最近は、「省エネ」というより「カーボンニュートラル」というワードが良く使われています。「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことですが、菅義偉内閣総理大臣(当時)による「2050年カーボンニュートラル宣言」の影響が大きいのでしょう。この背景には、地球温暖化対策として各国に、2050年までにCO2排出量の大幅削減やカーボンニュートラルの実現を求めた「パリ協定」(2015年採択)が関係しています。

待ったなしの地球温暖化対策としてカーボンニュートラルが進められるなか、最後まで残っていた、新築の「住宅」に対する省エネ基準の適合義務化も動き出しました。現行の省エネ基準とはどういったものか、義務化されると住宅価格はどうなるのかなどについて、説明していきましょう。

ついに新築住宅も2025年度に省エネ基準の適合義務化へ?

菅総理(当時)の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、国土交通省・経済産業省・環境省の3省が連携して、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を2021年8月に公表しました。

これによると、2050年にカーボンニュートラルを目指すためには、2030年には「新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB(※)基準の水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていること」が求められるというロードマップを描いています。

※ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)のことで、省エネによって使うエネルギーを減らし、太陽光発電などで創り出したエネルギーを使うことで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにする住宅やビルのこと。それぞれ略して「ゼッチ」「ゼブ」と呼ぶ

2030年に住宅がZEHレベルになるには、2025年にすべての新築住宅で省エネ基準の適合化を義務づけたうえで、2030年までにその基準をZEHレベルに引き上げるというステップを踏む道筋になっています。

実は、新築住宅への省エネ基準の適合義務化は、以前から予定されていました。住宅ではない中規模・大規模建築物では、すでに省エネ基準に適合させることが義務づけられています。300平方メートル以上のマンションなどの住宅では、「届け出義務」(所管行政庁が内容を確認し、省エネ措置が判断基準に適合していない場合には、指示・命令等を行うことができる)の段階です。

ところが戸建ての住宅では地元の工務店などが建てる場合が多く、現行の省エネ基準の計算が難しいことがハードルになりました。そのために小規模な工務店への研修を行う必要があることなどから、300平方メートル未満の住宅では「努力義務」や「説明義務」(建築士が建築主に省エネ基準の適否などを説明する)の段階となっていました。それがいよいよ、すべての住宅で適合義務化に踏み切ることになりそうです。

適合義務化される「省エネ基準」とはどんなもの?

「省エネ基準」は実は、法改正に応じて、たびたび強化されてきました。省エネ基準は、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」によって、昭和55(1980)年に制定され、省エネ法の改正に連動して、平成4(1992)年、平成11(1999)年、平成25(2013)年に改正・強化されています。

さらに、省エネ法に代わって「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が成立し、省エネ法の平成25(2013)年基準がほぼスライドする形で、建築物省エネ法の平成28(2016)年基準となりました。これが現行の「省エネ基準」です。新築住宅は、この現行の省エネ基準に適合するように建てなければいけなくなるわけです。

では、現行の省エネ基準とはどんなものでしょうか?

住宅の省エネ基準は、次の2つの基準を満たす必要があります。

○住宅の窓や外壁などの外皮性能を評価する基準
○設備機器等の一次エネルギー消費量を評価する基準

一般財団法人建築環境・省エネルギー機構「住宅の省エネルギー基準」より転載

簡単に言うと、建築的な手法で建物の壁や床・天井などの構造部分や窓の断熱性能を高くしたうえで、エネルギーをつくったり、エネルギーを使う際に効率的に使ったりする設備を設置することで、エネルギー消費量を抑えることが求められます。

「省エネ基準」の適合義務で、住宅価格は上がる?

さて、住宅を建てたり買ったりする側から見ると、2025年度に新築住宅のすべてに省エネ基準が適合された場合、建築費のコストアップで負担が増加するかどうかが、気になるところでしょう。

新築マンションでは「届け出義務」が課せられていることもあって、すでに現行の省エネ基準を満たしている場合が多く、「適合義務」になったからといって急にマンション価格が上がることはないでしょう。

戸建ての場合は、国土交通省のパンフレット「ご注文は省エネ住宅ですか?」によると、新築時に省エネ基準に適合させるためにかかる費用例として、約87万円という試算がされています。その分コストアップになるになる可能性はありますが、実際に適合義務化が決まった場合は、政府が補助金などを用意する可能性もあります。

とはいえ、建築費のコストアップは性能向上によるものなので、断熱性を引き上げたことでヒートショックや熱中症などのリスクが減ったり、エネルギー効率が上がったことで光熱費が抑えられたりと、性能向上によるメリットも数多く受けられます。負担が増えるとしても、家族の快適な暮らしには代えがたいと思います。

目指すべき最終水準のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは?

省エネ基準とは「最低ここまでは満たすべき」というものです。政府は最終水準として、ZEHを目指すとしています。ZEHは、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入することによって、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した住宅のことです。

出典:経済産業省資源エネルギー庁「家庭向け省エネ関連情報・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」

ZEH住宅を建てるには、太陽光発電設備を設置するなどして電力をつくることが必要になるので、それに伴う費用負担も生じるでしょう。反面、その分は電気代が抑えられることに加えて、停電時にも電力を確保できるなどのメリットもあります。

まだロードマップが提示された段階なので、必ずしもロードマップ通りになるとは限りませんが、住宅の省エネ規制が強化されれば、これから家を買ったり建てたりする人にも大きな影響を及ぼすことになります。今後の政策に、私たちも注意を払っていく必要があるでしょう。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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