家のココが浸水注意! 住宅診断士に聞く戸建ての水害チェックポイント

本格的な台風シーズンを迎え、気になるのが集中豪雨による風水害です。昨年9月に千葉県を襲った台風15号では、ゴルフ練習場のポールが倒壊して民家を直撃した映像が衝撃的でした。また、10月の台風19号では千曲川や多摩川、阿武隈川など大きな河川が氾濫し、広い範囲で大きな被害を出しました。死者・行方不明あわせて94人、重軽傷者は380人以上でした。特に災害大国の日本に住む私たちは、日々の備えが問われています。

住まい選びでは「ハザードマップ」の確認を第一に

まず、これから住宅を購入しようと考えているなら、自治体の「ハザードマップ」を確認することが大切になります(図表1)。

図表1 改めて知っておきたい「ハザードマップ」

東京都世田谷区のハザードマップ。ハザードマップとはいわゆる「被害予測地図」のことで、自然災害による被害を予測し、その範囲を地図上に表したもの。想定される浸水の深さが色分けされており、避難場所や避難すべき方向(矢印)など災害時に必要な情報が掲載されています。各自治体のホームページなどで確認できます

2020年8月28日から、マイホームを購入または賃貸する人に向けて不動産業者が行う契約前の「重要事項説明」で、ハザードマップを用いた「水害リスク」について説明することが義務付けられました。

義務化された「水害リスク」の説明

●水防法に基づき作成された水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップを提示し、対象物件の概ねの位置を示すこと
●市町村が配布する印刷物又は市町村のホームページに掲載されているものを印刷したものであって、入手可能な最新のものを使うこと
●ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましいこと
●対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮すること

参考記事:【2020年8月末から】住宅の購入・入居を希望する人に水害リスク説明を義務化

そのうえで、洪水や浸水リスクの高いエリアには住まないという選択肢もアリです。住まい選びでは、予算や通勤時間、子どもの通学など様々な要素があり、総合的に勘案して決めるものですが、将来にわたって安心して長く住むことを考えれば、できるだけ災害リスクは避けたいものです。

ここで東京都内で水害が発生した場合を例に説明します。

大型台風や低気圧が接近すると海水面が平常時より高くなる高潮が発生します。東京都は、想定し得る最大規模の高潮による氾濫が発生した場合に浸水が想定される「高潮浸水想定区域図」を2018年に公表しました。それによれば、東京23区の3分の1の面積にあたる約212平方キロメートルが浸水するとされます。

東京23区の中でもとりわけ大きな被害が想定されるのは、墨田・葛飾・江戸川・江東・足立の「江東5区」です。東京都の試算によれば、墨田区は99%、葛飾区は98%、江戸川区は91%、江東区は68%、足立区も50%以上が浸水します。江東5区の被害想定は250万人なので、住んでいる人の90%以上が被害に見舞われる計算です。

自治体はそうした水害を想定してかなり早めに避難勧告を出すとしていますが、その「避難」が簡単ではありません。マイカーは水害では使い物にならず、公共交通のダイヤも乱れるでしょう。数十万人が一斉に動けば大混乱は必至です。

比較的安全な東京の内陸部でも油断は禁物

では、江東5区以外なら被害を受けないかといえば、不動産コンサルティング会社・さくら事務所の長嶋修会長は「必ずしもそうではない」と言います。

「関東の地盤はおおまかに言って、皇居の西側が強く、東側が弱い傾向にあり、この傾向は栃木県あたりまで続きます。これは、はるか昔の地形が影響しています。」(さくら事務所 長嶋修会長)

「しかし、西側ならどこでも安全かといえば、そうとも限りません。東京内陸部の世田谷区は標高25~50m程度の高さですが、起伏が非常に激しく、ハザードマップを見ると、浸水する可能性のある地域が多数存在します。都市部では、雨水の排水処理能力を超えるような大雨が降ると、処理しきれない分は路上に溢れ出します。昨今のいわゆる『ゲリラ豪雨』がそうです。」(さくら事務所 長嶋修会長)

近年都市部のゲリラ豪雨による水害が多くなっている

「たとえ標高が高くても、周辺の土地に比べて相対的に低いところに水が集中します。実際、東京都の内陸部である世田谷区深沢には、ここ数年の大雨で複数回にわたって浸水した戸建てがあります」(さくら事務所 長嶋修会長)

過去に浸水したことのある地域ならば、新築時に止水板などの防水装置が備えられているところもあるでしょう。長嶋氏も「各地域で随時対策が進められています。とはいえ、今後はますます気候変動が激しくなることも予想されるので、対策は怠らないようにしなければなりません」と話します。

地下や半地下に部屋を設けるのは水害リスクが高い

住む場所を決め、これから戸建てを持とうと検討している人は、風水害に強い構造の住居を検討した方がよいかもしれません。

戸建てには木造や鉄骨造、鉄筋コンクリート造(RC造)などがありますが、大半は今でも木造です。木造は相対的に風水害に弱いのですが、建築費が安いので現実的な選択としては仕方ありません。木造住宅を建てるうえで、さくら事務所のホームインスペクター(住宅診断士)田村啓氏は次のようにアドバイスします。

「地価が高く、狭い敷地の多い都心部では、居住空間を少しでも広く確保するため、地表面よりも低い空間に居室を設けるケースがあります。」(さくら事務所 田村啓氏)

地表面よりも低い部分に空間を設ける住宅では水害に注意

「半地下や地下に設けられた居室や、前面道路より下がった玄関・駐車場がある戸建ての住宅は、人為的に低地を作っているような状態なので、洪水リスクが低いエリアでも、水害に見舞われやすくなります」(さくら事務所 田村啓氏)

そうした半地下や地下の部屋は、台風やゲリラ豪雨が襲来すれば、下水が逆流するかもしれませんし、排出しきれなくなった雨水が流れ込んでくるかもしれません。

基礎の低い3階建て住居は注意

次に、やはり土地が狭い都市部特有の事情ですが、建築技術の向上もあって、近年は3階建て住居がかなり増えています。この3階建てにも注意点があります。

「建物の高さ制限や軒の高さ制限もある中で、各階の階高を維持しながら3階建てを建てようとすると、基礎礎(地面と建物のつなぎ部分に当たる土台)を低くしなければならなくなってしまいます。地表面からの基礎の高さは、40センチメートル以上が望ましいとされていますが、建築基準法で定める下限は30センチメートルです。そのため、基礎高が40センチメートルに満たないケースも珍しくありません」(さくら事務所 田村啓氏)

住宅の「基礎」とは、地面と建物のつなぎ部分にあたる土台のことで、建物のすべてを支えるとても重要な部分です。基礎工事の方法には、主に「ベタ基礎(防湿基礎)」と「布基礎」の2種類があります。

「水害の際、基礎が低いために、床上まで浸水してしまうケースがあります。なお、ベタ基礎は防湿性が高いとされていますが、それでも基礎の高さが十分でないと、湿気がこもる可能性が高くなります。床下に湿気がこもれば、構造体の木材の劣化を早めることにつながります。結果として建物の寿命が短くなるかもしれません」(さくら事務所 田村啓氏)

戸建ての水害被害はバルコニーに多い

浸水というと、昔の映画やドラマなどで見る天井から雨漏りするシーンを連想してしまいますが、田村氏によれば、今は天井からの雨漏りはそれほど多くないそうです。

雨が上がった後もバルコニーの表面が乾きづらいような場合は注意が必要

「バルコニーの水害被害に関する相談が一番多いですね。バルコニーに水が溜まって室内に浸水するのですが、その原因の1つとして、排水口の詰まりがあります。ただ、排水口はきれいに掃除していても、想定を超える大雨が降れば、排水口の処理能力を超えて水が溜まるおそれがあります。そんなときに役立つのがオーバーフロー管です」(さくら事務所 田村啓氏)

雨が上がった後もバルコニーが乾かないときは注意が必要

オーバーフロー管とは、排水口が詰まったときにバルコニーの外に排出するために開けられている穴です。屋内に水が浸入しないよう窓のサッシより少し下の位置に設置されています。
バルコニーには建物と一体化して作られているものと、後付けされているものの2タイプありますが、一体化タイプでも問題が起こる場合があります。

「バルコニーは防水・止水加工されていますが、時間の経過とともに劣化していき、内部に浸水することがあります。特に弱いのが、バルコニーと建物やサッシが接続している部分で、ここから浸水するとバルコニーだけでなく、建物内部にも雨水が入り込みやすくなります。雨が上がった後もバルコニーの表面が乾きづらいような場合は注意が必要です」(さくら事務所 田村啓氏)

戸建てのここに注意!水害に気を付けたいチェックポイント

・床下換気口

基礎の高さに問題がなくても「床下換気口」のある住宅も気をつけなければなりません。床下に湿気がこもると、ひどい場合には土台の腐食やシロアリ被害を引き起こすので、それを防ぐために基礎部分に設けてある穴が床下換気口です。

「建物によっては、地表面と換気口の高さが同じだったり、地中に換気口が半分埋まっていたりすることもあります。そうすると、ちょっとした雨でも換気口から床下に浸水することになるでしょう。非常時に床下換気口をふさぐための止水カバーも販売されています。ただ、常時、粘着テープなどで完全にふさいでしまうのはやめましょう」(さくら事務所 田村啓氏)

戸建ての浸水リスクは、エアコンの配管穴や外壁のクラックなど、まだまだあります。

・エアコンの配管穴

筆者撮影:室外機からのびるエアコンホース、壁穴との接着が不十分

木造の戸建てでは、エアコンを付けるために後から壁に穴を開けることがあります。配管の取付口の隙間はパテや専用のカバー、建物専用のボンドなどでふさぎますが、処理が甘いこともあります。

・窓周りのクラック(ひび割れ)

地震などで外壁の窓周りにクラック(ひび割れ)が生じると、そこから浸水するケースがよくあります。クラックができたら、その都度補修するようにしましょう。

・天窓

おしゃれな注文住宅などで見かける天窓も要注意です。屋根の勾配やしっかりした施工技術によって水漏れは回避できるという意見もありますが、数多くのホームインスペクション(住宅診断)を行っているさくら事務所によれば、天窓のある中古住宅はかなりの確率で雨漏り被害に見舞われているそうです。壁についている窓よりも雨を防ぐ材料・部材の劣化スピードが早くなるのは避けられないようです。

戸建ての水害リスクを中心に話を進めてきましたが、すでに水害リスクの高い地域に住んでいる場合は、今後どこを見て、どんな対策をすべきか、チェックポイントとして役立ててもらえればと思います。

取材協力:株式会社さくら事務所

(最終更新日:2021.02.17)
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