京都にタワマンが存在しない理由、住まいを購入する際の注意点

歴史的に貴重な神社仏閣や町家が多く残る京都では、景観を守るための条例や都市計画によって建物の高さや形、色などが制限されています。そんな京都の建築規制の内容と、住まいを購入する際に注意するべきポイントについて、京都市景観政策課と、京都で家づくりを手がけるgarDEN株式会社の竹園節子さんに伺いました。

京都市の景観条例

京都の町は、三方を山で囲まれた盆地に約1200年前に造営された平安京がベースとなっており、近年においては大きな戦災や震災の被害に遭っていないので、町の形や歴史的価値の高い建造物が多く残っています。

また京都では早くから町の景観保存が進められてきたため、戦後の高度経済成長期やバブル期などにも他の都市部のような大規模な開発は行われず、現在まで広範囲にわたって歴史ある景観が保たれてきました。

京都で最初に町全体の景観を保全する制度が誕生したのは1930年。約3400haに及ぶ広大な範囲を風致地区に指定したことから始まりました。その後、1972年には全国に先駆けて「市街地景観条例」を制定。美観地区や特別保存修景地区等を指定し、市街地の景観に大きな影響を与える巨大工作物の建設を規制しました。

また、1996年には屋外広告物等に関する条例を改定したことにより、屋外に立つ看板などはもちろん、窓ガラスの内側から掲示されている広告物に対する規制も全国で初めて導入されています。これらの規制は改正されるごとに厳しさを増しており、2007年に導入された「新景観政策」では建築物の高さの最高限度などが厳格化されました。

川床(納涼床)の並ぶ鴨川周辺。市街地にもかかわらず高層ビル、高層マンションは見当たりません

・高さ規制

京都市では、2007年に導入された「新景観政策」によって市内広域の建築物の高さが最大で31mまでに制限されています。31mとは概ね10階建て相当の高さのため、京都にはタワーマンションが存在しません。

また「新景観政策」では、31mという高さの最高限度に加えて、市街地の特性に応じた10m、12m、15m、20m、25mという段階的な高さ規制も設けられています。

京都は山沿いにも清水寺をはじめとした寺院が多く残っているほか、京都を囲む5つの山では、火床で大きな文字を作り、文字に点火する「五山の送り火」なども行われています。そのため町から山並みを望む景観が重視されており、高さの制限は山側へ行くほど低く設定されています。
また、町家の残る地域や鴨川周辺など、京都独特の景観が残る場所も規制が厳しくなっています。

高さ規制があるおかげで、京都市内のどこからでも五山の送り火を眺めることができます

・デザインの規制

京都では、建築物のデザインについても細かい制限があります。例えば、美観形成地区に面している鴨川近辺などでは、洋風デザインの建物は認められません。外壁の色も「歴史的町並みと調和する色彩」として具体的な色の指定があり、彩度が高い黄色や赤などは使用できなくなっています。さらに屋根は勾配屋根と規定されているため、傾斜のない平面の屋根は認められず、屋根に用いる瓦にも日本瓦・銅板といった規定があります。

物件や土地を探す際の注意点

マンションの供給数が少ない

京都は、東京や大阪に比べて不動産の供給戸数が大幅に少ないのが現状です。というのも、京都の市街地では幹線道路沿いの土地の高さ制限は31mとなっていても、少し路地を入った街の中ほどは制限が厳しくなり15mになります。15mというのは5階建て相当の高さであり、都市部のマンションとしてはかなり小規模。このような不動産が多いので、供給戸数が少なく価格も高騰傾向にあるようです。そのため、条件に合う空き物件を見つけるまでには時間がかかる可能性もあるでしょう。

五条通と堀川通の交差点。通りに面してマンションが並びますが、規模の大きなものはほとんどありません

狭小地が多く、ハウスメーカーでは対応してもらえないことも…

京都市内には、土地間口が4.5m前後で、敷地面積が20坪ほどという、奥に長い形状のコンパクトな土地が非常に多く存在します。このような土地は隣接する道も狭い場合が多く、建物の規格がある程度決まっている大手ハウスメーカーなどでは対応が難しいケースがあるようです。

家を建てる(リノベーションする)際に気をつけたいこと

窓の方角と軒庇(ノキビサシ)

三方を山に囲まれた京都は、風が通りにくい盆地であるため冷気や熱気がこもりやすく、「冬は寒く夏は暑い」といわれています。このような気候で住みやすい家を造るためには、断熱材や窓材の性能を上げるだけでなく、設計を工夫することも大切です。
例えば、西日はとても暑く夏場の室温を上げる原因になるので、窓を西側に造るのは避けた方がよいでしょう。また京都では、南中時の太陽の高さが季節によって大きく変わります。冬至には太陽が32度までしか上がらないため、室内を暖めるためには南側の大きな窓でしっかりと暖かい日差しを取り込むと快適に過ごせます。

一方、夏至には78度まで太陽が昇るので、上から照りつける日差しを遮る軒庇をしっかりと造ることで、室温の上昇を防ぎながら風を取り込むことができます。軒庇は日本らしい建物の景観を残す観点から設置が義務付けられている地区も多いですが、京都の気候を鑑みても設けるのがオススメです。


外壁や屋根の形状

京都の景観地区内では、周囲の町並みと調和する和風基調のデザインが求められるため、ログハウス風やレンガ調の洋館風の建物などは造れません。また、勾配屋根が義務付けられているので、キュービックな家や、屋上のある家を建てるのも基本的には難しいでしょう。
ただし、設計の工夫で路地から見えない場所に屋上を造った事例などは存在します。屋上を造りたい場合は、そのような設計が可能かどうか、京都市内での建築実績の多い工務店などに相談してみましょう。

古民家の断熱性能

もともと日本家屋は「夏を旨とすべし」という価値観で建てられているため、京都の古い物件は奥庭を造って風通しを良くしたり、軒庇にすだれがかけられる工夫をしたりと夏に涼をとる工夫がされています。しかし、冬は囲炉裏や厚着で暖をとるという考え方だったため、室内が底冷えする環境です。そのため、古い町家のリノベーションを行う場合は断熱材や断熱窓を用いた大掛かりな工事が必須のようです。

軒庇とすだれで強い日差しを和らげる―。夏の京都ではよく見られる光景です

まとめ

日本の歴史を感じる町として魅力的な京都の景観は、様々な規制によって保たれているようです。そのため、住まいを探す際には他の地域にはない制限が存在します。京都で住宅購入を検討している人は、今回の記事を参考にしてみてくださいね。

<取材協力>
・京都市都市計画局都市景観部景観政策課
 https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000146248.html
・garDEN株式会社/竹園 節子さん
   https://gar-den.jp/

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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