親子は同居するよりちょっと離れた「近居」のほうが満足度が高いワケ

バブル後の長い不況のなかで、経済的な理由から親子が同居するケースがジワジワと増えてきましたが、特に東日本大震災後、親子や地域の絆を重視して、親子が一緒に住む、近くに住むケースが増えているといわれています。なかでも、注目されているのが、二世帯同居ではなく、スープの冷めない距離に住む‟近居“です。その実情を見ながら、なぜ近居なのか、その理由を探ってみました。

親子が「1時間以内」で行き来できる場所に住むのが「近居」

近居に関しては、明確な定義があるわけではないのですが、国土交通省が2006年に行った調査の分析において、近居について、「住居は異なるものの、日常的な往来ができる範囲に居住することを指す」としています。いわゆる、「スープの冷めない距離」に親世帯と子世帯が住むという形態であり、徒歩や自転車、クルマ、電車などの移動手段を使って、おおむね1時間以内で行き来できる距離と考えていいでしょう。

その近居を希望する人たちが増えています。下の図表1をご覧ください。
これは、国土交通省が5年に1度実施している『住生活総合調査』の最新版から、高齢期における子世帯との住まい方に関する希望を聞いたものです。

その結果、意外なことに、「子と同居する」とした二世帯住宅を希望する高齢者は、このところジワジワと減少しています。

図表1 高齢期における子との住まい方距離の希望(単位:%)

資料:国土交通省『平成30年住生活総合調査』
※「子と同居する」は二世帯住宅を含む

子ども世代との近居を希望する人が増えている

1993年には20.8%だったものが、2018年調査では11.6%に減っているのです。また「子と同じ敷地内の別の住宅に住む、または同じ住棟内の別の住戸に住む」という別棟方式、隣居の希望者も、若干ですが減っています。

代わって、「徒歩5分程度の場所に住む」「片道15分未満の場所に住む」「片道1時間未満の場所に住む」の合計は1993年の18.9%から、21.3%に増えています。

そんなに極端な変化ではありませんが、ジワジワと、しかし、それだけに確実に考え方が変わってきているという見方もできるのではないでしょうか。

同居よりも「近居」のほうが満足度が高い

国土交通省の『住生活総合調査』では、住まいや居住環境に関する満足度も聞いていますが、その満足度が、親子同居と近居では微妙に異なっているのです。

下の図表2にあるように、「全世帯」や「高齢者世帯」では、「まあ満足」「満足」の合計はそれぞれ78.0%、79.1%ですが、「一緒に住んでいる」世帯では78.4%と、「全体」や「高齢者世帯」の数値より低くなっているのです。親子が同じ屋根に住むことで、むしろフラストレーションがたまり、満足度が低くなるのかもしれません。

反対に、「徒歩5分程度の場所に住んでいる」世帯では、「まあ満足」「満足」の合計は83.6%に上がります。「一緒に住んでいる」世帯より、満足とする割合は5.2%も高くなっているのです。

「片道15分未満の場所に住んでいる」「片道1時間未満の場所に住んでいる」世帯でも、「一緒に住んでいる」とする世帯より満足とする世帯の割合は高くなっています。

図表2 高齢者世帯における子との住まい方別の総合的な評価(単位:%)

資料:国土交通省『平成30年住生活総合調査』

親子の距離が遠くなりすぎると満足度は低く

親子の住まいが遠く離れている、「片道1時間以上の場所に住んでいる」では満足割合の合計は77.8%と、「一緒に住んでいる」の78.4%より低くなります。

遠くなりすぎても満足割合は低くなり、二世帯同居と近すぎても同じで、スープの冷めない、ほとほどの距離が一番ということでしょう。

なぜ、こんな傾向が強まっているのか、それにはさまざまな要因が挙げられます。

まず、近居であれば、二世帯同居に比べて、それぞれのプライバシーを守りやすいこと、また、ライフスタイルや生活時間帯などの違いによるフラストレーションを感じにくいことなどのほか、近年では景気停滞の長期化や、少子高齢化といった社会的背景の影響も大きいようです。

子世帯の側では、世帯年収を増やすために共働きが増えています。特に、東京圏などの大都市圏では、共働きでないとマイホームを買いにくくなっているのが現実です。

二世帯住宅も「近居」に対応したスタイルに

共働きするには、保育園や学童保育などの条件が整っていないとむずかしい面がありますが、近くに親世帯が住んでいれば、親世帯に預けることもできますし、病気のときにも安心です。

親世帯の側からしても、かつての孫が10人も20人もいる時代ではなく、せいぜい数人という時代ですから、数少ない孫との交流を持つためにも、近居はうってつけです。

また、いまは自立して生活できるにしても、体が弱ってきたり、夫婦どちらか一人になったときには、子どもがすぐ近くに住んでいるのは、何よりも安心です。

それは、近年の二世帯住宅の実情の変化にも共通しています。先に触れたように二世帯同居希望は減っているのですが、二世帯同居する場合でも、近居感覚で生活できる住まいが好まれています。二世帯住宅の名付け親ともいわれるヘーベルハウスの調査によると、図表3にあるように、玄関、台所、トイレ、浴室などがひとつで、全員が使用する「一体同居住宅」より、完全に分離してお隣さん感覚で住む「独立二世帯住宅」のほうが、満足度が高くなっているのです。

図表3 二世帯住宅の形態別の満足度の違い(単位:%)

【キャプション】資料:ヘーベルハウス二世帯住宅研究所調査

いずれにしても、親世帯が高齢期に入るときには、親世帯、子世帯の住まいの関係について知っておきたいポイントといっていいでしょう。

 
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