マンションやアパートのベランダで、お隣の住戸同士を仕切る境壁。「蹴破り戸」とも呼ばれるこの壁は、火災などの非常時に破って避難しなければならないため、人の力で破ることのできる素材でできています。

しかし、硬くて破れにくいもの、逆に軟弱すぎて防犯面で不安に感じるものなど、境壁の種類は集合住宅によってさまざまです。

そこで本記事では集合住宅の境壁にフォーカスし、素材別の強度や災害時の注意点について解説します。

ベランダの境壁の2つの役割

境壁とは、左右の住戸のベランダを仕切るパーテイションのことです。「蹴破り戸」「隔て板」「バルコニー隔板」「間仕切り板」など、いろいろな呼び名があります。

境壁には、次の2つの役割があります。

1.プライバシー保護
通常時、境壁は隣戸との仕切りの役割を果たします。そのため、雨風などの外的な刺激では壊れにくい素材が用いられます。

2.災害時の避難経路確保
「消防庁告示第三号」では、火災が発生した場合に備え、2つの異なった避難経路を確保するよう定められており、災害時に共用廊下が使えない場合、境壁が破られることで、ベランダが避難経路となります。

「隣接するバルコニー等が隔板等によって隔てられている場合にあっては、当該隔板等が容易に開放し、除去し、又は破壊することができ(中略)ること」

そのため、ベランダの境壁は仕切りとしての役割を持つ反面、容易に破壊できる程度の強度が求められます。

境壁の強度はどれほどのもの?

雨風では壊れにくく、災害時には簡単に破ることができる程度の強度を持つ材料として、マンションやアパートの境壁には、「ケイカル板」や「フレキシブル板」が使用されるのが一般的。いずれも、建築基準法において不燃材料として認定されています。

ケイカル板の特徴
ケイカル板の主原料は以下の通りです。

・ケイ酸質原料
・石灰質原料
・補強繊維

ケイカル板は、境壁の材料としては重量が比較的軽く、強度が低いのが特徴です。耐水性・耐火性に優れ、加工しやすい材料のため、境壁以外にも居室内のキッチンやトイレなどの水回りに使用されることもあります。

フレキシブル板の特徴
フレキシブル板の主原料は以下の通りです。

・セメント質原料
・補強繊維

フレキシブル板は、重量のあるセメント質原料が使われているため、やや重くて強度が高いのが特徴です。耐水性・耐火性にも優れることから、外壁や内壁、天井など、住宅のあらゆる部分に使用されます。価格は、ケイカル板と比較するとやや高額です。

ケイカル板とフレキシブル板の強度の違い

ケイカル板のなかでも一般的に用いられることが多い「0.8ケイ酸カルシウム板」は、日本工業規格によって、曲げ強度が「10.0N/ミリ平方メートル以上」と決められています。これは、1センチ平方メートルあたり約10キログラムの力に耐えられることを示します(ただしこの規格は厚さ5ミリ以上のものに適用されます)。

他方、フレキシブル板の曲げ強度は、日本工業規格において「28.0N/ミリ平方メートル以上」と定められています(3ミリ以上のものがこの規定の対象となります)。1センチ平方メートルあたり約28キログラムの力に耐えられるわけですから、ケイカル板に比べてずいぶん強度が高いのがわかります。

境壁の厚みは、5ミリ前後が一般的ですが、境壁の厚みが1mm違うと、強度に大きな違いが生まれます。境壁を破る事態に直面した際は、材料の強度に応じた対応が必要です。どんな厚みのどんな材料を使用した境壁が設置されているのか、事前にチェックしておくとよいでしょう。

災害が発生したらどうする?

万が一の際は、ベランダが避難経路に

災害が発生した場合、必ずしも玄関から避難できるとは限りません。たとえば、地震によって玄関ドアがゆがんで開かない、火災による煙が廊下に充満している等のケースでは、ベランダが避難経路となります。

一定規模以上の集合住宅には、各階に避難はしごや避難ハッチが設けられていますが、各戸のベランダに設置されているとは限りません。そのため有事の際に脱出するには境壁を破り、避難はしごがある住戸まで移動する必要があります。

左右どちらの境壁を破って逃げればよいかわからない!

ベランダから隣接する住戸へと避難する際、左右どちらの住戸に逃げればよいのか、どちら側に避難はしごがあるのか、判断に迷ってしまうことがあります。

避難経路となるのは、「非常時には、ここを破って隣戸に避難できます」などの表示がある境壁です。表示があるほうの境壁を破って進んでいけば、避難口や避難はしごがあるベランダに出ることができます。

災害時、ちょっとした判断の遅れが運命を分けることもあります。いざというときに逃げ遅れることがないよう、避難経路を事前に確認しておくことが大切です。

境壁が破れない!

こちら側の壁を破ればいいとわかってはいても、思うように破れないとなると一大事です。境壁は「容易に開放し、除去し、又は破壊すること」ができるものと定められていますが、実際に材料や厚みの規定はないため、有事の際になかなか破れないこともあります。

ベランダには、サンダルのような簡易的な履物しか置いてないことが多いもの。フレキシブル板のように比較的強度のある境壁は、素足やサンダルで蹴破るのが難しいことがあります。その場合は、硬い物を境壁の同じ箇所に何度も打ちつけて破壊します。

5ミリ程度までの厚みであれば、いずれの材料の境壁でも、椅子や物干し竿などを使えば比較的簡単に破ることができるでしょう。ただし、厚さ6ミリを超えるフレキシブル板の場合、成人男性でもハンマーなど金属製のものを用いなければ破れないことがあります。ベランダや居室内の取り出しやすいところに工具などを置いておくのもよいでしょう。

破った壁を通るときは注意!

境壁がうまく破壊できたとしても、まだ安心できません。境壁は、きれいに外れるわけではなく、まさに「破れる」感じ。ケイカル板、フレキシブル板ともに進入口の周辺が尖っている状態の場合があり危険です。破った壁を通る際には、細心の注意が求められます。

とはいえ有事の際ですから、必ずしも厚手の衣類を身につけているとは限りません。薄着のケースでも、頭を守るための防災頭巾やヘルメットなどをかぶったり、穴を大きめに開けたりするなどの工夫が必要です。

【目的別】境壁・物件の選び方

集合住宅によって境壁に使われる材料も厚みも異なる

万一のことを考えると破れやすい境壁が好ましいですが、プライバシーや防犯性を考えれば、集合住宅の境壁には強度も必要です。意向に応じて境壁を変えられればいいのですが、ベランダは共用部。居住者の一存で境壁を交換することはできません。そのため、境壁にこだわる場合は、物件選びの段階でチェックする必要があります。

災害時の避難のしやすさを重視したい

災害時の避難のしやすさを重視し、「境壁はすぐに破れるほうがいい!」という人は、ケイカル板、なかでも4mm以下の境壁の物件を選ぶようにしましょう。比較的破れやすい境壁は、低層階の居宅に使われる傾向にあります。

ただ、破れやすいということは、破損しやすいということでもあります。自然災害による境壁の破損の修繕は、管理組合(借家の場合はオーナー)の負担となるのが一般的ですが、子供がイタズラした、ベランダに置いてあったものが倒れたなど、過失による破損の場合は、居住者が修繕義務を負うことがあるので注意してください。

できれば境壁を破りたくない

最近では、避難時に破る必要がない開閉式の境壁も見られます。開閉式の境壁は、大きな力を伴わなくても押し開けることが可能です。小さな子供や高齢者、女性でも比較的容易に避難することができます。

ただし、開閉式の境壁は、有事の際以外でも簡単に開閉できてしまいます。防犯面で不安を感じる方、プライバシーを重視したい方には不向きかもしれません。

プライバシーを重視したい

破れやすい境壁、簡単に開閉できる境壁では物足りないという方は、フレキシブル板、なかでも特に5mm以上の境壁が設置されている物件を選ぶようにしましょう。強度が高いフレキシブル板は、強風を受けやすい高層階の境壁に多く使われる傾向があります。

まとめ

ベランダの境壁は、防災上、人の力で破れる強度である必要がありますが、簡単には破ることができないよう、頑丈な材料が採用されている集合住宅もあります。いざというときの避難のしやすさだけでなく、プライバシーやセキュリティも検討しながら、要望やライフスタイルに合った物件を選ぶことが大切です。

マンションを購入する際には、避難経路の確認とともに境壁も必ずチェックしておくとよいでしょう。

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。

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