コロナの影響で見直されているのは「準都心・近郊外」エリア~住宅ジャーナリスト・櫻井 幸雄さんインタビュー ~

この記事は12月16日(水)に発売されたARUHIマガジン初のムック本『コロナ時代にどう変わる?知らなきゃ損する家とお金の話』から転載しております。

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コロナ禍で発生した人気エリアの「逆流現象」

住宅ジャーナリストの櫻井幸雄さんは、コロナ禍が住宅・マンション事情に与えた影響で、まず目立つのは「逆流現象」だと言う。

コロナ以前の住まい選びは、便利さ優先の流れがありました。東京ならなるべく都心寄りがいい、郊外でも駅に近い所がいい。将来値上がりしそうな物件であればさらにいい。つまり資産価値重視の考え方が10年近く続いていました」
 
結果、こうした物件の価格は上昇を続ける。それでも購入しやすい価格帯をキープするために、物件は狭くなっていく傾向が見られた。「多少、狭くても便利な立地がいい」というわけである。「その狭い家がコロナ禍のステイホームでは息苦しく感じてしまった。家は便利だけではなく広さなど快適性も大切。便利さだけで考えてはいけないのかも、と多くの人が気づいたわけです。広い家なら少し都心や駅から離れていてもいいのではないか。そんな見直し、逆流現象が起きたのです」
 
実際、メディアではテレワークが定着すればリゾート地のような所に家を設けてもよいのでは、といった言説も出ていた。だが、櫻井さんはそこまで極端には振り切れはしないと見ている。

「リゾート地とまでいかなくても、たとえば郊外の80㎡以上で4000万円台くらいの新築マンションが購入できるエリアに家があってもよいのではないか、といった意見も出ました。しかし、夏頃から徐々に日常が戻り始めると、テレワークも一部導入という企業が多く、朝の通勤電車もそれなりに混み始めました。すると、あまり遠すぎるのも不便となる。その結果、注目され始めたのが『準都心・近郊外』というエリアです
 
具体的には「準都心」は山手線の外側。駅なら西葛西や南砂町、赤羽、王子。エリアなら杉並区や世田谷区など。「近郊外」は東京都下、埼玉、千葉、神奈川の東京23区に隣接するエリアが例である。

「通勤電車も来年、リモート授業が続いている大学が通常形態に戻れば混雑はさらに戻る可能性が高い。とはいえコロナの収束に関しては予断を許さない状況が続く可能性がある以上、以前のような便利さのみ重視に戻るリスクもある。ステイホーム時の経験も影響するでしょうし、逆流現象の流れはしばらく続くと思いますね」

「準都心・近郊外」で2LDK、1LDK の需要増か?

 では「逆流現象」で注目されるのはどのような物件なのだろう。

「準都心・近郊外エリアは、これまで3LDKの物件なら高くても5,000~6,000万円台で買えるエリアでした。ただ、すでに価格の上昇傾向が見え始めています」
 
そこで櫻井さんが予想するのは、「準都心・近郊外エリア」における2LDKや1LDKの物件増加だ。

共働きが定着しつつある若い世帯はダブルローン、夫と妻の2人でローンを組むことが当たり前になってきている。すると若い世代でも6000万円台の家が買えてしまうんですね。そこに2LDKや1LDKという部屋数は減るけど一つひとつの部屋は広いという住まいが増えるのではないでしょうか」
 
通勤にもそれなりに便利で、テレワークをするにもある程度の余裕がある。それでいて将来的に売却しやすいのであれば、若い世代でも購入しやすい物件といえるだろう。さらにこのタイプの物件には、現在、検討されている住宅ローン減税の見直しにも適している点があるという。

「検討されているのは、まず控除期間の延長。これはどの物件にも影響があります。注目は延床面積50㎡以上という条件の緩和。これが決まれば1LDKの物件がグッと購入しやすくなるでしょう。女性誌などを見ていると、シングル女性がマンションを購入しようとする場合、希望価格は3000万円未満が多い。しかし、もし住宅ローン減税が使えるのであれば、もう少し高額なマンションも購入しやすくなるのではないでしょうか」

郊外に広がる人気の街まだまだ「穴場」も多い?

櫻井さんは毎年発表される「ARUHI presents 本当に住みやすい街大賞」の審査委員長を務めている。つい先日、発表された2021ランキング(※上の表参照)についても、ここまで解説していただいた最新事情が反映されているという。

「1位は川口(埼玉県川口市/JR京浜東北線)です。まさに『準都心・近郊外』という街ですが、昨年も1位でした。もともと『本当に住みやすい街大賞』は利便性、資産価値第一という傾向に、『暮らしやすい住環境も人間には大切』と一石を投じるランキングではあったんです(笑)。それがコロナ禍の住宅ニーズにも合致した形です。全体的に見てもランク上位の街が郊外に広がっている印象ですね」
 
2位の大泉学園(東京都練馬区/西武池袋線)は「山手線外側」の代表例。
「大泉学園は古くから定評のある住宅街のひとつ。ただ、同時期に形成された渋谷区の松濤や世田谷区の桜新町といった住宅街に比較すると価格的に購入しやすく、自然を感じられる場所も近いです」
 
そして「穴場」として注目してほしいのが10位の浦和美園(埼玉県さいたま市/埼玉高速鉄道)。
「埼玉高速鉄道は東京メトロ南北線と直通運転をしているので都心へのアクセスがいい。駅周辺の開発もだいぶ整い、施設やお店が増えて暮らしやすくなりました。それでいて周囲には田園風景など豊かな自然が広がっています。さらに浦和美園のマンションの多くは駅から近い。ほぼ駅から徒歩10分圏内と言っても過言ではありません。こうした条件に恵まれながら価格水準は今も3LDKで3000万円台を維持しています」
 
また、浦和美園は始発駅でもあり、座って通勤しやすい点も魅力だ。現在、埼玉高速鉄道の列車は各駅停車のみだが、もし今後、急行などができて都心へのアクセスがさらによくなれば人気が高まる可能性はある。
 
コロナ禍で変わった住宅ニーズ。今はその過渡期ともいえる時期だけに、意外な「穴場」は、まだ隠れているかもしれない。

お話しいただいた人

櫻井 幸雄さん
住宅ジャーナリスト
35年にわたり年間200物件以上のマンション、戸建てを取材。全国の住宅事情に精通し、現場取材に裏打ちされた正確な市況分析とわかりやすい解説で定評のある住宅評論の第一人者。「不動産の法則 誰も言わなかった買い方、売り方の極意」(ダイヤモンド社)など著書多数。

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