オンライン完結型の音楽レッスンサービスが新聞でニューノーマル(新常態)ビジネスとして話題になったのは今年の3月のこと(「会員が毎月3割増、この『オンライン音楽教室』が絶好調な理由」日経ビジネス2021.3.30配信)。

記事中には、「長引く巣ごもり生活で、楽器をもう一度手にしてみようかと考える人が増えている」とありましたが、いまどきの住宅事情を考えると気軽に楽器演奏をしても大丈夫なのか心配です。そこで集合住宅の楽器演奏事情に詳しいプロにお話を伺ってきました!

楽器演奏可能な集合住宅には3タイプあり

お話を伺ったのは「音楽賃貸ネット」の店長・東原正樹さんです。同サイトは15年ほど前にスタートした「安心して楽器が演奏できる物件」を専門に手掛ける不動産仲介サイト。池袋にある実店舗に行くと、楽器別の物件ファイルや「東京周辺音楽大学分布図」といったオリジナル資料を目にすることができます。さっそく、楽器可物件についてレクチャーしていただきました。

楽器可物件には次のような3タイプがあるそうです。

1.楽器相談可(防音設備なし)
2.楽器可(防音設備なし)
3.楽器可(防音設備あり)

楽器可物件の大半は防音設備なし!

「大手不動産仲介サイトで検索してヒットする楽器可物件の多くは1の『楽器相談可(防音設備なし)』タイプです。一般的に賃貸物件の場合、楽器演奏に関する明確な取り決めが無い場合が多いため、管理会社やオーナーさんは『楽器の演奏もいいですよ。ただし趣味程度、常識の範囲内の時間帯で周りからクレームが来ないように』と言ってくれます。ただし『常識の範囲内』という定義は曖昧で人によって違いますから、演奏する時間や音量には慎重に検討する必要があります」(東原店長)

お互い様物件なら安心⁉

2の『楽器可(防音設備はなし)』という物件は、鉄筋コンクリートのマンションで夜8~9時くらいまでは演奏OK。ただし音漏れはする、だから音漏れについてのクレームはなしですよ、という了解の下で入居するのが前提の物件だそうです。

「われわれは『お互い様物件』と言っていますが、建物内の住人は『お互い様』でも外に音が漏れれば近隣からクレームが来る場合があります。なので、どこにでも存在するわけではなく、地域の方の理解がある音楽大学周辺や沿線に存在するケースが多いですね」(東原店長)

防音設備ありでも音漏れはする!

もっとも楽器演奏がしやすそうなのが、3の『楽器可(防音設備あり)』ですが、建築段階で防音施工されている建物もあれば、各部屋に防音設備を後付けする場合もあり、完全に音漏れしない物件はほとんどないと言います。

「楽器可(防音設備あり)物件の場合、外部には音漏れしないとしても建物内ではある程度音が聴こえてきます。生活音は軽減されても楽器の音は結構大きいですからね。そのため、『隣の住人が夜勤明けで帰ってきて昼間で寝ていたい』なんて場合は、クレームが出ないとも限りません」(東原店長)

つまり、どのタイプの物件を選んだとしても、どんなに管理会社やオーナーさんに理解があっても、集合住宅で楽器を演奏するには様々な配慮が必要だということです。

音を出さない、振動させない、がトラブル回避のカギ

集合住宅で楽器演奏をするなら音が外に漏れないヘッドフォン付きの電子楽器は必需品

「楽器可、楽器相談可の物件であっても、知らない土地に引っ越してきていきなり楽器を演奏したらトラブルになるのは当然。音の出ない電子楽器を使う、消音装置を使うなどの配慮が必要です。特に騒音と感じられやすいエレキギターは演奏NGの物件が多いのですが、これは入居当初は遠慮してアンプにつながずに演奏していても、慣れてくるとちょっとくらいならとアンプにつないで音を出してトラブルになることがあるからです。アンプにつなぐと振動も発生しますからね。同様に、振動が発生する低音の楽器も要注意です。バリトンサックスやコントラバス、打楽器なども音だけでなく振動がクレームの原因となります」(東原店長)

会社員として働く傍ら趣味としてジャズバンドでセッションを楽しんでいる土田耕一さんも、家での練習はコントラバスを使用せずサイレントタイプの楽器にヘッドホンを活用しているそうです。現在住んでいる中古で購入した分譲マンションは、入居後に楽器可であることを知ったとか。

「管理規約では夜でなければ楽器可となっているものの、実際に演奏したら管理人から苦情が来ました。たぶん階下か隣の部屋の人がクレームを入れたのでしょう。だから今は、共鳴ボディのあるコントラバスではなく共鳴ボディのないサイレントタイプの楽器かエレキベースでヘッドホンを使用して練習するようにしています。ただサイレントタイプの楽器でも床にエンドピン(床に突き立てて楽器を支える金属製の棒)を立てたり、エレキベースでアンプを使ったりすると振動が床に伝わってしまいますから、すごく気を付けています」(土田さん)

土田さん愛用のサイレントベース。床に接地させずにストラップを付けて肩掛けで、ヘッドホン使用で練習しているそうだ

歌声は楽器より不快に感じる人が多い!?

東原店長にお話を伺っていて意外だったのは、楽器の音より声の方が不快に感じる人が多いということです。

「一般的に、楽器音より人の歌声の方が不快に感じる人が多いようで、以前、物件探しに来られた声楽家の方は警察に通報されたことがあったそうです。悲鳴と勘違いされて通報されてしまったと…」(東原店長)

そこで、プロの声楽家の方に集合住宅における音楽事情についてお話を伺いました。
声楽家・合唱指揮者として活躍する青木洋也さんは奥さまもリコーダー奏者。以前住んでいたマンションでエレベーター内にクレームを貼り出された経験があるそうです。

「ある日エレベーター内に『声楽と管楽器の音が漏れています』と書かれた貼り紙を目にして、これは間違いなくうちへのクレームだなと。十分気を付けていたつもりだったのですが、不快に感じる人がいる以上そこに住み続けるわけにはいきません。なので、それをきっかけに引っ越しました。今住んでいるマンションは、楽器可物件(防音設備あり)であることと、隣の部屋が昼間は仕事に行っていて不在となる一人暮らし用の賃貸物件であることが決め手となって入居しました。その上で、隣室に一番近い窓は防音ガラスにしてあります」(青木さん)

青木さんは今の住まいに引っ越して以来15年以上、クレームは来ていないそうです。

「音を出したい」だけでなく「音を遮りたい」人も増加中

在宅ワークやオンライン授業などが一気に広がったここ一年、「音を出したい」だけでなく「音を遮りたい」というニーズも高まっているといいます。

「在宅ワークをする場合、それまで耳にすることのなかった日中の音が気になるケースが出てきています。ユーチューバーのような映像や音楽を配信する人も、外部からの音は遮りたいわけですし、e-スポーツもチーム内でコミュニケーションを取るために遮音する必要があるようですね」(東原店長)

防音はマンションの付加価値の一つ

東原さんによると、20~30年前に比べると防音設備の施されたマンションが増えているといいます。それは楽器を演奏する人が増えたからではなく、付加価値のためだそうです。

「厳密に数えたことはありませんが感覚的には以前比べ3割増しくらい防音物件が増えている気がします。防音物件と同様にペット可物件も増えていますよね。それも単にペットと一緒に暮らせるだけでなく、ドッグランがあったりエントランス脇に洗い場を設けたりとバリエーションが豊富になってきています。ほかにも、室内にバイクを置いて修理ができるガレージ付きの物件など、住まいとしての機能以外の付加価値を持たせたマンションが増えてきているのです」(東原店長)

まとめ

マンションのような集合住宅に住む場合、楽器の演奏に限らず、音を出したい人も遮りたい人も周囲への配慮が必要なのは当然です。集合住宅で楽器を演奏するときは、

・まずは楽器可物件なのかどうか確認する 
・さらにどのタイプの『楽器可』なのかしっかり把握する
・演奏する時間帯を決めて必ず守るようにする
・防音設備の有無にかかわらず消音器・弱音器を用意しておく
・許可を得て簡易式の防音設備を設置する
・楽器演奏をする部屋の窓ガラスを防音ガラスにする

以上の点に留意して、ぜひ楽器演奏を楽しんでください!

〈取材協力〉
メジャーハウジング株式会社 『音楽賃貸ネット』店長/東原正樹さん  https://ongaku-chintai.net/
青木洋也さん/声楽家・合唱指揮者  http://hiroyaaoki.com/
土田耕一さん/会社員

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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