非常時こそ家庭に優しい!? 電気自動車を住宅の設備として考える時代へ

これまで、移動の手段のひとつだったクルマ。しかし近い将来主流となる電気自動車は災害時にも自宅で家族が安心して過ごせる、心強い「装備」になります。その装備を最大限活用するための、これからの時代に見逃せない住宅設備を紹介します。

これからのクルマが災害時でも家で過ごす家族を守る

今や、エネルギーや環境問題は世界的な関心事。自動車業界では、国内外の自動車メーカーがこぞって、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンだけで走るクルマの生産・販売を数年後までに終了させ、今後は電気自動車や燃料電池車などに置き換えるという宣言が続いています。その動きは自治体でも。2020年末、東京都は2030年までにガソリン車だけの車の販売をゼロにするという目標を掲げました。

クルマと言えば電気自動車、という時代がすぐそこまで来ていると言えます。

これからのクルマの主力となりそうな電気自動車は「家」と家族に安心をもたらすモノとなることをご存じですか?
まずは、最近、電気自動車を購入した人の体験を紹介します。電気自動車は、家と家族にどのような安心をもたらしてくれたのでしょうか。

電気自動車のメリットは“経済的”なだけではない

取材に応じてくれたのは、千葉県内に在住し、都内の通信会社に勤める山本達哉さん。山本さんは、4年ほど前に、電気モーターとガソリンエンジンで走行するハイブリッド車を購入。それ以来、身の回りの環境に大きな変化が見られたと言います。

山本さんのハイブリッド車は、外部から電気を充電できるプラグインハイブリッド方式のクルマです。そのため、自宅の電源からクルマのバッテリーに充電する設備も導入しました。

自宅の電源から供給する電気を、クルマのバットリーへ充電するために変換する充電器。写真提供:山本さん

これで、夜間やクルマを使わない間、自宅のカーポートで充電をすることができます。フル充電状態なら、40〜60km程度はガソリンを使わず、モーターだけで走行可能です。

「近くのスーパーへ買い物に行く程度なら、電気だけの走行で十分。ガソリンタンクの容量は40L程ですが、給油するのは2〜3ヶ月に1回程度です。自宅の電気はオール電化仕様のため、夜間を充電にあてれば、電気代は安価なうえに、ガソリン代がぐっと抑えられ、妻も喜んでいます。でも、電気自動車にして良かったと実感したのは『経済的』な面ではありません。災害時に停電になっても、安心して生活できるという『安心感』です」(山本さん)

停電時の不安がないという、「安心」が手に入る

山本さんのプラグインハイブリッド車は、クルマのバッテリーに貯めた電気を、家電製品に供給できるそうです。クルマには家庭用の電気製品が接続できるコンセントが標準で装備され、ここに電気製品のプラグを接続すれば電気製品を使うことができます。

日本ではここ数年、大型台風や大雨による災害が多く発生しています。山本さんが住んでいる千葉県も例外ではなく、2019年には大型台風が頻発し、土砂崩れ、洪水、大規模停電が相次いで起こりました。停電も長引けば深刻な事態になりかねません。しかしその不安をクルマが解消してくれるのだと言います。

「万が一停電になっても、クルマのバッテリーの貯めた電気を使って、扇風機やライト、炊飯器や電子レンジなど家電製品を動かすことが出来ます。さらにガソリンエンジンを使えばそこからも電気を発電し、バッテリーに充電できるため、約一週間は持ちそうです。災害はいつどこで起こる可能性がある今、クルマのバッテリーを家電製品に使える事ができることは、何物にも代え難い安心感があります。今では、台風シーズンは毎日フル充電にしておくことを心掛けるようになりました」(山本さん)

クルマの荷室に家庭用電源を装備。通常の家庭用電源のように使うことができる。写真提供:山本さん

電気自動車があれば、停電にも対応出来ると言う安心感は、山本さんの家族にとって、これまでにない大きなメリットになっていました。

「V2H」があれば、電気自動車のメリットを最大限に活用できる

停電時に電源として使用できる電気自動車のメリットを最大限に活用するために、現在注目されている住宅用設備が「V2H」です。「V2H」とはVehicle to Homeの略(クルマから家へ、の意味)で、電気自動車への充電と、必要に応じて、電気自動車のバッテリーに貯めた電気を住宅へ給電する、二つの機能を備えています。

太陽光発電システムとも連携して充電したり、クルマの電気を家庭へ供給したりできる。イラスト提供:デンソー

家電事情にも詳しいモータージャーナリスト会田肇さんによれば、このシステムは今後の家にとって、非常に重要な装備になると言います。

「クルマから電気を供給する方法はいくつかあります。車内にコンセントを装備し、そこに家電製品をつないで稼働させる方法は最も手軽な方法です。しかしV2Hがあれば、さらに家中の電気機器へ電気を給電することが出来ます」(会田さん)

V2Hは電線から家へ電気を供給するように、家の電気システムへ接続して直接給電できる設備。そのため、個々の家電製品どころか、ルームライトやエアコン、テレビ、IHや冷蔵庫など家の電気をまるごと供給できることが大きなポイントです。もちろん、電気自動車のバッテリーへ急速充電も可能。このV2Hはすでに複数のメーカーから発売されています。

デンソーのV2H充法電器「DNEVC-D6075」。普通充電器(200V)に比べ、最大約2倍早く充電でき、クルマの電気を家に供給することもできる。価格はオープン価格(編集部調べによる実勢価格は約120万円)。写真提供:デンソー

「電気自動車は、移動ができる大きな家庭用バッテリーのようなもの。V2Hがあれば、電気自動車を移動の手段としてだけではなく、電力の供給源としても活用することができるのです。また、ソーラーパネルを装備し、余剰電力を電力会社へ売っていた家庭も、今後はその売り値が安くなり、メリットが小さくなる可能性もあります。その場合でも、余剰電力は電気自動車のバッテリーに蓄え、必要な時に自宅に電気を供給することで電気を最大限に有効活用できるようになるわけです。V2Hの設置にはそれなりの工事が必要になり、費用もかさみます。しかし、今後10年前後で少なくとも新車は電気自動車を選ぶ確率が高くなっています。今はクルマを所有していなくとも、これからの家にはカーポートと同様に必要な装備になると言えます。これから家を建てる、家を購入すると考えるのであれば、決して見逃せないでしょう」(会田さん)

集合住宅でもV2Hは装備できるのでしょうか。クルマがすべて電気に置き換わる時代が来るとすれば、集合住宅の駐車場での対応も気になります。

「集合住宅でも、充電設備を整備するケースは少しずつ見受けられますが、各世帯へ電気を供給するV2Hとなると、なかなか難しく、業界全体の課題と言えます。まずは戸建て住宅からですね」(会田さん)

まとめ

今はクルマを所有していない人でも、家族が増えたり、ライフスタイルの変化などにより、この先クルマを購入する可能性もあるでしょう。これから戸建ての購入や建築を考えている人は、家と家族の安心のためにも検討したい装備と言えそうです。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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