中古住宅の価格上昇で家を買い換える人の4割に売却益が、今後は?

住宅価格が上がれば、購入を考えている人にとっては買いにくくなってしまうマイナス材料ですが、売却を考えている人にとってはありがたいものです。買ったときの価格より安く売らないと買い換えられないとなれば、ついつい二の足を踏みがちですが、利益が出るとなれば、この際思い切って買い換えようという気持ちになるのではないでしょうか。

売却でプラスの売却差額が出る人が年々増加している

大手、中堅の不動産仲介会社が会員の不動産流通経営協会では、実際に住宅を売買した人たちを対象に、毎年『不動産流通業に関する消費者動向調査』を実施しています。そのなかで、マイホームを売却した人に対して、売却益が出たかどうかを聞いた調査項目があります。

それによると、図表1にあるように、2013年度の調査では、取得価格より安く売らざるを得なかったという「マイナスの売却差額発生」とする人が83.4%を占めていました。大半の人が、赤字覚悟で売却しないことには買い換えできなかったのです。

それが、年々「マイナスの売却差額発生」の割合が減少し、反対に「プラスの売却差額発生」が増えてきています。「マイナスの売却差額発生」は2015年度には70%台に、2016年度には60%台に下がり、2019年度には55.2%と50%台まで減少しています。
代わって、「プラスの売却差額発生」は2013年度には10%台だったのが、2015年度には20%台に増え、2019年度は37.8%と4割近くまで増加しました。

図表1 調査年度別の売却差額の発生状況

 

資料:一般社団法人 不動産流通経営協会『不動産流通業に関する消費者動向調査(2019年度)』を加工して作成

売却益が出るかどうかは築年数が大きく影響する

このペースで「プラスの売却差額発生」が増えてくれば、早晩5割を超えて、大半の人がプラスになるはずでした。

このところは、平均購入額と平均売却額の差が年々縮小してきたのです。

(資料:不動産流通経営協会『不動産流通業に関する消費者動向調査(2019年度)』)

2013年度に買い換えした人の売却物件の購入時の平均価格は3,717.5万円だったのに対して、平均売却価格は2,820.7万円で、その差は900万円近かったのが、2018年度には両者の差は約560万円まで縮まり、2019年度は約361万円です。

これは一部の調査結果ではありますが興味深い変化です。このまま順調に経済が回復していけば、中古マンション価格がもう一段上昇し、ついに逆転する日がくることになるとも考えられます。

コロナ危機で再びマイナス差益が広がる可能性も

しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、先行きが不透明な状態になっています。

それだけに、売却や買い換えを考えている人は、本格的に中古マンション価格が下がる前に行動を起こしたほうがいいのかもしれませんが、ただ、売却益が出るかどうかは、現在の住まいの築年数にもよってきます。

図表3 首都圏新築マンション価格の推移と2019年の中古マンション価格

資料:株式会社 不動産経済研究所『全国マンション市場40年史』(1980年~ 2012年分)、『全国マンション市場動向2019年』(2013年~ 2019年分)、公益財団法人 東日本不動産流通機構『築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2019年)』を加工して作成

図表3は首都圏の新築マンションの平均価格の推移と、2019年の中古マンションの築年数帯別の平均価格を示しています。折れ線グラフが各年次の新築マンション平均価格の推移になります。1990年までのバブル期に急速に上昇し、その後下落したものの、近年ではジワジワと上がり続けて、2019年の平均は5,980万円でした。

バブル期に取得した人は今でも3,000万円の赤字に

それに対して、赤の横線は東日本不動産流通機構調べによる築0~5年の中古マンションの平均価格です。平均5,619万円で売れるわけですから、築2年、3年では少しのマイナスになりますが、築4年、5年であれば若干のプラスになります。

紫の横線は築11~15年の平均価格になります。4,391万円で売却でき、2004年に買った人の新築マンションの平均価格は4,104万円だったので、売却益が出ますが、2008年の取得だと新築マンションの平均価格は4,775万円ですから、4,391万円の売却価格だと若干のマイナスになってしまいます。取得年次によって損得勘定が微妙に違ってきます。

しかし、築年数が長くなると、マイナス幅が大きくなります。築21~25年では1,000万円以上のマイナスで、築31年以上でもやはり数百万円の赤字になります。
グラフには示されていませんが、バブル期に取得した築26~30年のマンションだと、何しろ取得価格が高いので、今でも3,000万円以上のマイナスが発生するといわれています。

売却損が解消されるまでには時間がかかるケースも

これは、不動産流通経営協会の調査結果ともほぼ合致します。下の図表4をご覧ください。

図表4 売却住宅の売却時築年数別の売却差額発生状況(2019年度)

資料:一般社団法人 不動産流通経営協会『不動産流通業に関する消費者動向調査(2019年度)』を加工して作成

これは、築年数帯別に、「マイナスの売却差額発生」「プラスの売却差額発生」の割合を示しています。築5年以内の物件だと、半数が「プラスの売却差額発生」で、築5年超~10年以内では、「プラスの売却差額発生」が56.5%に増えますが、その後は「プラスの売却差額発生」の割合は減少していきます。築20年前後だと「プラスの売却差額発生」は20%強にとどまります。

この築年数帯の物件でも、一部には売却益が発生する物件があるわけですが、全体としてプラスに転じるためには、もう少し中古マンション価格が上がる必要があります。2020年11月現在、コロナ禍でも中古マンション価格は上昇傾向にありますが、それがいつまでも続くとは限りません。長期的には売却損が拡大するリスクもあるので、いずれ売却を考えているのであれば、タイミングの見極めが重要になってきそうです。

※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。

(最終更新日:2021.02.16)
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