原油価格がここまで高騰しているワケ、家計にはどのように影響する?

最近、車で買い物に行くとガソリンが高い、お肉の値段が高いなど、ジワジワとモノの値段が上昇している印象を受けます。消費者物価指数を報じるニュースでは日本は物価が上がらないデフレ状態だという解説を見るのに、生活における実感は真逆だと思います。今回はモノの値段が上昇する裏側を見ていきましょう。

なぜ原油価格が高騰しているのか?

2020年の春先に原油価格が急落したのはまだ記憶に新しいかもしれませんが、実はそれ以降の原油価格は右肩上がりで上昇し続けています。下図は国際的な指標であるニューヨーク市場の原油先物価格の推移ですが、10月下旬には1バレル=83ドルを突破し、7年ぶりの高値を記録しました。

原油価格の推移グラフ
画像:WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)のデータを基に株式会社マネネが作成。

特に今年の4月頃からコロナ前の水準を超えて、さらに高値を付けていったのですが、この背景には米国や中国をはじめ、各国がコロナの収束に伴い経済活動を再開したことがあります。供給側では人員不足や施設のフル稼働ができないなどの制約を受ける一方で、需要が一気に高まったことでこの価格上昇につながっているのです。

ここまで原油価格が上昇すると、コスト高に苦しむ企業や家計が逼迫(ひっぱく)する個人が声を上げるため、通常であれば先進各国が国際エネルギー機関(IEA)と連携して石油輸出国機構(OPEC)などの主要産油国に増産を働き掛けますが、世界的な脱炭素の流れがあるため、産油国が増産に及び腰であることも供給制約の一因となっており、なかなか根深い問題に見えます。

また、為替相場では来月にもテーパリング(金融緩和の縮小)が開始されると予測されており、かつ資源国でもある米国の通貨、ドルの需要が高まった結果、対ドルで円が安くなっていることも日本人にとっては厳しい状況をつくっています。円安になることで輸入品の価格は高くなってしまうためです。

ドル円相場の推移グラフ
画像:日本銀行のデータを基に株式会社マネネが作成。

原油高と円安の影響でレギュラーガソリンの店頭価格は今年の5月から上昇しています。レギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均価格は10月4日時点で2018年10月以来、約3年ぶりの160円台となっており、自動車を運転する人にとっては非常に痛い水準まで高騰しました。

ガソリン価格の推移グラフ
画像:資源エネルギー庁「給油所小売価格調査」のデータを基に株式会社マネネが作成。

影響は食肉などにも波及

エネルギー価格の高騰に伴い、食肉など他の品目にも価格高騰の波が押し寄せています。米国から輸入している冷凍牛肉を部位ごとに見てみると、すべての部位で卸売価格(仲間相場)が高騰していることがわかります。特に牛タンは昨年の秋頃から倍近く値段が上昇しています。

牛肉の価格変化グラフ
画像:独立行政法人農畜産業振興機構のデータを基に株式会社マネネが作成。2019年1月の価格を100として指数化。

エネルギー価格が高騰すると輸送費などの物流コストが上昇しますから、その分が食肉の値段を押し上げる要素になります。牛肉に関してはさらに、中国での急激な需要増という別の要因もあります。下図は米国食肉輸出連合会のデータをグラフ化したものですが、今年に入り、牛部分肉における米国からの輸入量が急増していることがわかります。

米国から中国への牛肉輸出量の年別比較グラフ
画像:米国食肉輸出連合会のデータを基に株式会社マネネが作成。

米国は失業補償が手厚いため、なかなか食肉加工場での働き手がコロナ前の水準にまで戻らないことや、コロナ禍で中国がコンテナの生産・供給を減らしたために世界的なコンテナ不足になっていることなど、ほかにもさまざまな食肉価格上昇につながる要因が存在し、食肉価格はしばらく高止まりすると予想されます。

値段の変動から経済は学べる

このように、ガソリンの値段が高いとか、食肉の値段が上がってきたという生活の実感から経済を学ぶことは可能です。なぜ高くなったのか、という疑問に対してその答えになり得るいくつかの仮説を用意します。そして、その仮説が正しいのかを国や各産業界が発表しているデータを見て確認すれば、それだけで経済の仕組みが見えてきます。

ちなみに日本銀行が発表している9月の企業物価指数(速報)を見てみると、国内需要財の輸入品価格は前年同月比31.3%上昇しており、やはりエネルギー価格だけでなく、モノの値段が上昇していることがわかります。内訳を見てみると素原材料輸入品は同74.0%も上昇している一方で最終財のうち、耐久消費財の輸入品価格を見てみると同3.6%となっています。上昇はしているものの、素原材料に比べればその上昇幅が極めて小さいことが分かります。

これは日本人に染み付いたデフレマインドによって、企業が原材料高を価格転嫁すると買い控えが生じることを恐れ、企業努力でなんとか自社内でコストアップ分を吸収しようとしていることが読み取れます。しかし、企業もボランティアで事業をやっているわけではないですから、利益を維持するために非正規雇用を増やしたり、ボーナス金額を抑えたりするなどの対応をすることにより、結果的に家計の購買力を下げることにつながってしまいます。

賢い買い物を心掛けよう

これまで見てきたように、しばらくは生活必需品の値段が下落していくことは期待できません。エネルギー価格や食肉価格だけでなく、たとえば食用油も11月から今年度4回目の値上げが予定されています。モノの値段が上昇する一方で、消費の原資となる給料やボーナスは上昇する気配がないため、私たち消費者は賢い買い物を心掛ける必要があります。

足元のモノの値段が上昇する中で、スーパーは特売の回数を減らしているという話を聞きますが、それでも特売日はあるため、そのような日を狙って買い物をしたり、アプリで配信されるクーポンやポイントが増えるイベントを活用したりするなどの工夫ができるはずです。また、食肉についてはジャンボパックやファミリーパックと呼び名はさまざまですが、通常よりも多くの量を割安な値段で提供することがありますので、そのようなモノを買って冷凍保存することも家計を守る手段になるでしょう。

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