2021年の住宅市場はどうなるのか――着工、販売、価格などを専門家が予測

コロナ禍に明け暮れた2020年。日本国内の社会・経済は大きな打撃を受けました。住宅市場も当初は大きく落ち込んだものの、比較的早く回復、新築・中古、マンション・戸建てともに堅調に推移していると言っていいほどです。では、2021年の住宅市場はどうなるのでしょうか。住宅着工見通し、発売や成約動向、そして価格などに関して予測してみました。

【住宅着工の見通し】2021年度住宅着工戸数は80万戸前後

まず、住宅着工戸数(戸建て、集合住宅)がどうなるのかを見ると、一般財団法人建設経済研究所(以下、建設経済研究所)の「建設経済モデルによる建設投資の見通し」では、図表1のようになっています。

2019年度の実績は約88.4万戸でしたが、2020年度はリーマンショック直後以来の80万戸割れとなって、79.7万戸と予測しています。

2021年度は徐々に回復する見込みではあるものの、回復のスピードは緩く、2020年度並みの約80.2万戸にとどまるだろうと見ています。そのなかで、新築マンションや建売住宅などの分譲住宅は1.3%の増加を見込んでいますが、さほどの増え方とはいえず、横ばいの水準にとどまると考えていいでしょう。

このように住宅着工戸数が増えないということは、新築住宅の発売戸数もさほど増えず、2020年度と同様に抑制傾向が続くと見ておくのが無難なようです。

出典:建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見通し(2020年10月)」

【発売・成約動向】首都圏マンション市場では中古が新築の2倍近くに

そうしたなかで、マンション市場を見ると、中古マンションが新築マンションを凌駕して、マンション市場の主役になりつつあります。

図表2は、2020年1月から10月までの首都圏の新築マンションの発売戸数と、中古マンションの成約件数の累計を示しています。コロナ禍で2月から4月は新築も中古も停滞しましたが、5月以降は急速に回復して、発売戸数、成約戸数が増加しています。

なかでも、中古マンションの増加が際立っています。国土交通大臣指定の公益財団法人東日本不動産流通機構(以下、東日本レインズ)の調査では、8月には、1990年5月に東日本レインズが発足して以降、8月としては過去最高の成約件数を記録しました。その後、10月、11月にも再びそれぞれの過去最高の制約件数をたたき出しています。

その結果、グラフでもわかるように、中古マンションの成約戸数は新築マンションの発売戸数を大きく上回り、2倍近くに達しています。

出典:新築マンション/株式会社不動産経済研究所「首都圏のマンション市場動向」、中古マンション/東日本レインズ「月例速報 Market Watchマーケットウォッチ」

住宅市場における戸建ての存在感が高まる可能性

先に触れたように、分譲住宅の2021年度の着工戸数は微増にとどまる見通しですから、発売戸数も2020年度並みになるでしょう。そのため、戸数で見た中古物件の優位性はゆるがないものになりそうです。

供給や発売面でのいまひとつの変化として、住宅市場のなかでの戸建ての存在感の高まりを挙げることができそうです。コロナ禍による在宅ワークの定着で、住まいのなかにワークスペースが求められるようになり、安全・安心という観点からも人との接触機会の少ない戸建ての人気が高まっています。ウィズコロナのなかで、当面はテレワークが続きそうですし、ポストコロナになっても、一定割合でテレワークの働き方が残るのではないかという見方が強まっています。
そのため、株式会社リクルート住まいカンパニー(以下、リクルート住まいカンパニー)の調査などによると、コロナ禍以前に比べて戸建てを希望する人が増えています。

2021年もその流れが続き、住宅市場における戸建ての存在感が高まる年になるのではないでしょうか。

参考:リクルート住まいカンパニー「第2回 コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査

【価格】大都市の高度利用地から地価下落が始まっている

次に、2021年の住宅価格はどうなるのでしょうか。

マンションや建売住宅などの新築住宅の価格は、土地取得費、建築費に分譲会社の経費・利益を加えた総額を戸数で割って決定されます。ですから、地価や建築費が上がれば、住宅価格の上昇要因となり、反対に下がれば住宅価格も下がる可能性があります。

その地価についてはコロナ禍で下落が始まっています。国土交通省が全国の主要都市の駅前や繁華街などの高度利用地の地価を調査した「主要都市の高度利用地地価動向報告」によると、2020年後半には、上昇エリアがほとんどなくなり、横ばいと下落エリアが大半になっています。

2020年初頭まではジワジワとした地価上昇が続いていたのが激変しました。この高度利用地の地価は全国の地価の先行指標ともいわれていますから、今後、地価下落の流れが全国に広がる可能性があります。

上がり続けてきた建築費も曲がり角に

もう一つの要素である建築費を見ると、このところ資材価格や人件費の高騰によって上がり続けてきましたが、コロナ禍の影響もあって、それも曲がり角にさしかかっているようです。

図表3にあるように、国土交通省の「建設工事費デフレーター」によると、若干の上下動はありながらも、2019年から2020年の後半にかけては2011年を100とした指数で、110台前半で推移しています。まだ、建築費が下がるには至っていませんが、これまでの上昇傾向に歯止めがかかり、横ばいに転じているのは間違いなさそうです。

地価が下がり、建築費も頭打ちとなれば、新築住宅の価格下落要因になりそうですが、これまでのところそうはなっていませんし、当面も価格低下はあまり期待できそうもありません。なぜなのでしょうか。

理由はいくつか挙げられます。第一には、地価の低下や建築費の頭打ちが価格に反映されるまでには、一定の時間がかかるという点です。

出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」

大手不動産中心の都心やその周辺は下がらない

新築マンションの場合、仕入れた土地にどんなマンションを建てるのか計画を立て、詳細設計を行って工事を始めるまでに、小規模な物件でも1年、大規模物件だと数年かかります。多くの場合、着工してから一定期間後に販売が始まりますから、土地の上に建つマンションが、新築市場に登場するのは、まだしばらく先のことになります。

それに、マンション市場ではリーマンショック後に中堅以下の中小規模の分譲会社の多くが撤退し、現在は大手不動産、大手住宅メーカーなど経営体力のある企業が中心になっています。地価が下がったからといって、あわてて分譲価格を下げる必要はありません。一定価格を維持して、分譲会社としての利益を確保しようという動きが強まります。

ですから、都心やその周辺を中心とした大手不動産の強いエリアでは、当面価格が低下する可能性は少ないわけです。コロナ禍で先行き不安を強めている消費者が多いため、価格を上げることは難しいでしょうが、高値を維持する方向に動くと見られます。

ですから、一般財団法人日本不動産研究所(以下、日本不動産研究所)では、図表5にあるように、東京23区の新築マンション価格は、2020年以降、微上昇または横ばいが続くと予測しています。

出典:日本不動産研究所「東京23区のマンション価格と賃料の中期予測/2020下期」

中古マンション価格はしばらく上昇が続くか

ただ、中堅以下の分譲会社が得意とする郊外や地方は、その限りではありません。2021年には価格低下が始まる可能性があり、都心と地方の二極分化がより鮮明になっていきそうです。

新築マンション価格が高止まりすれば、価格差の大きい中古マンションの上昇傾向は2021年も続くことになるのではないでしょうか。

新築マンション価格を調査している株式会社不動産経済研究所(以下、不動産経済研究所)の調査によると、2020年度上半期(2020年4月~9月)の首都圏新築マンションの平均価格は6,085万円ですが、東日本レインズによる2020年7月~9月の中古マンション成約価格の平均は3,656万円でした。その差は2,000万円以上あり、中古価格の上昇余地は大きいのではないでしょうか。

参考:不動産経済研究所「首都圏新築マンション市場動向
  :東日本レインズ「季報 Market Watch サマリーレポート

まとめ~2021年は価格面からも戸建てが注目される年に

マンションに比べて、戸建ての価格は比較的安定しています。東日本レインズの調査では、首都圏新築戸建ての価格は、2009年には3,565万円だったのが、2019年は3,510万円と、10年間ほとんど価格が変わっていません。むしろ若干ですが安くなっているほどです。中古戸建ては2009年の2,988万円に対して、2019年は3,115万円でした。こちらはわずかに上がっていますが、10年間で4.3%の上昇ですから、この間に3割から4割も上がっているマンションに比べると格段に落ち着いた値動きといっていいでしょう。

2021年もこの傾向に大きな変化はないと見られますから、コロナ禍で人気が高まっている戸建てへの注目度が一段と高まることになるのかもしれません。

以上、2021年の供給動向や価格などの見通しを見てきましたが、総じていえば、コロナ禍でも住宅市場が激変することはなさそうです。

もちろん、コロナ禍による先向き不安はあるでしょうが、だからといって先延ばしにするだけでは、いつまでも買えないままになってしまうかもしれません。
この予測を参考に、コロナ禍に負けず、マイホームを実現される人が多いことを願いたいものです。

参考:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2019年)

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