東京五輪が住宅価格ピークの真相はいかに? 大会終了後も上がり続ける都心の価格

2021年の東京オリンピック・パラリンピックが終了すれば、施設建設などの特需がなくなって景気が失速、住宅価格も下がるのではないかという見方がありました。しかし、実際には下がるどころか上がり続けています。それも、マンション・一戸建て、新築・中古を問いません。なぜなのでしょうか。

東京23区の新築マンション価格は8,000万円台に

不動産経済研究所では毎年10月に、その年度の上半期(4月~9月)の新築マンションの平均価格を調査しています。

その結果が図表1ですが、首都圏全体では2018年度上半期の5,762万円を底に、19年度には6,006万円と6,000万円台に突入し、20年度が6,085万円で、21年度は6,702万円という結果でした。21年度の前年同期比は10.1%と二桁台のアップです。

なかでも、その上昇を牽引しているのが東京都区部の新築マンション。20年度上半期の平均が7,421万円に対して、21年度上半期は8,686万円まで上がっています。こちらは前年同期比17.0%の大幅アップです。

それとは別に、21年に入ってからの毎月の新築マンション発売動向をみると、4月と8月には首都圏の平均価格が7,000万円台に達し、東京23区だけに限ると、何と平均でも1億円台の大台乗せになったのです。それでも、契約率は70%前後の高い水準を維持して、順調に売れています。

オリンピック後の反動不況などどこ吹く風で、新築マンションの価格上昇が続いているのです。

出典:不動産経済研究所「マンション・建売市場動向(過去情報一覧)」

「首都圏・近畿圏マンション2017年度~2021年度上半期」
出典:株式会社不動産経済研究所「首都圏・近畿圏マンション2017年度~2021年度上半期」

中古マンションも前年同期比で11.7%アップ

中古マンションも負けてはいません。図表2にあるように、18年度第2四半期(18年7月~9月)の平均成約価格の1平方メートル当たりの単価は51.85万円に対して、19年度は53.72万円、20年度が55.63万円で、21年度は60.78万円です。21年度は前年度同期に比べて9.3%のアップです。先の新築マンションの二桁台には及びませんが、やはり大幅な上昇です。

なかでも、東京都区部は、20年度第2四半期の82.43万円が、21年度には92.08万円ですから、前年同期比では11.7%のアップです。やはり東京都区部が牽引する形で、中古マンション価格が上がり続けているといっていいでしょう。

1平方メートル当たり92.08万円ですから、専有面積70平方メートルの物件だと約6,446万円です。それでも新築マンションの平均8,686万円に比べると2,000万円以上安いのですから、価格面での中古マンションの魅力は小さくありません。

「季報Market Watch」
出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「季報Market Watch」

23区の中古戸建住宅は2年間で11.1%のアップ

戸建住宅もやはり上がっています。東日本不動産流通機構が4月に発表した「首都圏不動産流通市場の動向(2020年度)」によると、首都圏新築戸建住宅の平均成約価格は19年度の3,503万円が、20年度は3,575万円と前年度比2.1%のアップです。マンションのような急激な上昇ではありませんが、ジワジワと上昇しています。それより動きが急なのが中古戸建住宅です。

中古戸建の各年度の第2四半期(7月~9月)の成約価格の平均は図表3にある通りです。首都圏全体では20年度第2四半期が3,162万円に対して、21年度は3,471万円ですから前年同期比は9.8%のアップです。

さらに東京都区部だけでみると、20年度の5,717万円に対して21年度は6,010万円で、前年同期比は5.1%の上昇です。近年の底値だった19年度(図表3)の5,411万円からすれば2年間で11.1%上がったことになります。

戸建住宅については、海外発の“ウッドショック”“メタルショック”と呼ばれる、原材料費の高騰も影響しています。大手メーカーは値上がり前に契約した部材のやり繰りでしのいできましたが、最近は値上がり後の高い部材を使わざるを得なくなっており、あるメーカーの経営幹部によると、「3,000万円から3,500万円の注文住宅で、200万円ほどのコストアップとなっている」としています。今後、その影響が本格化するため、価格上昇に拍車がかかる可能性もあります。

「季報Market Watch」
出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「季報Market Watch」

大手住宅メーカーの受注高も増えている

21年11月初旬には、不動産会社や住宅メーカーの21年度第2四半期の決算が発表されましたが、こうした住宅価格の上昇を受けて、多くの会社が増収増益の決算となっています。たとえば、大和ハウス工業の21年3月期決算の戸建住宅の受注金額は2,108億円でしたが、22年3月期は当初2,320億円の計画だったのを、このほど2,450億円に上方修正しています。また、ヘーベルハウスの旭化成ホームズでは、21年度上半期の戸建住宅の受注高が1,463億円で、前年同期比43.6%の増加。21年度通期でも受注高2,870億円、前年同期比19.4%の増加を見込んでいます。

マンション分譲を行う大手不動産の三菱地所の22年3月期の第2四半期(21年4月~9月)決算のリリースをみても、用地取得難などから分譲戸数は減っていますが、「国内分譲マンション販売状況は好調で、今期の売上見込みの約97%が契約済み。利益率も向上」とされています。

21年11月現在、新型コロナウイルス感染症は比較的落ち着いているとはいえ、経済はまだまだ回復しているとはいえません。しかも、オリンピック後の反動景気で住宅価格は下がるのではないかとみられたものの、実際に上がり続けているのです。

大和ハウス工業の決算資料33P
旭化成ホームズの決算資料3P
三菱地所の決算資料2P

オリンピック景気もなければ反動もなし

オリンピック後に下落するという観測の背景には、前回の1964年東京オリンピック後に発生した“昭和40年不況”の苦い体験が挙げられます。オリンピックに向けて、東海道新幹線や首都高速道路の建設などのインフラ整備が急速に進められ、それが景気を牽引してきましたが、オリンピックが終了して、そうした需要が止まり、経済は失速しました。GDP(国内総生産)変動率は63年度の10.4%、64年度の9.5%が、65年度には6.2%にダウンしました。マイナスではありませんが、それまでは10%前後で推移していましたから、一気に景気停滞感が強まってしまったのです。

今回のオリンピックでもそんな懸念が囁かれたのですが、60年代の日本といまの日本では大きな違いがあります。今回のオリンピックに向けて整備されたのは新国立競技場などの一部施設で、鉄道や道路などのインフラ整備への影響はほとんどありませんでした。ですから、オリンピック景気という盛り上がりに欠けた反面、その後の反動もほとんどなかったといっていいでしょう。

GDPに関する参考データ

コロナ禍で住まいへの思いが強くなった?

いまひとつ、2020年から始まったコロナ禍が、住宅にとってはむしろプラスになった面がありそうです。

たとえば、住宅メーカーの三菱地所ホームの代表取締役社長・加藤博文氏は、21年10月下旬の新商品発表の記者会見の挨拶で、「コロナ禍で在宅時間が長くなっており、住宅にかける思いが強まっています。おかげで当社の受注も順調で、1棟当たりの平均単価は6,000万円台に乗せました」としていますし、同様の発言は不動産会社や住宅メーカーの経営幹部からも聞かれます。

在宅時間が長くなり、家族全員が家で過ごす時間が増えた結果、狭苦しく感じると同時に、自分たちの将来やそのなかでの住まいの位置づけなどについて考え、語り合う機会が増えたのではないでしょうか。それが住宅購入につながっているわけです。

※加藤社長の発言は山下が記者発表の席で聞いたものです。

コロナ禍でマイホーム取得に動き出す人が増加

それは、さまざまなデータからも裏付けが可能です。株式会社リクルートの「住宅購入・検討者調査(2021年)」では、コロナ禍で住まい探しが「抑制された」とする人が22%いる反面、「促進された」とする人も20%に達しています。しかも、首都圏だけでみると、「抑制された」が16%に対して、「促進された」が24%と、むしろコロナ禍をキッカケに住まい探しに動き始めた人のほうが多いのです。

また、不動産流通経営協会の調査でも、図表4にあるように、コロナ禍によって住宅購入に影響を受けたとする人のうち、54.3%の人が「当初予定より、購入時期を早くした」としています。年収が400万円未満の人だと、そうはいってもマイホームの取得は簡単ではないので、36.8%に下がるのですが、年収800~1,200万円では62.1%と6割を超えます。

一定の年収に達している人たちの多くが、コロナ禍をキッカケに住まい探しに動き始め、実際に購入するようになったため、需要が高まった結果、価格を押し上げる要因になったという考え方ができそうです。

リクルートの調査6P、7P

「不動産流通業に関する消費者動向調査(2021年度)」
出典:一般社団法人不動産流通経営協会「不動産流通業に関する消費者動向調査(2021年度)」

コロナによる住まいの立地先選びへの影響は少ない

コロナ禍の当初は、在宅勤務が増えたこともあって、郊外や地方への住み替えを考える人が増えたといわれましたが、最近は感染者数が減少していることもあって、出社を求める会社が増えています。そのため、やはり住まいを探すなら、都心やその周辺の利便性の高い場所でなければと考える人が増えているのではないでしょうか。それが、先に触れたように、首都圏のなかでも、東京都区部の価格を押し上げる要因になっているのかもしれません。

事実、不動産流通経営協会の調査では、図表5にあるように、住まいの立地先選びについて、「コロナ前は利便性の高い場所にする予定だったが、コロナの影響で郊外の住宅を選択した」とする人が16.1%いるものの、「特に影響はなかった」とする回答が80.7%を占めています。

今後、感染者数がさらに減少、以前の生活が戻り始めるにつれて、そうした傾向がさらに強まってくるのではないでしょうか。

利便性の高い住まいを求める傾向が強まれば、首都圏、なかんずく東京都区部への人気が高まり、価格の上昇が続くことになりそうです。しばらくは首都圏を中心とする住宅価格の上昇が続くことになるのかもしれません。

「不動産流通業に関する消費者動向調査(2021年度)」
出典:一般社団法人不動産流通経営協会「不動産流通業に関する消費者動向調査(2021年度)」
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