マンションの「設備・仕様」はどんな歴史的進化をしてきた?|マンショントレンド分析

マンションの設備・仕様は日進月歩の勢いで進化しています。その進化の過程を見ることは、今後どんなふうに変化していくのかを示しているのかもしれません。特に、「天井高」「スラブ厚」などのマンション仕様はこの四半世紀ほどの間に劇的に進化してきました。その結果、マンションは一段と安全・安心で、かつ暮らしやすくなっています。

マンション選びでは設備・仕様を重視する人が多い

マンションの設備・仕様は建物の安全性、快適性などを大きく左右する重要な要素です。

図表1は、実際に首都圏で新築マンションを買った人たちが、マンション選びに当たって、何を重視しているかを聞いた質問の結果を示しています。

トップは「価格」で、以下交通の便や住戸の広さなどが続いていますが、9位に「住戸の設備・仕様」が入っています。9位とはいえ、47.9%ですから、半数近くの人が設備・仕様を重視していることになります。

ひと口にマンションの設備・仕様といっても、さまざまな要素がありますが、今回は仕様面について、生活する上で大きな影響を与えそうな部分を中心に、どのように変化し、今どうなっているのか、今後はどうなるのかなどについて見てみましょう。

出典:株式会社リクルート「2020年首都圏新築マンション契約者動向調査」

最近のマンションの天井高は2.4~2.5メートルが標準に

マンションの床面から天井までの高さを示す天井高。建築基準法では最低でも2.1メートルと定められているのですが、2.1メートルでは圧迫感がありますし、実際に背の高い人だと、ちょっと背伸びした瞬間に頭を打ちつけてしまいそうです。

マンションが世の中に広がり始めた1960、70年代の天井高は今に比べるとかなり低く、2.2メートルや2.3メートルが中心でした。それが、最近では2.4メートルから2.5メートルが標準となり、最近では上層階のプレミアム住戸では2.7メートル、2.8メートルといったマンションもめずらしくなくなっています。

一般的なマンションでは、2.5メートルあるかないかが判断基準になりそうです。5センチメートルの違いでも開放感、圧迫感に大きく影響してきますから、選択に当たっては気を付けておきたいところです。

リビングでは2メートル以上のハイサッシが増加

天井高に関連して、窓の高さ、広さも重要な要素です。

マンションの窓は大きく分けると、床面から窓が広がる「掃き出し窓」と、床面から一定の高さの「腰高窓」があります。腰高窓は成人の腰の高さ程度に設置されているため、この名称があります。寝室などの窓は腰高窓が多く、リビングの窓は掃き出し窓が一般的になっています。ただし、築年数の古い中古マンションではリビングが腰高窓になっている物件もあります。

リビングに関しては、最近は天井まで届きそうなハイサッシが増えています。

通常のサッシの高さは1.8メートル程度ですが、ハイサッシだと2メートルを超え、最近のマンションでは2.1メートルというケースもあります。

当然、ハイサッシほど開放感があり、眺望が広がりますが、上の階のバルコニーの奥行きが長いとハイサッシでも日差しが期待したほどには入らないことがあります。また、省エネ性能の高い複層ガラスなどになっていないと、断熱性が乏しく、光熱費が高くなるといったデメリットがあるので注意が必要です。高さだけにこだわるのではなく、現実的な判断が欠かせません。

スラブ厚は20センチメートル以上が標準に

鉄筋コンクリート造のマンションの上下階を分ける床板のコンクリートの厚さをスラブ厚といいます。マンションの構造を支える梁と一体的に造られ、内部に碁盤の目状の鉄筋が入り、強度を高めています。このスラブ厚が大きいほど地震に対する強度が高くなり、上下階の音を遮断する遮音性能も高くなります。

建築基準法では最低8センチメートル以上と定められており、1980年代までは13センチメートルから15センチメートル程度の物件が多かったのですが、2000年前後から15センチメートル以上のマンションが増加、最近では20センチメートル以上が標準になっています。20センチメートルあれば、上下階の物音がさほど気にならなくなります。

新築マンションであれば20センチメートル以上が必須と考えたほうがいいのですが、中古マンションのなかには20センチ未満のケースもあるので、物件ごとに確認しておく必要があります。

遮音性能を判断する場合には、スラブ厚だけではなく、床の施工方法も重要です。スラブに直接フローリング材などを張り付けた「直床」という施工方法よりも「二重床」という施工方法のほうが遮音性能は上がります。二重床はスラブにボルトを立てて、その上にフローリング材などを載せることでスラブと床の間に空間を設け、音や熱を伝わりにくくしています。配管もしやすいのでリフォームが容易というメリットもあります。

特に、2000年に施行された住宅品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)以降に建築されたマンションのほとんどは二重床になっています。

最近導入が増え始めているマンションの全館空調

最近の新築マンションでは、省エネ仕様、バリアフリー仕様が当たり前になっています。これも、2000年の住宅品確法による住宅性能表示制度で、省エネ性能やバリアフリー性能について等級制度が設けられ、多くのマンションで住宅性能表示を行うようになったため、急速に広がりました。

各種の環境性能に対応した物件も増えています。たとえば、東京都ではマンション環境性能表示で、一定規模以上のマンションについて、「建物の断熱性」「設備の省エネ性」「太陽光発電・太陽熱」「建物の長寿命化」「みどり」の5つの環境性能を示すラベルの表示を義務付けているので、チェックしやすくなっています。

また2003年の建築基準法の改正によって24時間換気が義務化され、0.5時間に1回の換気回数が必須とされました。2020年以降のコロナ禍においては、この換気に一層の関心が高まっているのは周知の通りです。

その一環として注目されているのが、1台のエアコンで住居の隅々まで空調を行き渡らせる全館空調です。採用している物件はまだ少ないのですが、初期費用が若干高くなっても、1台のエアコンで済むため、ランニングコストを大幅に削減できるというメリットがあります。もちろん、地球環境に貢献できるという満足感も得られます。今後はより多くのマンションで採用されるようになるのではないでしょうか。

東京都マンション環境性能表示の例 出典:東京都環境局ホームページ

新築マンションではペットとの共生が当たり前に

2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で外出自粛、在宅勤務の増加などで、ペットを飼う人が増えているといわれています。図表2にあるように、犬猫ともに新規飼育数が増えているのです。

最近の新築マンションでは、ペット可が当たり前になっていますが、新築マンションでペット可が定着したのは、そう昔のことではありません。株式会社不動産経済研究所の調査によると、1990年代までは新築マンションでもペット可の物件は1割以下でした。それが、急速に増えて、2007年には9割近くに達し、その後、ペット可が当たり前になったこともあって、この調査は行われていません。

従って現在では新築マンションではペット不可の物件を探すほうが難しいかもしれません。なかには、さまざまな事情で犬猫などは苦手という人もいるでしょうから、ペット可のマンションでは、エントランスなどにペット用の足洗い場を設置する、エレベーターにペットが乗っていることを示すペットサインを設置するなどの対応が取られているかを確認するようにしたほうがいいでしょう。

もちろん、中古マンションに関しては2000年以前完成物件ではペット不可が当たり前だったので、その後管理規約の変更などにペット可になっているかどうかなどをチェックしておく必要があります。逆に言えば、ペットが苦手な人は、2000年以前完成の中古マンションを探すほうがいいかもしれません。

出典:一般社団法人ペットフード協会「2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査結果」

各種仕様の水準から居住性や価格の妥当性を判断

マンションの仕様は時代によって刻々と変化、進化しています。新築マンションであれば、天井高、スラブ厚などのレベルを確認、一般的な水準と比較すれば、その物件の居住性や価格の妥当性などを類推できるのではないでしょうか。
また、中古マンションの場合には現在の最新仕様とどの程度の差があるのかを見ることで、リフォームの必要度、価格の妥当性などを判断できるかもしれません。

それだけに、マンション仕様の各項目について、最新の動向を把握しておくことが大切なのです。

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