マンションリフォームまず何をすればよい? 建築設計のプロがアドバイス

分譲マンションで暮らしていると、「生活スタイルの変化に合わせて間取を変更したい」「キッチンやリビングを広く使いたい」など、リフォームを考える時期が訪れるかもしれません。また、中古マンションを購入し、自分たちの好みに合わせてリフォームしようという方もいるでしょう。

リフォームでは、できることとできないことを整理することが重要です。リフォームする際に知っておきたいポイントについて、再生建築や新築を幅広く手掛ける渡邉明弘建築設計事務所主宰の渡邉明弘さんにお話を伺いました。

知っておきたいマンションリフォームの注意点

マンションの専有部分と共有部分

専有部分は、自分の意思と判断で作り変えることができる部分です(マンション管理組合へ申請が必要な場合もあり)。一方、共有部分はマンション所有者全員で共有する部分のことで、勝手に作り変えることはできません。

共用廊下や屋上が共有部分なのはわかりやすいと思いますが、家の玄関扉、窓、ベランダも実は共有部分に当たることがほとんど。なぜなら、それらは建物の防火性や避難経路に関わっているからです。

例えばベランダには避難はしごが設置されていますが、これは周りの住民が火災の際に避難で使う経路です。窓は防火設備として、建物全体の防火性を大きく左右します。防火設備は建物を燃えにくくするほか、火事の延焼を抑える重要な役割を担っています。もしどうしても共有部分の変更が必要な場合には、マンション管理組合の理事会や総会で決議が必要となるのが一般的ですが、具体的には後に説明する管理規約を確認しましょう。

リフォームにあたっては、専有部分と共有部分をしっかり確認

ラーメン構造と壁式構造

構造型式は、ラーメン構造、壁式構造の2つが代表的です。この構造の違いを知ると、壊せる壁と壊せない壁がわかります。

・ラーメン構造
柱と梁で支えているので、建物の構造に影響しない壁であれば壊す・移動させることが可能。リフォームの自由度が高いのはラーメン構造

・壁式構造
柱や梁だけでなく壁(面)で支える構造なので、多くの壁が壊せない

壁式構造は5階までしか使えないため、6階以上の建物はラーメン構造が採用されることが一般的です。管理組合からマンションの設計図を取り寄せ、どの壁が壊せるかを確認しましょう。

マンション管理規約

リフォームすることを決めたら、マンションの管理規約でリフォームできる範囲や細かいルールを確認しましょう。リフォーム施工業者との共有もマストです。リフォーム工事では大きな建材の搬入や騒音、粉塵などが避けられません。施工業者は、工事申請書の届出期限や、工事可能な時間帯など、管理規約に示されたたルールを基に工程表を組みます。

リフォームの費用感

リフォームの規模によりますが、スケルトンリフォーム(骨組み以外をフルリフォームすること)の工事費は10〜12万円/平米が相場です。つまり70平米で一般的なスケルトンリフォームをすると700〜840万円ほどの工事費がかかります。高い設備や輸入建材などを使ったこだわりのリフォームはやや割高で15〜20万円/平米ほどになります。その他、設計料や新調する家具の購入費など、別の諸経費もお忘れなく。

リフォームの見積もりは、3社以上の業者に相見積もりをとると、高すぎる、または安すぎるといった比較検討がしやすくなります。見積もりは、依頼してから2週間〜1ヶ月ほどで提示してもらえることが多いです。1社の見積もりを見てから別の業者に依頼するとタイムラグが発生してしまうので、同時期にまとめるのがスケジュールを短縮するコツです。

想定されるリフォームプランと注意点

間取りの変更

家族が増える、子どもの独立など、ライフステージの変化によって間取りを変えるケースが一般的です。しかし、部屋数を増やしたら一部屋あたりが狭くなった、間取りを変えたことで採光と通風が遮断されてしまった、動線が悪くなったなど、かえって使いづらくなるケースもあるので、リフォーム後の生活を具体的にイメージすることがポイントです。

床材の変更と床暖房の設置

床材は大きく無垢と積層に分けられ、無垢は耐久性に優れる一方で経年による反りや縮みが起きやすく、積層は逆の特徴があります。床材を考える際は、床暖房を設置するかしないかも合わせて検討することをお忘れなく。なぜなら床暖房には専用のフローリングを施工する必要があるからです。

主な床暖房には、電気式と温水循環式の2種類があります。製品にもよりますが、電気式は早く温まるのがメリットである一方で、設置費用、ランニングコスト(電気代)ともに比較的高くなりがちです。温水循環式は、多くの部屋に設置したり設置面積が大きい場合はコストを抑えやすいですが、プロパンガスや灯油を利用するタイプの場合は定期的な補給やメンテナンスが必要です。床暖房は必ずしも家全体にある必要はないので、リビングやダイニングといったよく利用するスペースだけに導入するなど賢く取り入れましょう。

壁や天井のクロスの変更

壁や天井に使われるクロスは、種類によって値段の幅が大きいのが特徴です。加えて、頻繁に品番が変わるため、数年後に同じ模様や色のクロスを張り替えることができない可能性もあります。

壁や天井は、クロスではなく塗装もおすすめします。塗装は色の微妙な違いが調整できるので、リフォームの自由度も上がりますよ。

バリアフリー化

バリアフリー化は、手すりを設置するだけのごく簡易なリフォームから、車椅子で生活できるようにするといった大規模な改修まで幅広い方法が考えられます。ヒートショック対策もバリアフリー化の一環といえるでしょう。

手すりを設置する簡易なリフォーム

手すりだけなら既存の設備にも簡単に設置できますが、車椅子対応にする場合、風呂やトイレ、廊下などが大きな施工箇所になります。バリアフリー化の原則は段差をなくすことで、車椅子がストレスなく通れるスペースや通路幅が必要になるため、その際は壁を壊す、動かすといった大規模な工事が必要になります。例えば風呂の段差が解消できるかどうかは、床下空間に余裕があるかなどの骨組みによるので、すべての段差を解消するのが難しい場合もあります。

浴室の段差解消のためには、設計図を確認

まとめ

マンションリフォームは、できることとできないことの整理、情報や資料の収集がポイントです。まずはマンションの管理規約と設計図を入手し、構造上何ができて何ができないか、プランを実現する際にどんなことが起こり得るか、専有部分と共有部分の範囲などをあらかじめ把握したうえで進めていきましょう。

【取材協力】
渡邉 明弘さん
渡邉明弘建築設計事務所主宰
1986年福岡県出身。首都大学東京(旧東京都立大学)大学院・都市環境科学研究科建築学域を修了したのち、株式会社青木茂建築工房で経験を積む。2016年に渡邉明弘建築設計事務所を設立。個人宅の新築をはじめ、ビルやホテル、マンションの再生建築や内装設計など数多くの物件を手掛けている。「新築では得られない建築」をコンセプトに、既存が持つポテンシャルを最大化できるような建築デザインを目指す。https://www.aki-watanabe.com/

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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