本当にできるの? 3Dプリンターで家を建てる方法と日本ならではの課題

3Dプリンターで住宅を造る事業が諸外国で導入され始めています。日本では現状、法制度の問題から導入できていませんが、建築コストが安く、建築スピードが速いため、今後新しい住宅建築方法として採用される可能性は十分にあります。

3Dプリンターとは

あらゆる産業で活用されている3Dプリンター

3Dプリンターとは、立体的な物体を作れる機械です。3次元データを基に断面形状を積層することで、立体造形ができます。

3Dプリンターは初期の頃は小さなものしか作れませんでした。しかし、現在では住宅が建てられるまでに進化し、試作品(モックアップ)、製品の部品、製品そのもの、フィギュアなどに活用されています。

建築模型にも使われています。従来、建築模型はプラスチックや厚紙で作られていました。3Dプリンターが一般化してくるにつれて、3Dプリンターで作成されるケースが増えています。

3Dプリンターのデータ精度が向上したことで、精密なモデルも作成できるようになりました。今後精度が向上することで、宇宙船、宇宙服、人工骨、人工臓器などにも応用ができるかもしれません。

3Dプリンター住宅とは

3Dプリンター住宅とは、名前のとおり3Dプリンターを使って建てた家です。3Dプリンターで作成できるものの大きさは徐々に大きくなり、数年前から住宅も作成できるようになりました。

諸外国では、新興国でのスラム対策やホームレス対策、災害後の仮設住宅として開発が進められています。

2016年にドバイで強化繊維プラスチックとガラス繊維強化石膏による補強コンクリートを材料に、3Dプリンターで造ったオフィスが建てられました。2019年には、ゼロ・エミッションをテーマにした「The Sustainable City」と呼ばれる分譲住宅の販売も行われています。

3Dプリンター住宅はこれまでの建築方法と比べると、建築にかかる時間が短く、必要な人手も少ないことが特徴です。

今後技術革新や法整備が進めば、日本でも本格的に導入される可能性は十分あり得る話です。

日本で3Dプリンター住宅を建築する方法

日本で3Dプリンター住宅を建築する場合、建築確認申請が不要な現場でのみ導入できます。建築確認申請が必要な現場の場合、3Dプリンター住宅の仕様が建築基準法と適合しないため、建築できません。

建築確認申請が不要になるのは以下の場合です。

1.10平方メートル以下の建築物であること
2.増築・改築・移転であること(新築の場合は不可)
3.防火指定のない地域(防火地域・準防火地域以外の地域)であること

都市計画区域外であれば10平方メートル以上でも建築できる場合があります。ただし建築確認申請が必要なケースがあるため、確認が必須です。

日本では、會澤高圧コンクリート株式会社がロボットアーム式の3Dプリンターを導入し、使用方法を研究しています。

同社の工場での具体的な施工事例が、3Dプリンターでトイレを作ったものです。3Dプリンターで中空の型枠を造り、そこに鉄筋を配置してコンクリートを枠のなかに流し込んでいます。

画像提供:清水建設 繊維補強モルタル「 LACTM (ラクツム)」

また大手ゼネコンである清水建設株式会社の技術研究所では、3Dプリンター導入のための実験設備が新設されています。この施設では、埋め込み型枠の造形のための繊維補強モルタル「 LACTM (ラクツム)」を開発しました。

ラクツムで型枠を造り、鉄筋を入れてモルタルを流し込むことで、従来のコンクリート柱以上の強度を確保することに成功しています。

法制度の改正や技術開発により、今後3Dプリンター住宅の施工事例は増えてくるかもしれません。

3Dプリンター住宅の三つの建設方法

3Dプリンター住宅には三つの建設方法があります。それぞれ耐久性など特徴に違いがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

(1)大型3Dプリンターで造る

巨大な3Dプリンターを住宅の建設予定の場所に設置し、そこで材料を積み上げ建設する方法が一つ目の方法です。仮設足場を建て、3Dプリンターを設置して現場で3Dプリンターを使って建設します。

一般的な建築の場合であれば、多くの職人や時間が必要です。しかし、3Dプリンター住宅の場合、3Dプリンターのオペレーターと数人の作業員がいれば、作業できます。

(2)凝固剤を使用して削り出す

砂のような素材に凝固剤をかけて固めた建材を、掘り出していく建設方法もあります。実際に使われる素材はさまざまで、詳細な建築方法は素材によって異なります。新興国や災害現場などで使う場合、現地の材料を使うこともあるようです。

ただし、強度面で他の工法のほうがメリットがあるため、別の工法で建てるのが一般的です。

(3)工場でパーツごとに生産する

3Dプリンターが設置されている工場でパーツを生産し、現地で組み合わせていく方法もあります。

特にマンションのような、巨大3Dプリンターでも設置できない大きさの住宅を建てるのに向いた方法です。

3Dプリンター住宅のメリット

3Dプリンターは、建築コストや人手、建築スピードの点でこれまでの住宅建設方法にはないメリットがあります。以下で具体的に解説します。

建築コストが安い

3Dプリンター住宅は従来の建築方法と比べると数十分の一、数百分の一ほど、建築コストが抑えられる点が特徴です。

米国NPO団体「New Story」では、1棟4,000ドル(約42万円)で建設可能だそうです。このNPOでは、ハイチ共和国などの国で、2,000棟以上の3Dプリンター住宅を建設しています。

人手がかからない

3Dプリンター住宅の建設は従来の建築方法と異なり、人手をほとんど必要としません。現場では3Dプリンターではできない作業を補助するために、職人の手を必要とします。

一般の住宅では、大工だけでなく水道工事、電気工事などにも多くの職人が必要です。建築業界は技術を持った人間が不足しており、人材の確保が大きな課題です。3Dプリンターの導入は建設業界の人手不足の解消につながります。

建築スピードが速い

3Dプリンター住宅は建築期間が短いことが特徴です。建築期間24時間ほどで建てられた事例もあり、通常の住宅では不可能なスピードで住宅が建てられます。

そのため、少しでも多くの家が必要な災害現場や、住宅がない人たちの仮住まいとしての需要が期待できるでしょう。建築コスト削減にも貢献しています。

曲線の建築物を造れる

3Dプリンターは曲線のように形状が複雑な住宅でも、対応しやすい点がメリットです。曲線を活用することで、狭い土地での建築やデザイン性が高い住宅の建築に活用できます。

一般的な建築方法では、曲線の住宅はあまり建てられていません。職人の技術に頼る部分が多く、時間やコストがかかってしまうためです。

家を建てられる面積が限られている場合や、ほかにはないデザインを求める人に3Dプリンター住宅は需要があるでしょう。

3Dプリンター住宅のデメリット

3Dプリンター住宅の建築はこれまでになかった技術のため、工事や法律の観点で、デメリットもあります。

基礎工事に対応できない

3Dプリンター住宅は、日本の住宅の基礎工事に対応できない点がデメリットです。日本の建築方法では、鉄筋を内部に入れて強度を上げる必要があります。しかし、現状3Dプリンターはコンクリートの造形は可能なものの、鉄筋を入れるなどの作業に対応していません。

日本は地震大国とも呼ばれており、地震に耐えられる強固な基礎が必要不可欠です。将来技術が進化することで鉄筋を入れられるようになる、または同等の強度に対応できる可能性はありますが、現状基礎工事はこれまでのやり方で対応することになります。

住宅設備工事に対応できない

3Dプリンターは住宅の構造を作れるものの、住宅に欠かせない、電気やガス、給水・排水などの住宅設備はできません。これらの作業は壁に穴を開ける、配管や配線をするなど、時間と手間がかかる作業です。

そのため、住宅設備工事には今後も人手が必要になるでしょう。大工職人の需要は下がる可能性がありますが、住宅設備工事ができる職人の需要は高まる可能性があります。

日本の建築基準法に適合しない

3Dプリンター住宅の施工方法は、日本の建築基準法に対応しておらず、法律から観点から導入できません。コンクリートに使用できる素材や工事方法が定められているからです。

3Dプリンターで使われる建材は特殊なモルタルなどで、建築基準法の既定にない素材です。そのため、3Dプリンターの導入は法制度が整わない限り、難しいでしょう。

日本で3Dプリンター住宅を導入しようとする試みはあるものの、本格的に導入された事例はありません。将来的に法整備が整うまでは、3Dプリンター住宅の建設は建築確認申請が不要な現場に限られます。法制度の改正に期待したいところです。

まとめ

3Dプリンター住宅は、日本では法規制の問題から、建築確認申請が不要な現場でしか導入できず、一般的な住宅での建築はできません。

しかし、今後将来性のある建築方法であり、法制度の改正や技術革新により導入される可能性はあります。実現すれば、これまでよりも建築コストが安く、速く建てられる3Dプリンター住宅多く導入されるかもしれません。将来家を建てたいのであれば、このような建築方法があることを知っておいてもよいかもしれません。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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