自治体が住むエリアを限定? 「コンパクトシティ」が目指す空き家対策

国土交通省は昨年12月、市町村が歩行者中心の街づくりのために新しいエリア「まちなかウォーカブル区域」を設定できるようにする方針を決めました。街路を広場にしたり、沿道の店舗などの1階部分を改修して開放感のある空間にする場合、予算と税制両面で重点支援していく方針です。コンパクトシティ政策に関連したさまざまな動きがいま全国規模で進んでいます。

全国で500もの町が進めるコンパクトシティ政策

人口減少・少子高齢化社会において、マイカー移動を基本とした郊外での生活はますます不便になっていきます。
農林水産省では、生鮮食料品店まで直線距離で500m以上、かつ65歳以上で自動車を持たない人を「買い物弱者」と定義していますが、その数は全国で825万人にも上ります。そのような人たちは地方の過疎地域のみならず、首都圏のベッドタウンにまで広がっています。

買い物弱者を増やさないためにも、都市機能を中心市街地に集めるコンパクトシティ政策は有効です。コンパクトシティのメリットは、人々がまとまって暮らすことで道路や上下水道などのインフラは小さな規模で済むこと。また、図書館や学校、保健所などの公共施設も少なくて済みます。職住接近なら移動時間も短縮できるでしょう。
コンパクトシティ政策に取り組んでいる市区町村は全国に499団体(2019年12月31日現在)あります。決して過疎に苦しんでいる地方の町や村ばかりではありません。首都圏では前橋市や水戸市、千葉市のような県庁所在地も含まれています。

自治体が“活かす立地”と“捨てる立地”を具体的に指定する

この政策により、各自治体は「居住誘導区域」(居住を誘導すべき区域)と「都市機能誘導区域」(医療施設、福祉施設、商業施設などの区域)という2つのエリアを設定することができます。このエリア分けの意味するところを、不動産コンサルタントの長嶋修氏は次のように語ります。

「各自治体はこの先“活かす立地”と“捨てる立地”を具体的に指定できるということです。自治体は今後、『居住誘導区域』と『都市機能誘導区域』には集中的に税金を投入し、インフラ整備や開発に力を入れるでしょう。駅前や役所周辺など、現時点ですでに中心エリアとして機能している区域を『都市機能誘導区域』に指定します。それにほど近いエリアを『居住誘導区域』とし、住民にはなるべくその区域に住んでもらうように働きかけます。区域外になる可能性が高いのは、大地震や集中豪雨などの自然災害の際に、崖崩れや浸水、液状化などのリスクがある地域です。実際、大阪府箕面市など多くの自治体では、災害リスクのあるところから外されています」

以前なら不動産デベロッパーは自由に郊外を宅地開発することができましたが、今後は政策的に制限される可能性もあります。自治体が住んで欲しいとしているエリア(居住誘導区域)に人々が移転しなくなるような郊外の開発は認めないこともできるということです。

原則的に個人の住宅はどこでも建築可能とはいえ、居住誘導区域外で土地や中古住宅を購入する際には、将来的なことをしっかり考えたほうがよいでしょう。もし、物件の人気が落ちて売りづらくなったり、貸すこともできなくなれば、住宅の資産価値は急激に落ち込みます。そうなると、子どもたちも積極的に相続したいとは思わなくなりますので、放置空き家になってしまう可能性もあるわけです。

持ち家比率2位の富山市は「お団子と串」構造でコンパクトシティの先駆けに

コンパクトシティ政策が一定の成果を上げている自治体として、15年以上前から取り組んできた富山市が有名です。

日本海側有数の中核都市・富山市の面積は約1,200平方メートルあり、国内の市としては最大級を誇ります(全国11位)。しかし、人口減少・少子高齢化に加え、市街地の外延化によるスポンジ化現象という他の地方都市と同様の問題を抱えていました。そこで富山市は、2050年までに公共交通を軸にしたコンパクトシティを目指す「富山市環境未来都市計画」を打ち出しました。

JR富山駅を中心とする市街地と、鉄道駅やバス停などを中心とする徒歩圏の拠点地域を「お団子」と呼び、「串」と呼ばれる公共交通でつないできました。

「串」としてもっとも大きな役割を果たしているのは、2006年4月に開業したLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車)です。「お団子」エリアには割安な市営住宅の建設や、居住支援の補助金などをインセンティブとして用意しました。LRTは60代以上の高齢者の外出機会を増やし、地域経済の活性化にも貢献しています。

富山ライトレール/PIXTA

一方、富山市が郊外での大型商業施設の建設規制を行ったところ、隣接する砺波市に「イオンモールとなみ」、射水市に「コストコ射水」、小矢部市に「三井アウトレットパーク北陸小矢部」などのショッピングセンターが相次いで開業しました。買い物客が富山市内から流出してしまった部分もあり、富山市単独での取り組みには限界も見えました。

富山県富山市西町にある複合施設、富山キラリ。オリンピック会場である国立競技場の設計者、隈研吾氏が主宰の隈研吾建築都市設計事務所、三四五建築研究所の3社による共同企業体(JV)が設計を担当/PIXTA

なお、日本総合研究所が隔年で発表している「全47都道府県幸福度ランキング2018年版」で、富山県は総合5位。しかし、持ち家比率2位、生活保護受給率の低さ1位、道路整備率1位と、「生活」分野では常にトップです。富山県は暮らしやすい社会環境が整っているということでしょうか。これらのデータが富山市のコンパクトシティ政策とリンクしているかどうかわかりませんが、気になるデータではあります。

コンパクトシティ政策は人口増加策ではない

富山市の人口は、LRT開業前の2005年の41万8000人に対して、2020年1月現在は41万5000人となっています。この15年間、微増微減を繰り返して、ずっとこの水準を維持しているわけです。

コンパクトシティ政策を進めたからといって市町村内の人口が急に増加へと転じるわけではありません。コンパクトシティ政策は人口増加策ではなく、住んでいる人にとって暮らしやすい街にするための政策なのです。
そして、多くの自治体では、人口減少が進むなかでさらに政策の見直しを迫られ、居住誘導区域を徐々に縮小していくという流れになるかもしれません。一度策定された計画が、数年で改定されることもあるでしょう。住民としては、常に自治体の街制作をウオッチングしておくことが大切です。


<取材協力>

株式会社さくら事務所:長嶋 修 

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