あの大手企業も転勤制度を廃止? 転勤制度のウラ側とニューノーマルな働き方

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年の春から不要不急の外出を自粛する人が増え、働き方も大きく変わりました。多くの企業がテレワークを導入しましたが、アフターコロナを見据えて「これからも在宅勤務を継続するか否か」の岐路に立っています。そうした中、企業から言い渡されれば避けて通ることができなかった「転勤」や「単身赴任」の制度を見直す動きが出ています。

「転勤制度」が普及した背景とは?

日本の企業の多くが、一度入社すればよほどのことがない限り定年まで働くことができる「終身雇用制度」や、勤続年数や年齢に応じて昇進して給料が上がっていく「年功序列賃金」を取り入れてきました。その代わり、望まない人事異動の内示が出ても従う風潮があり、それに伴う転勤も少なくありませんでした。

人材を採用後に仕事を割り振られ、企業に決められたポジションで働くいわゆる「メンバーシップ型雇用」が主流の日本に対し、欧米諸国では、職務内容を限定し、勤務地や勤務時間などを定めたうえで人材を割り当てる「ジョブ型雇用」のスタイルが一般的なため、基本的に会社都合の転勤がありません。
「メンバーシップ型雇用」の企業では、職務の変更や部署異動を行うことでさまざまな業務を経験して理解を深める「ジョブローテーション」による人材育成が一般的です。そのため、さまざまな場所での勤務を経験する「転勤制度」も定着したと考えられます。

「転勤制度」の実態は?

正社員(総合職)の転勤状況の円グラフ
独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の転勤の実態に関する調査(2017年10月)」から筆者作成

労働政策研究・研修機構の「企業の転勤の実態に関する調査(2017年10月)」によると、正社員(総合職)のほとんどが転勤(転居を伴う配置転換)の可能性がある企業は33.7%、転勤をする人の範囲は限られている企業が27.5%、転勤はほとんどない(転勤が必要な事業所がない)企業が27.1%で、会社の規模が大きいほど転勤の可能性が高まる傾向にあるようです。また、転勤命令の決定方法については、8割近くの企業が会社主導に近い形で決定しています。多くの人が自分の意思と関係なく転勤を言い渡されてきたわけですが、転勤が決まると生活環境はどのように変わるのでしょうか。

「転勤制度」のメリットとデメリットは?

転勤制度の一般的なメリット・デメリットの表
転勤制度の一般的なメリット・デメリット(筆者作成)

転勤のメリットは、スキルアップや昇進、各種手当による収入増

転勤を受けることで、新たな仕事を経験して成長し、視野が広がり、人脈や情報を得ることもできるでしょう。また、転勤を受け入れることで年収がアップしたり、転勤が終わったタイミングで昇進・昇給したりすることも多く、キャリアアップの意味ではプラスに働くことが多いでしょう。
金銭的にも、就業規則次第でさまざまな手当が付くことが多く、転勤に伴う引っ越し費用に始まり、赴任先の家賃を「住宅手当」として支給し、単身赴任であれば「単身赴任手当」や「帰省手当」が出る企業も多いようです。家族で転勤する場合は、子どもの転校や転園に関する費用を負担する企業もあります。

海外駐在員などの場合はさらに手厚く、自動車やガソリン代、お手伝いさんの雇用にかかる費用の負担、危険地帯や発展途上国などの場合は「危険手当」が付くことも。共働きで働けなくても、家族が余裕を持って暮らせるだけの収入が約束されるケースが多いようです。

転勤のデメリットは、マイホーム所有の難しさや家族の負担

その一方で、転勤の内示が出たら短期間で引っ越しの準備を進める必要があります。持ち家があれば、「売るか」「貸すか」「留守の間どこかに管理を依頼するか」といった選択を早期にしなければなりません。
既婚者が転勤になると、家族とともに引っ越すのであればパートナーの退職、子どもの転園・転校などが必要になります。もしくは、家族と離れて単身赴任をしなければなりません。妊娠中や子どもが小さいうちに単身赴任となれば、残されたパートナーの肩に家事や育児の負担が重くのし掛かります。

転勤の打診をきっかけに、6割以上の人が退職を検討

転職に関する意識調査の棒グラフ
出典:エン転職「転勤に関する意識調査」

「エン転職」が2019年、サイトユーザーを対象に実施したアンケートによると、6割以上の人が「転勤は退職を考えるキッカケになる」と回答しています。また、若い世代ほど転勤を機に退職を考える人が多いことも明らかになっています。共働き世帯が増加し、働き方が多様化する中で、転勤を受け入れ難いと感じる人は少なくないのかもしれません。企業側から見ても、転勤を理由に優秀な人材が流出してしまうリスクがあります。従来の転勤制度は、時代に即していない部分があると言えるのではないでしょうか。

転勤制度を改め、ニューノーマルな働き方を推奨する会社が続々?

本人が希望しない転勤を廃止する制度を導入したAIG損害保険や、育児や介護の期間中であれば最大5年間は転勤を回避できるようになったキリンなど、転勤制度を見直す企業の動きは、新型コロナウイルスの感染が拡大する前から静かに始まっていました。

コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの普及で転勤制度を見直す企業が急増しています。JTBは2020年10月に、転居せずに転勤ができる「ふるさとワーク制度」を導入。会社に登録している「居住登録地」でのテレワークをベースとし、引っ越さずに勤務を続けることが可能です。
また、NTTが2021年9月の記者会見で、「職住近接によるワークインライフの推進」として、グループ社員の転勤や単身赴任を原則廃止にする意向を表明したことは記憶に新しいところ。リモートワークを基本とする勤務環境を整えることで段階的に実現する方針で、大企業の決断に驚いた人は多いでしょう。

NTT以外にもコロナ禍の収束後もリモートワークを継続する企業は少なくありません。たとえばトヨタ自動車は2021年8月から、仕事と介護や育児を両立しやすい環境を目指し、在宅勤務が可能な業種であれば職場からの距離制限を撤廃すると発表。出社が必要な場合は距離を問わず、交通費が全額支給される見通しです。
ヤフーは2020年10月に、リモートワークの回数制限とフレックスタイム勤務のコアタイムを廃止。時間や場所に縛られずに働けるようになりました。
2021年10月にはLINEが、「LINE Hybrid Working Style(ライン・ハイブリッド・ワーキング・スタイル)」を始動。組織や職種の特性に応じてオフィス勤務と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方により、在宅勤務や自宅以外での一時的なリモート勤務を可能としています。

まとめ

かつては年功序列が主流だった日本も、結果が重視される成果主義型の企業が増え、「どこで、どれだけ働いたか」よりも「どのような成果を出したか」を重視する企業が増えてきました。また、これまで転勤族は、いつ辞令が下りて引っ越しになるかわからず、住宅購入をためらいがちでした。転勤制度を廃止する企業が増えれば、マイホームの購入を決断できる人が増えていきそうですね。

~こんな記事も読まれています~

この記事が気に入ったらシェア