テレワーク時代でさらに増加する? 「新築の戸建て購入」が2019年は1.56倍増加

首都圏を中心にマンション価格が上がり過ぎたために、取得を諦める人たちが増えているといわれています。そんな人たちがいま注目し始めているのが、「新築戸建て」です。自分で土地を探して注文住宅を建てるとなると、新築マンション並みの費用がかかりますが、分譲戸建て、いわゆる「建売住宅」なら新築マンションの6割程度の予算で手に入るのですから、注目度が高くなるのは当然のことでしょう。

新築マンションはこの10年で31.9%も上がっている!

新築マンションがいかに買いにくくなっているのか――その最たるエリアが首都圏です。

図表1 首都圏のマンションと新築戸建ての価格推移  (単位:万円)

資料:株式会社 不動産経済研究所『全国マンション市場動向2019年』(新築マンション)、 公益財団法人 東日本不動産流通機構『首都圏不動産流通市場の動向(2019年)』(新築戸建て、中古マンション)を加工して作成

図表1にあるように、新築マンションの平均価格は2013年以降急激な上昇を続け、2009年には平均4,535万円だったものが、2019年には5,980万円と、いよいよ6,000万円が目前。この10年間の上昇率は31.9%にも達します。

これでは、平均的な会社員や公務員などが買えなくなるのも当然でしょう。図表2をご覧ください。

図表2 男女別賃金の推移           (単位:千円)

(資料:厚生労働省『令和元年賃金構造基本統計調査』

図表2は、この10年間の一般労働者の賃金の推移を表しています。男性をみると、2009年には32万6,800円だったものが、2019年は33万8,000円です。たしかに、上がってはいるのですが、その上昇率は10年間でわずか3.4%に過ぎません。
高くなる一方のマンション価格の動きを、指をくわえて見守るしかない――そんな感じではないでしょうか。

新築戸建ては10年前よりむしろ安くなっている!

そんな中で、ジワジワと注目度が高まっているのが、新築戸建て、いわゆる建売住宅です。その最大の魅力は、何といっても価格の安さ。図表1にあるように、2009年の3,565万円に対して、2019年の平均価格は3,510万円です。この10年間の推移をみると、わずか1.6%とはいえ、むしろ安くなっているのです。

しかも、2019年でみると、新築マンションの5,980万円に対して、新築戸建ては3,510万円ですから、58.7%、6割以下で手に入る計算です。

新築マンションが難しいなら中古マンション――という選択肢もあるでしょうが、その中古マンションも図表1のように10年間で38.2%も上がっています。上昇率ではむしろ新築マンションを上回っており、2019年をみると、新築戸建てとほとんど変わらない水準です。

それならば、中古マンションよりは、まっさらな新築戸建てが欲しいと思うのも不思議ではありません。

新築戸建ての成約件数は10年間で1.56倍に増加

実際、マンションほどの成約件数ではありませんが、新築戸建ての成約件数はこの10年間で急速に増加しています。図表3をご覧ください。

図表3 首都圏新築戸建ての新規登録件数と成約件数の推移

資料:公益財団法人 東日本不動産流通機構『首都圏不動産流通市場の動向(2019年)』を加工して作成

2009年の首都圏の新築戸建ての成約件数は3,766件だったのが、2019年には5,872件。この10年間でおよそ1.56倍に。新規登録件数は2019年に9万件台に達しました。

これには、大量生産・大量販売で価格低下を推進しているいわゆるパワービルダーの存在が大きく貢献しています。首都圏の郊外を中心に積極的に新築戸建ての供給を行い、結果的に消費者の選択肢が格段に増えています。図表3でも分かるように、2009年の年間の新規登録件数は3万件台だったのが、2019年には9万件台に達しています。購入希望者からみればまさに、より取り見取りで、物件によっては大幅な値引きも行われていると聞きます。

大手不動産会社が中心の首都圏の新築マンション市場では、在庫が増えてもなかなか値引きに応じてもらえませんが、建売住宅は、物件によってはキャンペーンと称して100万円単位の値引きも行われている場合もあります。

建売住宅でも建物の基本性能は年々高まっている

建売住宅の一般的なイメージとして、安いには安いなりの理由があり、基本性能などの面でかなり劣るのではないかという先入観が働きがちです。もちろん、デザイン面や住宅設備などは、大手住宅メーカーの商品に比べると見劣りするかもしれませんが、基本性能では大手にキャッチアップしつつあります。

たとえば、飯田産業、一建設などの飯田グループホールディングスは、2020年3月期の決算短信によると年間4万戸以上の一戸建てを販売していますが、そのグループ7社の建売住宅の平均価格は3,000万円を切っています。

そんなリーズナブルな価格帯であっても、住宅の基本性能には厳しい基準を設けています。国土交通大臣に認定された第三者評価機関が建物を検査する、住宅性能評価制度において、耐震等級や劣化対策等級は最高等級の等級3、断熱等性能等級も最高等級4をグループ企業に義務づけているそうです。大手の製品と比べても決して遜色はありません。

先にみたように、選択肢は豊富ですから、そうしたリーズナブルな物件を見て回るうちに、基本性能などへの安心感が高まり、購入に踏み切る人たちが増えているのではないでしょうか。

新築戸建ての土地面積は年々着実に広がっている

とはいえ、価格の安い戸建ては土地面積が狭くて、庭といっても猫の額ほどに過ぎない、といったイメージが残っているかもしれませんが、その土地面積も最近はジワジワとですが、確実に広がっています。

図表4にあるように、2009年には平均108.01平方メートルだったのが、2019年には122.58平方メートルで、この10年間で14.57平方メートル広がっています。建物の延床面積も95.22平方メートルから98.85平方メートルに、やはり3.63平方メートル拡大しているのです。

図表4 首都圏新築戸建ての土地面積と建物面積の推移   (単位:平方メートル)

資料:東日本不動産流通機構『首都圏不動産流通市場の動向(2019年)』

以前の建売住宅は、コストを削減しやすい総2階の真四角に近い家で、外観デザインの工夫も乏しかったのですが、最近は様々なデザインが可能になっていて、お洒落な住まいも増えています。

2020年に入って深刻化する新型コロナウイルス感染症の影響拡大で、テレワークが急速に広がっています。毎日の通勤の必要がなくなれば、都心から多少離れていても、ゆったりとした広さを確保でき、テレワークのための仕事スペースを確保しやすい戸建ての人気がさらに高まる可能性があります。立地・アクセス重視のマンション派から、居住空間重視の戸建て派がますます増えていきそうです。

 

 

(最終更新日:2021.02.12)
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