【データで見る】新型肺炎が経済に伝染、脅威ともいえる「数字」とは

中国の湖北省武漢市を発生源とする新型コロナウイルスによる肺炎の感染が世界中で拡大し続けています。中国国家衛生健康委員会の2月19日時点の発表によると、中国全土で感染者の累計が7万人を超え、死者は2千人を超えています。日本国内でも同ウイルスの感染者が発見され、ドラッグストアだけでなく、スーパーやコンビニエンスストアでもマスクが売り切れています。株式市場や日本経済にはどのような影響を与えているのでしょうか?

株式市場からは大量のお金が消えた?

新型コロナウイルスの騒動は中国の休暇シーズンである春節を挟みました。春節は日本でいう正月休みにあたり、長期休暇となります。当然、その間は株式市場もおやすみです。春節明けとなった2月3日の中国株式市場は暴落でのスタートとなりました。

取引が始まると、中国を代表する株価指数である上海総合指数は前の取引終了時点より8.7%も安い水準で取引が開始されました。取引が終わった後のデータを見ると、この1日だけで約7,200億ドル(約54兆円)近くの時価総額が消滅したと計算できます。

春節前最後の株式市場の営業日は1月23日でした。その時点では新型コロナウイルスによる死者は武漢市内の17人だけでしたが、春節明け最初の取引日となった2月3日の段階では、中国国内の死者数は350人を超え、中国国外でも新型コロナウイルスによる死者が確認されました。 

コロナウイルスに備えたおかげ?

日本の冬といえばインフルエンザが猛威をふるうわけですが、今年は少し様子が違います。厚生労働省の発表によると、今年の第4週(1⽉20〜26⽇)の全国のインフルエンザ患者数は推定65万4,000⼈となっています。この数字が多いのか少ないのか、医療従事者でない限りは判別がつかないかもしれませんが、前年の同週の数値をみてみると222万6,000⼈となっており、今年の数値が前年を⼤幅に下回っていることが分かります。

全国約5,000の医療機関から第4週に定点報告を受けたインフルエンザ患者の数をみても、1医療機関当たり平均18⼈となっており、同週としては2011年以降、最も少ない数値となっています。
東京都感染症情報センターが発表している都内の数字を2015年から毎年の推移をグラフ化し、重ねてみると、明らかに今年(下図の赤い太線)はピーク時に数字が伸びていないことが分かります。

定点医療機関当たり患者報告数  2020年1⽉26⽇(第4週)まで

定点医療機関当たり患者報告数  2020年1⽉26⽇(第4週)まで
出所:東京都感染症情報センターのHPより抜粋

今年のインフルエンザ患者数が少ない理由として考えられるのが、新型コロナウイルスに対する予防意識の高まりが、結果としてインフルエンザの予防にもつながったことや、春節の中国人観光客を中心として、冬の休暇シーズンに来日する外国人が減少したことで、人が密集する地域が例年ほどの人口密度にならなかったことなどが挙げられるかもしれません。この結果、日本国内におけるインフルエンザによる経済へのダメージは例年よりは小さいといえるかもしれません。

観光業や小売業には大きなダメージ

日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2019年に日本へ来た中国人観光客の数は前年比14.5%増の959万4,300人。2019年の訪日外国人観光客の数が3,188万1,000人なので、中国のシェアは一国で30%におよぶことが分かります。このデータから、日本にとって中国人観光客の存在感は日本の観光業にとって非常に重要であるということが分かります。

また、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、中国人観光客の1人当たり旅行支出額を見てみると、21万2,981円となっています。すごい金額ですね。これが俗にいう「爆買い」になります。中国人観光客は観光業だけでなく、小売業にとっても重要な存在といえます。

しかし、今年の冬の休暇シーズン(春節)は観光業や小売業に強烈な逆風が吹いています。新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために、中国政府は海外への団体旅行を禁止しました。日本旅行業協会(JATA)によれば、中国人の日本への旅行キャンセルは3月までに40万人超にのぼる可能性があるとしています。仮にキャンセルとなった中国人観光客の数を40万人、1人が滞在中に使う金額を20万円とすると、単純計算で800億円の消費が消えたことになります。

中国人観光客は観光業だけでなく、小売業にとっても重要な存在となっています/PIXTA

コロナウイルスだけじゃないウイルスの脅威

現在は日本ではインフルエンザの影響が例年より小さい代わりに、世界的に新型コロナウイルスへの懸念が強まっているため、日本のメディアでは新型コロナウイルス一色の報道となっていますが、実は世界を脅かしているウイルスはそれ以外にもあります。

中国農業農村省が2⽉1⽇に発表した情報によれば、湖南省邵陽市の養鶏場でニワトリがH5N1型の⿃インフルエンザウイルスに感染しているのが確認されたということです。過去にも鳥インフルエンザがヒトに感染したことは確認されており、その致死率はSARS(重症急性呼吸器症候群)や今回の新型コロナウイルスよりも遥かに高い致死率とされています。

また、米国では実はインフルエンザが猛威をふるっています。2017年~2018年はインフルエンザにより61,000⼈が亡くなりましたが、その時以上の感染拡大が観察されています。2014〜2015年も最悪のインフルエンザシーズンといわれましたが、その年すらも上回る勢いです。

今回は各種データに基づき、新型コロナウイルスによる株式市場や日本経済への影響を見ていきましたが、実は他のウイルスも猛威をふるっているという事実も頭の片隅に入れておきましょう。専門家やメディアが発信する以上に大きなネガティブインパクトが発生するシナリオもありうるとした上で、慎重な投資姿勢をとってください。

参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」

参考:厚生労働省「インフルエンザ(総合ページ)」

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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