マンションの空き家問題に改善の兆し? 中古マンション独自の施策とは

近年マンションの空き家が増加しています。管理費や修繕積立金の滞納などが増え、退去者が増える負のスパイラルに陥る物件が多くなるのではないかと懸念されています。国は2010年代からさまざまな中古マンション流通促進策を実施しています。マンションに住んでいる人だけではなく、これから購入を考えている人にも気になる動きといっていいでしょう。

2018年のすべての住宅の空き家率は13.6%に

総務省統計局が5年に1度実施している「住宅・土地統計調査」によると、2018年のわが国の住宅の総数は6,242万戸で、このうち空き家は846万戸に達しており、住宅総数に占める空き家率は13.6%に達しています。

前回2013年の調査では13.5%でしたから、0.1ポイントの増加で、高止まりしている状況であり、空き家の増加になかなか歯止めが掛かりません。

空き家といえば、過疎地の廃屋などをイメージする人が多いかもしれませんが、実は大都市部に多いマンションでも増加しているのです。

国土交通省の「平成30年度(2018年度)マンション総合調査」によると、全国のマンションの空室率は平均で2.7%ですから、全体の空き家率13.6%に比べると少なく、さほど心配する必要はないように感じますが、そうともいえないのです。

※参考:住宅・土地統計調査のデータ
    国土交通省「マンション総合調査」

築深マンションでは空室率が平均でも1割を超える

このマンションの空室率を完成年次別に見ると、図表1のようになっています。3ヶ月以上の空室の割合はブルーの折れ線グラフですが、1969年以前に完成したマンションでは10.9%に達しています。平均で1割を超えるということは、中には2割、3割といった物件があるのかもしれません。

1970~74年完成のマンションは8.4%で、1975年以降は5%を切るものの、それでも2015年以降の築浅物件は3.6%とかえって空室率が高くなっています。

この空室が、所有者や居住者の交代による一時的なものであれば問題はないのでしょうが、実際は所有者の所在不明・連絡先不通となっている戸数が少なからず存在しています。平均すると空室のうち4.7%が所在不明・連絡先不通となっているのです。

図表1のオレンジの折れ線グラフですが、空室割合は基本的に完成年次が古いほど高く、2015年以降を除けば新しいほど低くなるのに対して、所在不明・連絡先不通割合は1980年代から2000年初頭完成のマンションでも5%台の高い水準となっています。築後年数がさほど長くないマンションでも、所在不明・連絡先不通の住戸が存在しているわけです。

出典:国土交通省「平成30年度マンション総合調査

イギリスでは住宅市場の85.9%を中古が占めている

空室が増えて、所有者との連絡も取れない状態では、管理費や修繕積立金の徴収が不可能ですから、資金不足から管理が行き届かず、計画通りの大規模修繕などが難しくなり、ますます住みにくくなります。こうした結果、退去者が増加し、荒れ放題になるといった負のスパイラルに陥る可能性が高まります。

空き室の多いマンションが増えると防災・防犯上の問題だけではなく、景観などの面でも印象が悪くなる要因になりますから、国としてもさまざまな施策を実施しています。

日本では欧米先進国に対して、住宅流通に占める中古住宅のシェアが極めて低いのが特徴です。(図表2参照)

イギリスでは年間の住宅流通戸数のうち85.9%が中古で、新築住宅はごく一部にすぎません。アメリカでもほぼ同様で、中古住宅が81.0%を占めています。

一方、日本では中古住宅のシェアは14.5%にとどまっています。中古住宅への評価が低く、市場での評価が低いことが、中古住宅の空き家率、中古マンションの空室率を高くしているのではないでしょうか。

出典:国土交通省「既存住宅市場の活性化について」(2020年5月)

中古住宅流通促進のための施策が本格化

中古住宅のイメージアップを図り、中古市場を活性化してマンション流通を促進、空室化を少しでも防ごうと、国はさまざまな施策を展開しています。

中古住宅全般については、2018年4月から「安心R住宅」制度がスタートしています。これは中古住宅にまつわる「不安」「汚い」「わからない」といったマイナスイメージを払拭(ふっしょく)し、「住みたい」「買いたい」と感じる中古住宅の流通を促進しようとする制度で、耐震性などの一定条件を満たす物件の広告には、国が定めた安心R住宅のロゴマークを使用できるようになっています。

同時に、「インスペクション(建物状況調査)」の説明義務化も実施されています。中古住宅の契約時にインスペクションに関する説明を義務化するもので、インスペクションの浸透によって、中古住宅の流通を促進していこうとするものです。

長期優良住宅の認定制度見直しの動きも

2021年以降、中古住宅の中でも「中古マンション」に的を絞った施策が次々と開始あるいは開始を予定しています。

・修繕積立金用リバースモーゲージ(2021年4月から)

所有者が亡くなった後に、長期の空室化を防ぐため、住宅金融支援機構が区分所有者の将来の修繕積立金を一括払いで融資し、区分所有者が亡くなった後に、担保物件を売却して返済する仕組みです。

・長期優良住宅の見直し(2022年2月から)

これまで長期優良住宅の認定を受けるためには、一戸ずつ個別に申請しなければならず、それが中古マンションの認定申請を阻害する要因になっていました。それを一棟単位で管理組合が申請できるようにして、中古マンションの基本性能を判断しやすくして、流通を促進しようとするものです。

・管理計画認定制度(2022年4月から)

管理組合の運営や管理状況、修繕計画などの内容について認定制度を導入、管理内容の見える化を図り、購入希望者など外部からも管理レベルの良しあしを判断しやすくして、やはり流通の促進に役立てようとする制度です。

中古住宅の住宅ローン減税額の拡充などの要望も

今後は、さらに、さまざまな面で中古住宅流通促進のための施策が期待されます。

たとえば、大手不動産流通業者の業界団体である不動産流通経営協会では、記事末尾に抜粋記載している【不動産経営流通協会の2022年度税制改正要望】のような点を挙げています。住宅ローン減税制度においては、中古住宅の最大控除額は200万円ですが、それを300万円にする、築年数要件を緩和して、より住宅ローン減税を利用しやすくすることなどを求めています。

これまでの中古住宅流通促進策の強化の流れを見れば、2022年度の採用は難しくても、いずれは実現されるかもしれません。

中古マンションの流通市場はさまざまな面で整備が進んでいます。これまでのように、わかりにくい、不安、心配といったマイナスイメージを払拭、安心して購入できるようになりつつあるといっていいでしょう。

ますます強化される中古マンション流通促進策。今後の動向にも十分注目しておきたいところです。

【不動産経営流通協会の2022年度税制改正要望(抜粋)】

・一般要件としての最低床面積要件の引下げ
 住宅ローン減税制度の最低床面積要件は、消費税率10%の新築住宅等だけではなく、消費税率10%の新築住宅等以外の住宅も40平方メートルに引き下げる

・住宅ローン減税等の築年数要件を昭和57年(1982年)1月1日以降に新築されたものに緩和、または築後年数(20年・25年)の見直し

 1981年の新耐震基準施行後、住宅の長寿命化が進んでいるのに対して、住宅ローン減税の築年数要件を1982年1月1日以降に新築されたものとし、または現在の築年数要件(20年・25年)の見直しを行う

・既存住宅の住宅ローン減税の最大控除額300万円への引き上げ(現行200万円)

 新築住宅とともに、既存住宅価格も上昇しており、既存住宅の住宅ローン減税の最大控除額を300万円に引き上げる

・固定資産税2分の1特例を既存住宅についても適用

 既存住宅取得の初期費用の軽減を図るため、新築住宅に係わる固定資産税を一定年度分税額の減額(2分の1)する措置を既存住宅にも適用する

出典:一般社団法人不動産流通経営協会「令和4年度税制改正に関する要望」

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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