

「濡れ布巾は菌の温床です。濡れたままテーブルに置いておくのはもってのほか。24時間以内に煮沸消毒または塩素消毒をして殺菌してください。使用後に布巾(ふきん)を吊るして乾かしておくだけでも、菌の増加はある程度抑えられます。要は乾燥させることが大事なのです。管理が面倒であれば使い捨てのペーパーに切り替えても」(梶浦さん)

ふきんを使った後はなるべく乾燥させて
ふきんを使った後はなるべく乾燥させて。濡れた状態でテーブルに置きっぱなしはNG。

浴室は換気第一! 便利アイテムもうまく使って

浴室も、水にさらされている時間が多いため菌が増えやすい場所。基本はキッチンと同じで、殺菌できる洗剤を使ってカビをはじめとする菌を殺してから抗菌します。

「煙などで天井まで届く浴室用の防カビ剤は、菌を増やさずカビの発生を防ぐのに役立つ優秀アイテムです。浴室用の塩素漂白剤でまず殺菌してから使いましょう。すでに発生しているカビを、防カビ剤で取り除くことはもうできません」(梶浦さん)

日頃から菌の増殖を抑えるためには、湿気をいかに取り除くかがポイントになってきます。

換気扇を使って湿気を逃す
換気扇を使って湿気を逃すことが大切。窓を開ければさらに効果的です。(画像素材:PIXTA)

「本来は壁や浴槽の水気を拭き取るのがよいですが、毎日続けるのは難しいものです。お風呂に入った後すぐ換気扇を回したり、窓があるなら開けて浴室全体を乾燥させたりするだけでも菌は増えにくくなりますよ」(梶浦さん)

窓の結露対策はしっかりと。見つけたらすぐ拭き取りを

リビングや寝室などで気をつけたいのは、窓の結露です。

「冬場によく起こる結露は発生しないようにするのが一番ですが、もし結露ができてしまったらすぐにタオルなどで拭き取りましょう。それだけでもカビの予防に効果的です。結露を放置するとカーテンにカビが生えてしまうことも。カビを見つけたらカーテンを洗剤でしっかり洗って殺菌し、抗菌スプレーを使って菌が増えるのを防ぎます」(梶浦さん)

結露はカビが発生する原因に
結露はカビが発生する原因に。カビの胞子は吸い込むとアレルギーを発症する恐れもあります。(画像素材:PIXTA)

部屋の拭き掃除には塩化ベンザルコニウムもおすすめ

部屋のあちこちの拭き掃除にはアルコールスプレーを使っている人が多いはず。アルコールスプレーは除菌を目的としています。

「アルコールスプレーでもいいのですが、私はより広く菌対策ができる塩化ベンザルコニウムもおすすめしています。塩化ベンザルコニウムはドラッグストアでも手に入る医薬品。殺菌消毒ができ、新型コロナウイルスよりも感染力が何倍も高いノロウイルスにも有効とされています。水で100倍から200倍に薄めて手指の消毒に使えるし、スプレーボトルに入れて拭き掃除に使うと部屋の菌対策にもなります」(梶浦さん)

塩化ベンザルコニウムを水で薄めたスプレー
塩化ベンザルコニウムを水で薄めたスプレーは家のあちこちの拭き掃除に使えます。(画像素材:PIXTA)

菌は完全に取り除くことができない! 神経質になりすぎないのがコツ

梶浦さんによると、菌に気をつけて拭き掃除するのはダイニングテーブルやドアノブくらいで大丈夫。棚上や床は、もともと乾燥しているため菌の増殖についてはあまり気にしなくてもいいそうです。

「基本的に、乾燥した状態なら菌はほとんど増えません。乾燥しすぎると逆にウイルスが活発化して増えてしまうので、部屋の湿度は50〜60%に保っておくのがベストです。神経質になって棚の上や床を除菌シートで拭くよりも、エアコンのフィルター掃除をこまめに行うほうがむしろ菌対策になります。エアコンが汚れていると、菌の胞子を部屋中に拡散させることになるからです」(梶浦さん)

どれだけ掃除を頑張っても、菌をゼロにするのは不可能です。掃除後に菌が残っていたとしても、それは常在菌。もともと自分についている菌なので健康で免疫力が高い状態ならば問題ないと梶浦さんは言います。

「一緒に住んでいる家族であれば菌叢(きんそう:多種多様な菌の集まり)にはそれほど違いがないため、躍起になって除菌しなくても大丈夫。掃除前後に何度も手をアルコール消毒する必要もありません。むしろ体にいい常在菌まで殺すことになってしまいます」(梶浦さん)

同居家族以外の人が家に上がったり、他人が自分の携帯電話が触ったりしたあとなどに除菌シートで拭けば、それで十分。

接触する回数も時間もどんどん増えている携帯電話
接触する回数も時間もどんどん増えている携帯電話。自分以外の人が使うときには要注意。(画像素材:PIXTA)

人は、菌とある程度共生しながら暮らしていくもの。とはいえ、増えすぎて困らないように日々の家事でちょっとした工夫を重ねていきたいですね。菌の増殖を抑えるポイントは、濡れたままの環境をなるべく作らないこと。殺菌してから抗菌するという流れを守ること。今すぐできる対策ばかりなので、このお正月からぜひ取り入れてみてください。

取材協力・写真提供(一部)/シナネンゼオミック

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