高気密・高断熱に加え、太陽光発電や地熱発電設備を利用したものなど、省エネに向けてさまざまな手法が取り入れられている省エネ住宅の普及が進んでいます。なかでも究極の省エネ住宅と目されているのがドイツで確立されたパッシブハウス。現在日本ではまだ40棟しかないというパッシブハウスの魅力について、一般社団法人パッシブハウス・ジャパン代表理事の森みわさんにお話を伺いました。

パッシブハウスとは?

パッシブハウスとは、計算ソフトを用いて、建築地の気象データを基にその土地に最適な省エネ建築を導き出すメソッドのこと。1997年にドイツのパッシブハウス研究所が確立したもので、パッシブハウスと呼べるのは、同研究所が定めたエネルギー消費基準を満たし、認定を受けた建築のみです。

パッシブハウスの特徴

1999年に発表された次世代省エネルギー基準の3倍近い性能を有するパッシブハウス。その高い気密性と断熱性から、6畳用エアコン1台で40坪2階建ての家が全館空調可能という驚異の性能を有しているそうです。エアコンは一部屋1台が一般的と認識されている日本で、にわかには信じられないほどの高性能ですが、その理由について森さんは次の点を挙げます。

通常の倍以上使う断熱材

「断熱材や高性能の窓、高機能の換気システムなどを用いて徹底的に熱を逃さない工夫が施されています。たとえば、国が定める省エネ基準では、外壁で100mm、天井で180mm(いずれもグラスウールの場合)と定められていますが、パッシブハウスでは、東京近郊で倍の200mm、北に行くと300mmも使用しています」

パッシブハウスでは、一般的な省エネ住宅の2、3倍の断熱材を使用

窓とサッシが肝心

「窓もかなり重要です。現在、日本住宅ではいまだにアルミサッシが主流となっていますが、アルミの熱伝導率はかなり高く、せっかく暖めたり冷やしたりした室内の空気を、せっせと外に逃がしているようなものなんです。新築の際は、アルミサッシの使用を禁止している国もあり、先進国でアルミサッシが新築の建物に使われているのは今や日本だけともいわれているんです」

さらに森さんは、日本には窓の断熱性能の義務基準がないことを指摘。「これは世界的にもめずらしい例で、住宅において、暑さの7割、寒さの6割は窓が原因(日本建材・住宅設備産業協会調べ)と認識されていることに鑑みても、日本の住宅は遅れを取っていると言わざるを得ません」

パッシブハウスでは、木製サッシや樹脂サッシの複層ガラスを基本に、地域や立地によってはトリプルガラスを使用することもあるそうです。

各国の窓における断熱性能基準(出典:一般社団法人パッシブハウス・ジャパンのホームページ)

太陽を味方にする間取り

「パッシブハウスは単に熱を閉じ込める魔法ビンのような高気密・断熱ではありません。南向きの大きな窓や、太陽の高度を緻密に計算して方位や長さを割り出したひさしを付けるなど、太陽熱を最大限に利用し、室内空気の清浄を保ちながらもエネルギーの出入りをコントロール可能な設計になっています。高機能なサッシのおかげで、結露とも無縁なのが特長です。その結果、シックハウスの原因の一つであるカビも発生しにくく、住む人の体に優しい安全性の高い家になっています」

自然の力を取り入れたり、きちんと防いだり。昔の知恵も使いながら、いかにエネルギーを使わない家にできるかを考えていきます。パッシブハウスでは、設備に頼り切るのではなく、建築にできることをまず考えます(出典:一般社団法人パッシブハウス・ジャパンホームページ)

一般的な高気密・高断熱住宅との違い

一般的な高気密・高断熱住宅とパッシブハウスの決定的な違いは、地域と季節に応じた日射のコントロールの評価にあります。

森さんは「建物が1年間に使用する冷暖房エネルギーを正確に予測するためには、外皮の断熱気密性能だけでは不十分。窓から差し込む日射のエネルギーを厳密に把握することで初めて、快適性だけでなく、今の時代に求められている徹底的な省エネ性を担保できるといっても過言ではありません」と話します。

パッシブハウスの設計では、高断熱・高気密はもちろんのこと、日射や通風、建物の蓄熱性能、そして換気回数なども考慮した設計が行われ、給湯や換気、照明負荷など、冷暖房以外のエネルギー消費量もトータルでケアしていくそうです。

パッシブハウス・プロジェクトを成功させるために

パッシブハウスには特定の工法や建材認定はなく、自由に設計できるため、この建築メソッドを、具体的にどう設計に落とし込むかは建築士の裁量によるところが大きいのだとか。加えて、日本で提唱されてから比較的日が浅いこともあり、住んでいる地域で専門の建築士や工務店を見つけられるかどうかもカギ。また、条件のいい土地選びも重要になってくるのだとか。

「日照条件が悪いなど、不利な立地に建てるとなると必然的に費用が高くなるため、土地を購入する前の早めの段階で相談するのがおすすめ」と森さん。

日本では今のところ40棟しか認定されていない大きな理由としてパッシブハウスの実現に必要な建材の入手が困難だったことを挙げます。

「以前と比べて、窓や換気設備、基礎断熱の材料などの選択肢が増し、実現に向けてのハードルはかなり下がってきました。加えて、パッシブハウス・ジャパンが認定機関になったことで、認定審査にかかる時間も大幅に短縮されました。暖かく涼しい快適な暮らしのためにはもちろん、地球温暖化へストップをかけ、次世代に負の遺産を残さないためにも、普及に向けてより認知を広めていきたいですね」

まとめ

冷暖房設備に依存せずとも快適さと省エネが両立できるパッシブハウスは、人にも環境にも優しい家。太陽光や風など、自然からのエネルギーを活かすという点においては、日本古来の住宅に通ずる面もありますね。一般的な住宅と比べると、坪単価は少し高くなりますが、入居したその日から光熱費を抑えられるため、30年以内に元が取れるといわれています。

健康な暮らしの実現によって医療費が削減されるという研究データもあるのだとか。もちろん、家をコンパクトにするなどの工夫で建設時のコストを抑えることも可能とのこと。これから家を建てる方はぜひ検討してみてください。

【取材協力】
一般社団法人パッシブハウス・ジャパン
代表理事 森 みわ さん
神奈川県鎌倉市大町2-2-2
0467-39-5031
https://passivehouse-japan.org/ja/

日本で唯一、パッシブハウス認定資格を持つ第一人者。2009年に手掛けた鎌倉パッシブハウスが、国内初のドイツ・パッシブハウス研究所の認定を取得し、第14回国際パッシブハウス・カンファレンスのデザインコンペで世界第2位を受賞。国費留学したドイツやアイルランドでの実務経験を生かし、日本に根差したパッシブハウスの普及に取り組む傍ら、現在は国連環境計画(UNEP)日本協会の理事も務め、持続可能な社会の実現のためにライフスタイルの転換を提唱中。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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