「住生活基本計画」というものをご存じでしょうか。普段の生活ではあまり見かけないものですが、日本の住宅政策の基本となる重要な計画です。そこで、住生活基本計画とは何か、その内容と国の取り組みについて解説します。住生活基本計画が構想している「日本の望ましい住宅像」を見ることで、私たちの住宅取得のヒントになるでしょう。

住生活基本計画とは?

豊かな住生活の実現のための住生活基本計画

住生活基本計画(全国計画)とは、平成18年に制定された「住生活基本法」に基づき、国民の住生活の向上と安定を図るために策定された基本的な計画のことです。簡単にいうと、人々がより良い生活を送るためのガイドラインのようなものです。

これまでの住宅政策は新築住宅供給に偏っていたため、どちらかというと「建てては壊す」というものでした。しかし、これからは「良い家に長く住む」というのが住生活基本法のコンセプトになります。

そして、政府が「住宅を購入する側からの視点」と「住宅を供給する側からの視点」を予測し、住生活の将来像を描きます。これをもとに住生活基本計画を作成し、多くの人が参照することで、政府が目指す「豊かな住生活の実現」につながるのです。

また、住宅関連には補助金や控除などさまざまな施策があります。この優先順位を決定するときにも、目指すべき将来の住生活が決められていれば、方向性がずれることもないでしょう。そのためにも住生活基本計画は重要であり、住宅を購入する際には目を通しておきたいものです。

現状の計画は、2016年3月18日に閣議決定されたもので、2016年から2025年までの10年間の計画です。住生活基本計画を見てみれば、2025年の日本の住生活のあるべき姿が読み取れるかもしれません。

また、この計画はおおむね5年ごとに見直すとされていて、今年の3月に新たな住生活基本計画が閣議決定される予定です。この記事では、現行の住生活基本計画からポイントを絞って解説し、最後の章で新計画に追加された論点に触れていきます。

住生活基本計画の8つの目標

住生活基本計画では、「居住者」「住宅ストック」「産業・地域」の3つの視点から考える8つの目標が設定されています。それぞれの目標においてどのような取り組みが行われているのかをみていきましょう。

居住者からの視点

【目標1】結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現

必要とする住宅や持ち家の支援を行います。また、希望出生率1.8の実現を目指し、子育てしやすい環境を整備するため、子育て支援施設も誘導。三世代同居の促進を行い、世代間や社会で子育てをサポートしていきます。

【目標2高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現>

高齢者が住みやすいように、バリアフリーやヒートショック(血圧の乱高下によって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすこと)の対策など盛り込んだ高齢者向け住宅のガイドラインを策定。住宅の近くで介護や医療など生活に必要なサービスを受けられ、安心して生涯住み続けられる環境を整えていきます。

【目標3住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保

低所得者や高齢者、障害者、生活保護受給者など、住宅を確保するのが難しい人たちのために、安心して生活できる環境を提供。公営住宅の供給や整備に力を入れ、民間賃貸住宅を活用してセーフティネットの仕組みを強化しています。

住宅ストックからの視点

【目標4 住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築

これまで住宅の購入が「すごろく」のゴールになっていましたが、リフォームや適切な維持管理によって、次世代に継承できる資産にすることを目指します。「長期優良住宅(良好な状態で長期にわたり住み続けられる措置や構造を備えた優良な住宅)」などの高品質な新築住宅を供給しつつ、住宅検査を実施して中古住宅の流通を促進します。

【目標5 建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新

耐震性や省エネ性が不十分な住宅の建替えやリフォームを行い、安全で長く住み続けられる住宅に変えていきます。相談窓口を設置し、安心してリフォームができる環境を整えるとともに、ヒートショック対策やデザイン性の高いリフォームを促し、投資意欲を高めていきます。

【目標6 急増する空き家の活用・除却の推進

空き家の活用や解体・撤去をして空き家の増加を抑えます。空き家の活用は、地方への移住や宿泊施設・福祉施設など別の用途への転換を促進。近隣住民に悪影響を及ぼすような空き家は撤去を促します。

産業・地域からの視点

【目標7 強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長
地域の資材を活用したり、伝統的な技術を継承する技能者や設計者の育成をします。さらに、住生活に関わる新規ビジネスの促進を図り、地域経済の発展を支援します。

【目標8 住宅地の魅力の維持・向上
居住者の利便性を高め、自然災害に対する防災対策を実施し、安全で快適に暮らせる環境を整えます。美しい景観の実現や地域・マンション内のコミュニティ活動を向上させます。

参照:国土交通省「住生活基本計画(全国計画)(概要)」

 

ポイント1 子育て世帯への支援

子育て世帯支援が住生活基本計画の基本テーマ

住生活基本計画の目標や取り組みについてひととおり概観しましたが、実際の内容はもっとこと細かく書かれています。そこで、これから住宅を購入する人にとって重要な部分を、2つのポイントに絞ってご紹介します。1つ目は、少子高齢化・人口減少への対応と子育て世帯への支援です。

住生活基本計画では、希望出生率1.8の実現を目指し、子育てに最適な住環境を整えるとしています。まず、収入などに合わせて希望の地域や住宅に住めるようにサポートを行っています。収入が低いことを理由に子育てや住宅の確保をあきらめることがないようにするためです。

具体的には、民間賃貸住宅をリフォームして子育て世帯向けの住居にしたり、公営住宅や公的賃貸住宅への入居、持ち家を購入するための支援を行ったりなど、子どもを産んで育てるために必要な住居の確保に力を入れています。

さらに、共働き家庭の増加により、不足する保育の担い手として、三世代同居や近居も促進しています。まだ待機児童問題が解消されていない地域も多く、保育所が足りていない状態です。そのため、祖父母の協力を得て子育て世帯を支えていくことを目指しています。

また、核家族化により、近くに頼れる親族がいない家庭も増えてきました。そこで、子育て支援施設を誘致し、社会全体で子どもを育てていく取り組みも盛り込まれています。子どもを育てやすい環境を整えることで、人口減少や少子高齢化に歯止めをかけ、暮らしやすい住生活を目指しています。

ポイント2 中古住宅市場の成長に期待

2つ目のポイントは中古住宅市場に対する施策です。住生活基本計画では「住宅ストック」に対する施策が多く盛り込まれ、強調されています。

「住宅ストック」とは中古住宅のことを指します。

つまり、中古住宅の流通を促進させるように計画されているのです。日本では新築の住宅が好まれていて、国土交通省がまとめている既存住宅流通シェアの比較によると、2018年において新築は94万戸の着工なのに対し、既存住宅(中古住宅)の流通量は16万戸。中古住宅の流通は全体の約14%しかありません。

それに対し、アメリカやイギリスでは全体の80%超が中古住宅の取引であるというデータがあります。欧米に比べると日本は新築住宅を購入する割合が非常に高くなっているのです。

出典:国土交通省「既存住宅市場の活性化について」

「新築住宅が好きか」「中古住宅が好きか」は個人の好みかもしれませんが、このまま新築住宅が増え続けると大きな問題が出てきます。それが、空き家問題です。今後、さらに人口の減少が加速していくと、空き家の増加につながります。空き家が増え続けると、近隣住民の苦情や倒壊の危険につながり、深刻な問題に。そのため、住生活基本計画では欧米のように中古住宅をメインに流通させるように提言されているのです。

日本で中古住宅市場が盛り上がらない理由の1つとして、中古住宅の資産価値の低下が挙げられます。欧米では昔から石造りの住宅が多く「住宅は永久に住み続けられるもの」という意識がありました。しかし、日本では木造住宅の文化であり、「住宅はいつか悪くなってしまうものだから建て直すもの」という意識が強いのです。

価値の低下を防ぐために、住宅検査であるインスペクションを実施して安全性を証明したり、「住宅性能表示」を消費者に開示する取り組みが行われています。また、適宜リフォームをしてデザインや品質の向上を目指しています。リフォームに関する相談体制も充実させ、安心してリフォームができるようにサポートも実施。ヒートショック対策やバリアフリーを施した住宅は高齢者にとっても住みやすくなるはずです。

さらに、耐震性や省エネ性の低い住宅を建て直すことで安全性が高く、高品質な住宅を目指します。加えて、新築住宅サイドからも長期優良住宅の普及を推進し、適切に維持管理すれば長く住み続けられる住宅を増やしていこうという取り組みもあります。まだまだ新築住宅の需要が高い傾向がありますが、計画のもとで中古住宅市場が拡大し、高品質かつ低価格な中古住宅が供給されることが期待できるでしょう。

参照:国土交通省「既存住宅市場の活性化について」

2021年3月に閣議決定される新たな住生活基本計画について

おおむね5年ごとに見直しされる住生活基本計画。2019年9月から約1年半の間、分科会において専門家たちが議論を進めてきました。そして、2021年3月に閣議決定され、新たな住生活基本計画がスタートします。計画期間は2021年度から2030年度。今までの住生活基本計画と何が違うのか、2つのポイントに絞ってご紹介します。

1.「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現

新型コロナウイルスの影響を受け、住生活基本計画においてもテレワークや在宅学習、非接触型設備の導入が推進されています。具体的には、テレワークやコワーキングスペース、サテライトオフィス、在宅学習が行える環境の整備、宅配ボックスの設置などの策が講じられます。

2.脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成

近年、世界中でCO2を削減する動きが加速していて、日本も例外ではありません。これまで、太陽光発電や電気自動車など再生可能エネルギーの普及や省エネ設備によって下支えされてきた二酸化炭素排出量の削減ですが、住生活の面からも対策がとられることになりました。

それは、省エネ性能をさらに向上させ、長寿命かつ生涯にわたるCO2の排出量が少ない住宅を普及させるもの計画です。長期優良住宅ストックやZE H(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)ストックがこれに該当します。同時にLCCM住宅(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)と呼ばれる、ライフサイクルにおいてCO2の排出量の収支をマイナスにする住宅の評価と普及を進めています。

参照:国土交通省「新たな住生活基本計画(案)の概要」

まとめ

住生活基本計画はあまりなじみのないものですが、読んでみると住宅市場の動向や未来像が見えてきます。若年世帯や子育て世帯の住宅取得への支援策や、質が高く価格の安い魅力的な中古住宅の供給など、役立つ情報も豊富です。このような情報を知っておくことは、理想のマイホームを購入するための手がかりになることでしょう。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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