首都圏の「中古マンション相場」が一段と上昇する兆し? 専門家が価格の動きを分析

首都圏の中古マンションが売れています。月間の成約件数は3,000件台の高い水準で、しかも成約価格は上がり続けています。その好調さを反映して、このところ売主や仲介会社の強気の値付けが目立っています。新規売り出し価格が著しく上昇しているのですが、これに成約価格が追いついてくれば、中古マンション相場が一段と高くなってしまいそうです。

中古マンション成約件数は過去最高水準に

図表1を見れば、わかりますが、新型コロナウイルス感染症が拡大、1回目の緊急事態宣言が発出された2020年4月、5月には中古マンション成約件数は激減し、価格も下がりました。しかし、6月には成約件数の回復傾向がハッキリし、8月には、3,053件となっています。

6月、7月に比べて多少減少しているのですが、お盆休みがある炎天下の8月は、例年成約件数が大幅に減るものです。そのなかでの3,053件という数字は、実は調査にあたった公益財団法人東日本不動産流通機構が1990年5月に発足して以来、8月としては過去最高の成約件数だったのです。

その後も成約件数は着実に増加しています。新型コロナウイルス感染症の第三波が深刻化した2020年12月には減少したものの、21年1月には再び1月として過去最高の成約件数を記録しました。2月も3,500件台の高い水準を維持しています。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報マーケットウォッチ 2021(令和3)年2月度」

成約価格は9ヶ月連続で前年比超え

そのなかで、価格も着実に上昇しています。コロナ禍以前の成約価格は3,500万円前後で推移していたのが、2020年4月、5月は3,200万円台に下がったものの、6月には再び3,500万円台に戻し、その後は21年1月の2.7%を除いて、前年同月比5%台から6%台の上昇を続け、21年2月には3,775万円とコロナ禍以前の水準を凌駕するレベルに上がっています。

首都圏中古マンションの成約価格が前年同月比を超えているのは20年6月以来、21年2月で9ヶ月連続になります。それも、成約件数が増加するなかでの成約価格の上昇ですから、首都圏中古マンション市場はまさに絶好調といっていい状態にあるのかもしれません。

この好調さは、中古マンションだけではなく、新築マンションもほぼ同様で、一戸建てに関しても、低価格を前面に打ち出したハウスビルダーの物件を中心に、好調な販売が続いています。コロナ禍で売上高の減少など、厳しい環境に置かれている産業が多いなか、住宅業界はたいへん恵まれた環境にあるようです。

ほとんど指し値が効かない“売り手市場”に

その好調さがいつまで続くのか――その点で少し気になるデータがあります。図表2をご覧ください。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報Market Watch 2021(令和3)年2月度」

これは、首都圏の中古マンションの成約価格と新規登録価格の1平方メートル単価の推移を示しています。2020年末から21年1月にかけては、新規登録価格と成約価格の差が限りなく小さくなっていました。両者の差はほぼ3%程度だったのです。

中古マンションの仲介市場では、購入希望者のほとんどが値引き交渉を行います。まったく指し値を入れず、売出し価格のまま買うという人はまずいないでしょう。

しかし、需要が供給を上回り、買い手が多い“売り手市場”であれば、売り手は値引き交渉してくるような買い手には売らず、言い値で買ってくれる別のお客を探せます。ですから指し値が効かず、効いたとしてもせいぜい端数を削る程度のことでしょう。現在は、まさにその“売り手市場”にあるといっていいわけです。

それに対して、供給が需要を上回る“買い手市場”であれば、売り手としては5%、10%の値引きに応じてでも、早く売ってしまいたいという気になります。

売主や仲介会社が強気の値付けに転じる

図表2でもわかるように、2020年11月から21年1月は売り出し価格と成約価格の差が小さい、“売り手市場”だったわけですが、21年2月には、新規登録価格の1平方メートル単価が大きくジャンプアップしています。20年2月の57.60万円から61.31万円に、前年同月比で6.4%も上がりました。前月比でも3.2%のアップです。

成約価格の1平方メートル単価は20年2月の54.76万円に対して21年2月は57.67万円と5.3%のアップですが、21年1月の57.57万円に対しては前月比0.2%とほぼ横ばいにとどまっています。
この変化の背景には、売主や仲介会社がこのところの中古マンション市場の好調さを見て、強気の値付けに転じたという事情があるのではないでしょうか。

人気が高い東京都発の新規登録価格の上昇

この新規登録価格と成約価格の動向を首都圏の都県別にみると、人気が高く、価格も高い東京都から始まっているのではないかと考えられます。

図表3にあるように、2020年後半から21年1月にかけては東京都の新規登録価格は横ばいか、むしろ下落の傾向が見られるほどでした。成約価格の上昇が続くなかで、どこまで買主がついてきてくれるのか、慎重な値付けを行ってきた売主や仲介会社が多かったのではないでしょうか。

それが、現在の市場動向に自信を持てるようになって、21年2月に一気に売り出し価格を上げてきたのではないかと見られます。

21年2月の新規登録価格の1平方メートル単価は83.02万円で、20年2月の76.94万円に対しては、前年同月比7.9%の高い上昇率ですが、20年1月の80.52万円に対しても、前月比3.1%というアップ率になっています。市場に対する見方が変わってきたと見ない限り、考えにくい上がり方といっていいでしょう。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報Market Watch 2021(令和3)年2月度」

新規登録価格に成約価格がついてくるかどうか

少し長い目で見ると、成約価格と新規登録価格の差が小さくなった後、新規登録価格が急上昇した例があります。図表4でもわかるように、2013年から14年にかけて両者の差が極めて小さくなった後、15年から16年に新規登録価格が大きくアップし、成約価格との差が大きくなりました。

しかし、成約価格はほぼ同じピッチで上がり続け、17年、18年と再び両者の差が小さくなり、20年にはその差が縮小したのです。

今回の新規登録価格の上昇も、このパターンを繰り返すのであれば、成約価格が後を追うように上がり続けることになるでしょう。そうであれば、現在の“売り手市場”がそのまま続くことになります。

しかし、コロナ禍の厳しい経済環境ですから、そうはならずに、成約価格はさほど上がらず、あるいは横ばい程度で推移、新規登録価格と成約価格の格差が大きくなり、“買い手市場”に変化する可能性もあります。その場合には、新規登録価格の上昇は一過性のものにとどまり、ひいては成約価格の低下につながる可能性がないとはいえません。

出典:公益社団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2020年)」

まだ中古マンション価格が上がる可能性は高い?

マンションの売買を考えている人は、この先の動向を注視しておく必要があります。

新規登録価格の上昇に、成約価格もついてくることになると見るのであれば、購入を考えている人はさらなる価格上昇の前に、早めに買ったほうがいいでしょうし、売却を考えている人は、もう一段の価格上昇まで待ってもいいでしょう。

反対に成約価格がついてこないと見るのであれば、価格低下の可能性がありますから、購入を考えている人は値下がりを待ったほうがいいかもしれませんし、売却を予定している人は、本格的な値下がりの前に売ったほうが得策かもしれません。

著者は、新築と中古の価格差が依然として大きいこと、マンション購入を考える人は、コロナ禍でも比較的収入が安定している人たちが多いことなどを考え合わせると、新規登録価格に続いて成約価格も上がる可能性のほうが高いだろうと見ています。

とはいえ、コロナ禍がより深刻化、3度目の緊急事態宣言が発出されるような事態になれば、さすがに成約価格は新規登録価格についていけず、下がる可能性もあります。

いずれにしろ、慎重な見極めが必要です。

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