【愛知県】待機児童が少ない狙い目の市町村は? 名古屋市がゼロは本当?

政令指定都市である名古屋市、自動車産業の盛んな豊田市などの大都市を抱えている愛知県。そんな愛知県の子育て事情はどうなっているのでしょうか。多くの都市で問題になっている「隠れ待機児童」問題のほか、名古屋市と周辺地区の待機児童の現状について調べました。

愛知県の待機児童事情

まず、愛知県全体の待機児童数の過去5年間の推移を見てみましょう。

※出典:「あいち はぐみんプラン2020-2024」P.63 図表3-9-1 厚生労働省「待機児童数調査」(各年4月1日時点)

待機児童数は、2015年から増加傾向にあります。2017年にはいったん減少しているものの、2018年、2019年と続いて最高値を更新しました。これを受けて愛知県は、待機児童問題を解消すべく、2019年に「愛知県待機児童問題対策協議会」を設置。2024年度末までに、愛知県全体で20万人分の保育の受け皿を整備する目標を掲げています。

2020年4月1日時点の愛知県の待機児童数は、厚生労働省が発表した「保育所等関連状況とりまとめ(令和2年4月1日)」によると、155人です。前年度の258人から大きく減少していることがわかります。愛知県内で、待機児童数が多い市町村ワースト8は以下の通りです。

※筆者による愛知県子育て支援課への電話聞き取り調査(2021年4月)

人口減だが保育所定員は増加
愛知県人口動向調査結果(年報)2020年」によれば、愛知県の人口は1956年の調査開始以降、増加を続けていました。豊田市をはじめとする製造業、地方グルメ「名古屋めし」が人気の観光業などが好調なことに加え、活気のある地域として注目されていたことも一つの要因として考えられます。

人口増のなか、待機児童も増え続けていたため、愛知県では保育所定員を毎年拡充し続けています。前出の「愛知県における待機児童数推移」の表を見ると、定員を増やしても増やしても待機児童の増加に追いつかない状況であったことがわかります。

ところが、同調査によると、2020年に、愛知県の人口は初めて減少に転じました。マイナス0.16パーセントという低い数値ですが、尾張、西三河、東三河地域のすべてで人口が減少しています。人口減少のなかでも、待機児童解消のための保育所定員の拡充は継続されており、2020年度は愛知県全体で2,364人の定員増を確保しています。

2024年度まで、保育所定員を拡充するプランは継続される予定ですので、いずれ近い将来にはさらなる待機児童減が見込まれます。

1歳児の保育環境を強化し、待機児童減少へ
待機児童減少の要因はほかにも挙げられます。愛知県は、全国と比較して待機児童に占める低年齢児(0~2歳児)の割合が多い傾向にありました。「平成28年度国の施策・取組に対する愛知県からの要請」によれば、2014年4月1日時点で全国平均が84.5パーセントのところ、愛知県では待機児童に占める低年齢児の割合は96.3パーセントという高い確率です。

そこで、愛知県では県独自の取り組みとして、1歳児の保育環境整備を強化しました。1歳児保育にあたる保育士確保のために、予算を増設し、人件費補助を行っています。施設の定員としては余裕があっても、保育士不足で定員を低く押さえざるを得ない、という状況を改善する施策です。

名古屋市は待機児童ゼロを達成

待機児童ゼロを達成しているものの、課題が多い名古屋市

愛知県のなかで最も人口の多い名古屋市について、待機児童数の推移を見てみましょう。

出典:名古屋市「令和2年4月1日現在の保育所等利用状況について

名古屋市の待機児童数は、2014年からゼロ更新を続けています。「大都市の名古屋で?」と驚かれるかもしれませんが、表の下段にある「未利用児童数」に注目してください。「未利用児童数」とは、いわゆる「隠れ待機児童」のことです。

国は、待機児童数を調査するにあたり、これまで各地方自治体が定めていた独自の定義を刷新し、全国で統一することにしました。2001年、2017年に定義の改訂が行われ、現在は以下のような条件では待機児童にカウントしないことになっています。

1. 特定の保育所利用を希望している
2. 保護者が求職活動を休止している
3. 認可外施設を利用している
4. 企業主導型施設を利用している
5. 保護者が育児休業中である
出典:厚生労働省 保育所等利用待機児童数調査に関する自治体ヒアリング 参考資料2「保育所等利用待機児童の定義

隠れ待機児童の問題は、全国の大都市で問題になっています。

名古屋市の「未利用児童数」は年々増加傾向
先の表でわかるとおり、名古屋市の隠れ待機児童(未利用児童)は増加傾向にあります。そのほとんどが、特定の保育所利用を希望している人です。特定の保育所を希望する理由はいくつかあります。たとえば、兄弟で同じ保育所に通わせたい、通勤に便利な場所にある保育所に通わせたい、などです。

このような理由で待機せざるを得ない児童をきちんとカウントしていかなければ、本当の意味でニーズに沿った待機児童対策は望めないでしょう。

名古屋市内隠れ待機児童数ワーストランキング
ここで、名古屋市内の未利用児童数を見てみましょう。

出典:名古屋市「令和2年4月1日現在の保育所等利用状況について

最も多い区は緑区、次いで中川区、天白区となっています。緑区は、名古屋市内で人口が最多の区です。また、天白区は近年、公共交通機関が整備され、住宅地としての需要もあります。いずれも、昨年に比べると未利用児童数は減少しています。

愛知県で子育てしやすい街は?

隠れ待機児童を含めて、すべての待機児童をゼロにするのは難しいことですが、行政として待機児童対策に積極的に取り組んでいる市があります。

【長久手市】待機児童解消に家庭保育室を設置
人口6万人ほどの長久手市は、県全体で人口減となっているなか、人口増となった市です。増加率は1.4パーセントで県内第1位、愛知県北西部に位置する自然豊かな市です。公共交通機関で名古屋市の中心部にも出やすく、豊田市とも近いという立地で住民が増え続けています。2015年の国勢調査では、住民の平均年齢が38.6歳と全国で最も若い自治体になりました。

長久手市では、待機児童解消対策として、家庭的保育事業を市の認可事業として位置づけています。市の認可を受けた保育士資格者がマンションなどの居室で、少人数を家庭的な環境で保育するものです。
0歳児から3歳未満児が対象で、3歳児以降については、長久手市立保育園に継続入所扱いで入所(転園)することが可能です。

長久手市の待機児童数は、2020年4月時点で32人。決して少ない数字とはいえませんが、前年度より減少しています。ただし、厚生労働省が取りまとめた、「保育所等関連状況取りまとめ(令和2年4月1日)」の参考資料「申込者の状況」によれば、長久手市の未利用児童にあたる子どもは、57人いる計算になります。長久手市では、2021年にさらなる利用定員数増を予定しており、今後も対策を行っていく方針です。

【日進市】新設園と小規模保育事業で受け入れ
日進市は、愛知県内で長久手市に次いで人口が増えている市です。長久手市の南に位置し、名古屋市と豊田市をつなぐような形でベッドタウンとしてのにぎわいを見せています。市内には、地下鉄の駅が1つ、私鉄の駅が3つあり、名古屋市内へのアクセスも容易です。自然豊かな土地柄で、子育て環境の良さには定評があります。

日進市では、子ども・子育て支援事業計画として、2015年から5カ年計画を立て、支援を行っています。保育園を新設するとともに、新たに小規模保育事業を立ち上げました。2021年現在、市内では、保育園(15園)、認定こども園(4園)および小規模保育事業所(8園)を利用することができます。

日進市の待機児童数は、2019年には35人でしたが、2020年には23人に減少しています。ただし、長久手市と同様、未利用児童にあたる子どもが91人いる計算です。さらに保育所利用希望者は増加しており、今後も引き続き待機児童減少への取り組みを期待したいところです。

【名古屋市】激戦区のなかに穴場はある?

保活激戦区と言われる名古屋市内でも、名東区、千種区などは穴場?

人口の多い名古屋市は、保活激戦区です。保育所定員の数は毎年増やしていますが、希望者の増加には対応が追い付いていません。公式発表は7年連続で「待機児童ゼロ」をうたっていますが、未利用児童が多いのです。2020年4月時点で、市内でも特に未利用児童が多いのは、人口の多い緑区、住宅地が多い天白区、逆に最も少ないのは、熱田区です。とはいえ、どの区も未利用児童がゼロではないわけですから、それぞれ保活の苦労は避けられません。

しかし、意外な穴場としては名東区、千種区が挙げられます。両区とも転勤族の家庭が多く、タイミングによっては空きが出る場合もあるようです。地下鉄で名古屋駅まで短時間でアクセスできるので、通勤にも便利。星ヶ丘、本山、覚王山など、おしゃれで文化的な町として人気のエリアがあり、休日の楽しみ方も広がりそうです。

待機児童は多くないものの、隠れ待機児童に注意

愛知県は、近年待機児童が増加傾向にありましたが、2020年には減少しています。この傾向が続けばよいのですが、実際は「隠れ待機児童」と呼ばれる、見えない待機児童が増えています。女性の就労希望者が今後も増加していくと思われる状況のなか、待機児童の解消は県全体の大きな課題です。

隠れ待機児童の多い名古屋市でも、ファミリーマートと連携協定を結び、2020年3月に店舗一体施設の認可型保育園を開設するなど、受け皿を増やす取り組みが進められています。こうした動きがさらに進めば、名古屋市内の隠れ待機児童数減少につながる希望も見えてきます。保育園に無事入園できても、子育てはその後も長く続きます。先々のことも視野に入れた、子育て環境の見極めが必要です。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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