地域によって違う「住宅ローン」事情、コロナ禍の移住などでは注意を

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で在宅勤務が定着、マイホームへの考え方にも大きな変化が生じています。出勤頻度が減るのではあれば、東京、大阪などの大都市部にこだわる必要はないのではないかと、大都市の会社に勤務しながらも、地方への移住を考える人が増えているのです。そこで、知っておきたいのが、地域によって住宅事情が異なるだけではなく、住宅ローン事情も違っているという点です。

住宅ローンには3つの金利タイプがある

住宅ローンには、変動金利型、固定期間選択型、全期間固定金利型の3つの金利タイプがあり、どの金利タイプを選ぶのかは、その人の考え方、価値観によってきます。多少金利が高くても、何より安全性を重視するなら全期間固定金利型でしょうし、若干のリスクはあっても金利が低いほうがいいというのなら変動金利型です。固定期間選択型はその中間で、固定期間に応じて金利の低さとリスクの大きさが異なってきます。

大都市部であれば、メガバンクから地域金融機関まで多数の金融機関が住宅ローンを実施していて、借り手である消費者は比較的自由に選択できます。しかし、地域によってはそうはいかないところがあります。地方銀行、信用金庫などの地域金融機関の力が強く、その地域金融機関がどんなローンに力を入れているかによって、選択肢が限られることがあるので注意しておく必要があるのです。

図表1でも分かるように、全国的には、貸出債権の70.4%を変動金利型が占めています。次いで固定期間選択型の10年固定が14.3%、全期間固定金利型が5.0%などとなっています。

(資料:住宅金融支援機構「2019年度民間住宅ローンの貸出動向調査」)

北海道では3年固定と10年固定が主流に

しかし、地域によって中心となっている金利タイプは大きく異なっているのです。図表2にあるように、首都圏の属する南関東では都銀・信託などの大手銀行が強く、大手が力を入れている変動金利型が87.1%を占めていますし、近畿でも同様に83.6%に達しています。

しかし、地方圏では様々に異なります。
たとえば、北海道をみると、10年固定が46.6%と最も多く、次いで3年固定が34.8%です。それに対して、変動金利型は何と0.2%にとどまっています。

そこで、札幌市に本店を置く金融機関のホームページをみてみると――。

北海道銀行の住宅ローンのページでは、「今月のお借入金利(主な金利タイプ)」として、固定期間選択型の3年固定、5年固定、10年固定の金利が出てきます。
最も安いのは3年固定の0.70%で、10年固定は1.05%です。変動金利型は1.175%ですから、3年固定をメインに掲げているといっていいでしょう。

(資料:住宅金融支援機構「2019年度民間住宅ローンの貸出動向調査」)

北洋銀行は3年固定を0.35%で前面に

北洋銀行はもっとハッキリしています。こちらは、住宅ローンのトップに3年固定と全期間固定金利型の金利が出てきますが、なかでも、3年固定の金利は0.35%と破格の金利設定になっています。

ただし、この0.35%が適用されるのは、住宅ローンの事務手数料が定率型の場合です。住宅ローンには、当初の事務手数料が3万3,000円などと少ない分、やや金利が高い定額型と、事務手数料が借入額の2.2%などと高くなる分、金利が低い定率型があります。つまり、北洋銀行の3年固定の0.35%という金利は変動金利型よりも安いのですが、その分当初の手数料が高めになっているわけです。それでも、当初の手数料が高く、金利が低い定率型のほうが、返済総額ではかなり得になるケースが多いはずです。

北洋銀行も変動金利型は1.175%と3年固定に比べて高めの金利設定になっています。札幌市などに支店があるメガバンクなどの変動金利型は0.5%台から0.6%台の金利ですから、変動金利型で勝負する気はないという販売戦略がハッキリしています。変動金利型は二の次にして、3年固定の金利の低さによってお客を呼び込もうということでしょう。

北洋銀行のローンを東京でも利用できる?

これは、北海道の地域金融機関にほぼ共通した傾向ですから、北海道で住宅ローンといえば、3年固定になるわけで、どうしても変動金利型を利用したいというのなら、全国ブランドの銀行の札幌支店などを利用するのが現実的です。ただし、東京や大阪と違って店舗数が限られるので、店頭での手続きを希望する人にとっては、かなり不便になるのは覚悟しておく必要があります。

それでは、首都圏の人で固定期間選択型の3年固定などの破格の金利を利用したい場合、札幌に本店がある地方銀行の東京支店などを利用することはできないのでしょうか。

東京に支店が多いメガバンクなどでは、変動金利型は0.5%台から0.6%台の金利で、3年固定もやはり低くても0.5%台となっています。それに対して、北洋銀行の0.35%を利用できれば格段に有利になります。

しかし、残念ながら、北洋銀行では、「札幌在住の方が転勤によって東京で仕事をされていて、札幌のご家族のために、または札幌に戻ったときのために、札幌で家を探したいなどといったケースでは、東京支店で対応することができますが、東京の方が東京で探される場合には、残念ながら当行の住宅ローンは利用できません」としています。
こうした考え方は、ほとんどの地域金融機関に共通のようです。

四国では固定期間選択型の10年固定の金利が低い

もうひとつ、地域特性の大きなエリアとして四国をみてみましょう。先の図表2にあるように、住宅金融支援機構の調査では、四国地方で最も大きなシェアを占めているのは、固定期間選択型の10年固定の42.2%で、次いで全期間固定金利型の37.1%でした。それに対して、変動金利型は8.0%にとどまっています。四国で住宅ローンといえば、10年固定や全期間固定金利型など、固定期間の長いローンが大半を占めているわけです。

事実、松山市に本店のある伊予銀行のホームページで住宅ローン金利一覧をみると、一番初めに、当初10年間の金利が0.71%のローンが紹介されています。これは、名称は異なりますが、固定期間選択型の10年固定と考えていいでしょう。この0.71%が適用されるのは、融資手数料が借入額の1.1%ですが、2.2%の手数料を支払えば、金利は0.64%に下がります。

高松市に本店のある香川銀行でも、住宅ローンのトップには固定期間選択型が取り上げられ、5年固定が融資手数料1.1%で金利は0.65%、10年固定は融資手数料2.2%で金利0.75%となっています。手数料は高めでも、10年固定の金利の低さが目立っています。

地域の事情を理解して住宅ローンを利用する

このように、住宅ローン事情はエリアによってかなり異なっています。全国的には変動金利型が主流派であっても、地方によっては固定期間選択型の3年固定が中心だったり、10年固定が高いシェアを有しているエリアもあるのです。

東京圏、大阪圏などに住んでいると、住宅ローンといえば何より変動金利型と考えがちですが、地域によっては変動金利型を利用しにくく、固定期間選択型の金利のほうが低いところもあるのです。

転勤の多い会社に勤めている人だと、転勤先で住宅ローンを利用してマイホームの取得を考える人もいるでしょう。そんなときには、地域の住宅ローン事情をよく理解しておかないと、スムーズに利用できない可能性があります。

また、コロナ禍で在宅勤務が増えている人の中には、必ずしも会社のある大都市部での住宅取得にこだわる必要がない、価格が安く、広くて環境のいい住まいを購入しやすい地方でマイホームを取得したほうがいいのではないか、と考える人も増えているようです。

そんな場合には、どこに移住するのがいいのかを検討する際、現地の住宅事情とともに、それぞれのエリアの住宅ローン事情も調べておくのがいいでしょう。東京や大阪に家を買う感覚で計画を進めると、資金計画面で誤算が生じることがないとはいえないので注意してください。

※本記事内で紹介している金融機関の金利は2020年8月時点の情報です。

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