建築設計のプロが注目する「3つの動線」とは? 改めて考えたい、暮らしやすくする動線

住み心地のいい家を実現するには「人」「日当たり」「風通し」、それぞれの動きを考慮することが必要不可欠です。動線とは住宅の中で自然に人が動く経路のことですが、今回は人の動きにプラスして採光、通風に関しても「動線」の視点で考えるべく、再生建築や新築を幅広く手掛ける渡邉明弘建築設計事務所主宰の渡邉明弘さんにお話を聞きました。

人の動線:家事、子育て、来客

住宅の設計で最も考慮したいのが人の動線です。家づくりでは、人の動きを素直に間取りに反映するのが基本。また、回遊性のある間取りが便利です。回遊性とは、行き止まりがなく、ぐるぐると循環できる状態のこと。間取りに回遊性があると、各部屋へのアクセスが便利になり、生活に彩りが生まれます。

そのうえで、ここからは間取りに反映したい「家事動線」「子育て動線」「来客動線」の3つの動線の考え方について解説します。

・家事動線

家事動線のポイントは、移動距離を短く抑えることです。家事の中でも、特に洗濯は「洗う」「干す」「たたむ」「しまう」という複数の動作が必要。たとえば洗濯機のある洗面所が1階、物干し場が2階、しまう場所が1階だったら、何度も階段を上り下りしなければいけません。

洗面所と行き来できるサービスヤード(家事用スペース)を設置して物干し場にしたり、洗濯物をたたむ場所としまう場所を同じ部屋にするなど家事のスペースをできるだけ一箇所にまとめ、次の動作に移る家事動線を短くできないかを考えましょう。

洗面所と行き来しやすい場所にサービスヤード(家事用スペース)を(撮影:黒木斗志生/画像提供:渡邉明弘建築設計事務所)

・子育て動線

家事動線の最適化は、子育て動線を考慮した間取りにも通じます。小さい子どもがいる場合、キッチンやお風呂、洗面所があまりにも離れていると、家事をしながら子どもを見守るのに家中を行き来しなければならず、負担が増大します。キッチン、お風呂、洗面所は集約すると移動距離を短くでき、家事と子育て動線をコンパクトにできます。

・来客動線

来客動線も人の動きで大切な要素ですが、来客頻度によってどこまで考慮すべきか変わってきます。リビング・ダイニングからトイレが見えないような配慮、トイレの中に手洗い設備を設けることで生活感のある洗面所をお客さんが使わなくてすむような工夫などがあると、急な来客時に慌てずにすむでしょう。来客頻度が特に多い家は、1階のトイレは来客を前提として計画し、2階は家族だけが使うトイレにするといった使い分けもおすすめです。

リビング・ダイニングから見えないようにレイアウトを(撮影:堀田貞雄/画像提供:渡邉明弘建築設計事務所)

太陽の動線=採光

明るい家にするために、採光を意識した間取りを考えましょう。といっても窓がたくさんあればいいというわけではなく、時間帯や季節によって変化する太陽の動きを意識した、間取りづくりと窓の配置が大切です。

基本的には南向きの窓が採光の上で有利ですが、絶対ではありません。例えば学校の美術室は北向きが多いのをご存知ですか? 太陽の動きで明るさが刻々と移り変わると、色合いが視覚的にわかりづらくなり絵を描く上で厳しい環境となります。また日光は絵の保存環境にも影響するからです。

住宅でも同じことがいえます。日光が直接入らない部屋は明るさを均一にしやすいので、書斎や作業部屋にぴったりです。
地域や季節による日射量の変化は、気象庁が公開している地域気象観測所(アメダス)で観測された気象データを確認するとおくとよいでしょう。

風の動線=通風

快適な温熱環境には気温、湿度、気流の3要素が影響するので、風通しは心地いい家づくりで非常に大切な要素です(正確には放射、代謝量、着衣量も影響します)。

ポイントは、風の入口と出口の両方を計画すること。特に「温度差換気」を意識しましょう。空気は温まると上にのぼっていきます。つまり低い窓で冷たい空気を採り入れ、温かい空気を高い窓から逃がすように設計すると、自然な換気で部屋全体を快適な状態に保つことができます。さらに補助的にファンを使うと空気の移動を促してくれます。

風を効率よく取り入れるためには、風を読む必要があります。採光でも紹介した気象データで風向きも確認できるので、それを活かして窓の位置を決めるとよいでしょう。

高い位置と低い位置に窓を配置し、自然な換気を促す(撮影:堀田貞雄/画像提供:渡邉明弘建築設計事務所)

大切なのは、新居でどんな暮らしをしたいか

住み心地のよさを実現するためには、「人」「日当たり」「風通し」の動線を考えることが大切とお話してきましたが、それ以上に重要なのはどんな暮らしがしたいのか具体的にイメージしておくことです。

どれくらいの収納がほしいのか、洗濯物はどこに干せたらベストなのか、どの部屋にどれくらいの自然光が必要なのか…。そんな生活イメージを建築士と共有することで、プロの視点から間取りや動線を提案してもらえます。

まとめ

「人」「日当たり」「風通し」の3つの要素を動線という視点で解説してきました。人や物の動きをできるだけ小さくするなど動線のコンパクト化が必要不可欠ですが、さらに心地よく過ごすための家づくりには「環境の要素」からも動線を考えることが大切です。家族が長く暮らしやすい家づくりのため、「人」だけでなく「日当たり」「風通し」の動線も考慮してみてください。

【取材協力】
渡邉明弘さん
渡邉明弘建築設計事務所主宰
1986年福岡県出身。首都大学東京(旧東京都立大学)大学院・都市環境科学研究科建築学域を修了したのち、株式会社青木茂建築工房で経験を積む。2016年に渡邉明弘建築設計事務所を設立。個人宅の新築をはじめ、ビルやホテル、マンションの再生建築や内装設計など数多くの物件を手掛けている。「新築では得られない建築」をコンセプトに、既存が持つポテンシャルを最大化できるような建築デザインを目指す。
https://www.aki-watanabe.com/

(最終更新日:2021.04.12)
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