「火の用心、マッチ一本火事のもと!」というかけ声とともに響く拍子木の音は、東京で見かける冬の風物詩です。火災防止のための見回りが始まったのは、幾度も大火に見舞われた江戸時代ですが、冬は東京に限らず火事の多い季節です。せっかく手に入れた念願のマイホームを、ちょっとした気の緩みによる火の不始末で灰にしてしまっては悔やんでも悔やみ切れません。出火しないために気をつけるべきことは何でしょうか。

冬はなぜ火事が起こりやすいのか

原因は主に2つあります。

1つ目の原因は空気が乾燥しているから。空気が乾燥すると空気中の水分量と同様、建物や家具などに蓄えられる水分量も少なくなります。乾燥しているもののほうが燃えやすいので、ちょっとした火の気が大きな火事につながりやすくなります。

2つ目の原因はストーブなど暖房器具を使う機会が増えることですが、暖房器具の消し忘れや間違った使い方などから火災が発生するためです。

総務省消防庁によれば、2019年の総出火件数は37,683件で、前年より298件減少しました。近年の出火件数を見ると、2004年以降おおむね減少傾向にあり、2019年中の出火件数は、2004年の62.4%なので、4割近く減っていることになります。とはいえ、全国で1日当たり100件以上の火災が発生している計算になります。

出典:総務省消防庁「消防統計(火災統計)」

火災における最大の悲劇は、亡くなる人が出ることです。2019年の火災による総死者数は1,486人(建物火災1,197人、車両火災102人など)、負傷者数は5,865人でした。

建物火災における死者1,197人のうち住宅火災における死者は899人(放火自殺者等を除く)でした。その899人のうち、65歳以上の高齢者は662人と7割以上を占めています。

なお、東京に関していえば、2019年の火災件数は4,089件で前年より116件増えており、死者も108人で前年より22人増えています。

出典:総務省消防庁「令和元年(1〜12月)における火災の状況(確定値)」

出火原因の1位は「たばこ」。「放火」は減少傾向に

火災の多くは火気の取り扱い不注意や不始末によるものです。出火原因別に見ると、たばこが3,581件と最も多く、次いでたき火が2,930件、こんろが2,918件となっています(図表3参照)。

たばこによる火災は、3,414件で全火災の9.5%を占めています。6割以上は「不適当な場所への放置」によるものです。たばこ火災では無炎燃焼が起こります。無炎燃焼とは炎を伴わない燃焼のことです。燃焼自体が緩やかな状態が続くため、燃えていることに気づきにくいのです。

放火による出火件数は、おおむね減少傾向が続いています。2019年中の放火による出火件数も2,757件と前年に比べ減少しています。これに放火の疑いを加えても4,567件(全体の12.1%)で、やはり前年に比べ減少しています。

喫煙者は年々減っており、たばこがいまだ原因のトップというのも、やや意外な感じもしますが、公益財団法人市民防災研究所の坂口隆夫理事・事務局長はこう指摘します。

「2019年の1年間を見ると、火事の原因は東京でもたばこが1位ですが、実は1977年から放火がずっとトップでした。43年ぶりにたばこがトップになりました。ただ、全国の統計は『放火』と『放火の疑い』を別にしていますが、東京はこの2つを分けずに一緒にカウントしているのも理由です。放火犯が減ったともいえますが、燃えやすいものを屋外に置かないなど、多くの方が注意するようになったのでしょう。喫煙者は減っていますが、たばこの不始末の件数はあまり変わりません。冬になると寒いので、ふとんのなかで寝たばこをする人が増えます。お酒を飲んで、寝たばこで火種が落ちても気づかないとか。寝たばこで亡くなる人は、喫煙率が高い高齢者男性の割合が高いですね」

出典:総務省消防庁「消防統計(火災統計)」

住宅火災は「使い慣れたコンロ」に注意

全火災(37,683件)だと出火原因1位はたばこですが、そのなかでも住宅火災(10,784件)に限ってみると、原因1位はこんろ(1,818件)で、たばこ(1,420件)は2位になります。さらに、ストーブ(842件)が3位に浮上します。

どこの家庭も毎日使っているこんろ。使い慣れているこんろでなぜ火事になるのでしょうか。以下は東京消防庁による2019年の「こんろ火災」の発生状況です。

● 放置する・忘れる 37.5%
● 可燃物が接触する 17.4%
● 誤ってスイッチが入る 9.6%
● 接炎する 8.7%
● 過熱する 7.8%
● 考え違いにより使用を誤る 7.0%
● 引火する 5.2%

原因トップの「放置する・忘れる」というのは、使い慣れているから油断するのでしょう。

ちなみに、上から4番目の「接炎する」は、こんろの火が鍋底をはって、近くのまな板に直接火が当たって出火したような場合を指します。もし、こんろの近くでスプレーを噴射して火がついたら「引火する」という表現になります。

坂口さんは、「着衣着火」も増えているといいます。

「冬は裾や袖の長いものを着ているので、そこに火が点くことが多い。着衣着火は死傷率がとても高く、危険です。火が鍋やフライパンからはみ出さないように調節し、こんろの周りを整理しておきましょう。こんろの向こう側に調味料などを置いてそれを取ろうとしたときに着火してしまいます。それから、エプロンやアームカバーは防炎製品のほうが良いです」(坂口さん)

出典:総務省消防庁「消防統計(火災統計)」

電気ストーブのほうが石油ストーブより危ない!?

冬に発生する火災の一番の特徴は暖房器具によるものですが、坂口さんは「暖房器具のなかでもストーブ火災が最も多く、ストーブのなかでも電気ストーブによるものが増えている」といいます。

東京都が「ストーブのうち、最も火災の危険が高いと思うもの」についてアンケート調査したところ、8割以上の人が石油ストーブと回答しました。しかし、実際には電気ストーブの火災が最も多く発生しています。電気ストーブは、「火を使わない」ことで、火災になりにくいと思われがちですが、ストーブ火災の実態と大きく異なっています。

出典:東京消防庁「意外に恐い!電気ストーブを安全に使いましょう!!」

電気ストーブの火災を防ぐための注意について坂口さんはこう話します。

「寝るときや部屋を離れるときは必ずスイッチを切りましょう。できればコンセントを抜いたほうがいいです。それからストーブの上に洗濯物を干さないように。1メートル以内には可燃物を置かないでください。電気ストーブは高齢者にも扱いが簡単なので便利ですが、1人暮らしの方が就寝中に亡くなるケースが多く見られます」(坂口さん)

2004年に消防法改正、古い住宅は自分で火災警報器を

住宅火災の被害を防ぐために家庭できることといえば、まず、少なくとも消火器1本を常備しておくことです。置いておくだけでなく、家族全員が使えるようにすることが大切です。

消火器には、共同住宅等で設置が義務付けられている消火器のほか、一般住宅向けの小型で軽量な住宅用消火器や片手でも使用できるスプレー式のエアゾール式簡易消火具もあります。

2004年6月に消防法が改正され、新築については2006年6月から住宅用火災警報器の設置が義務付けられました(東京都では全国に先駆けて2004年10月1日から火災予防条例により設置が義務化)。よって、それ以前の住宅については、自分で警報器を設置する必要があります。

住宅用火災警報器は、電子部品の劣化や電池切れなどで火災を感知しなくなったり、故障しやすくなったりするので、定期的に点検を行うことが必要です。設置10年をめどに本体の交換を検討しましょう。

「2019年の調査によると、すべての部屋・階段に火災警報器を設置している家庭は68.3%(全国)です。全体でこの数字なので、消防法改正以前に建てられた住宅は設置率がかなり低いのではないでしょうか」(坂口さん)

なお、住宅用火災警報器には「煙式」と「熱式」の2種類あります。火災の多くは、最初に煙が立ち昇るため、「煙式」のほうが早期発見に適しています。「熱式」は、台所など火災以外の煙で警報を発する恐れがある場合に設置します。

地震による二次災害としての火災にも注意

どれだけ日常的に防火防災を心がけていても、大きな地震が起きたときは二次災害として火災が多発します。1995年1月の阪神・淡路大震災のときも、2011年3月の東日本大震災のときも、約300件の火災が発生しました。それにより焼死者数がそれぞれ約400人、約150人と甚大な被害が出ました。

地震後は物が散乱し、着火しやすい危険な状態になっており、そこにストーブが倒れたら、簡単に火事になってしまいます。あるいは、停電になったときにブレーカーはそのままで、暖房器具のプラグが差し込まれたままになっていると、停電が解消されて通電が開始されたときに火事になる可能性があります。

「阪神・淡路大震災では原因が判明している火災の6割が電気関連で、通電火災が問題になりました。物が落ちてきて、家電のコードに傷がつくと、ショートして火災になることもあります。東日本大震災も原因がわかっている火災の6割以上が電気関連でした。電気火災を防ぐことが、大規模な被害を防ぐことにつながります。避難するときに家電のプラグを抜き、ブレーカーを落とします。しかし、大地震発生時にとっさにそのような行動が取れるとは限りません。国は電気火災を防ぐために感震ブレーカーの設置を進めています」(坂口さん)

感震ブレーカーは、設定値以上の地震の揺れを感知して自動的に電気の供給を遮断し、電気出火を防ぐ効果的な器具です。分電盤タイプや工事不要の簡易タイプ、コンセントタイプなどさまざまあります。自治体によっては、自治会・町内会を対象に、感震ブレーカーの購入・設置に補助金を出しているところもあります。

首都直下地震が起きると61万棟が全壊するとの予測がありますが、坂口さんによれば、そのうち41万2,000棟は火災で消失するといわれています。首都圏に住んでいる人は、地震と火災に対して一体的に備える必要がありそうです。

<取材協力>
公益財団法人市民防災研究所

 

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
~こんな記事も読まれています~

この記事が気に入ったらシェア

おすすめ記事