【ARUHIアワード11月期優秀作品】『僕の“ある日”』じゅんざぶろう

アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、3つのテーマで短編小説を募集する「ARUHIアワード」。応募いただいた作品の中から選ばれた11月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。

すべてのことに初めてとなる“ある日”があるわけで、僕にもいろんな“ある日”があった。


小学5年の冬休み、クラスメイトと人気アイドルグループのCDを買いに行くことになった。その曲は、ダンスの振り付けがシンプルで、誰でも踊れて、曲も盛り上がるということで、老若男女に愛され、その年の一番売れたCDに選ばれた。
そのアイドルグループは、年末年始はTVに出つづけ、僕もアイドルの出ている番組をすべて見ようと、TVの前から離れることができなかった。

僕たちはCDを買った後、ファミレスに行き、ご飯を食べることになった。僕は親がいないシチュエーションでは初めてのファミレス。ドキドキしながらも、財布と相談をして、「鍋焼きうどん」を注文した。
僕以外の、みんなの料理がテーブルに並び、食べ始めている時、自分の注文した料理だけこない、その状況の落ち着かさなさを初めて味わったあの日。みんなが食べ終わった時に、自分の注文した鍋焼きうどんがくることの気まずさ、そんな中で食べる鍋焼きうどんはまったく味がしないことを知った初めて“ある日”となった。


中学3年の夏、隣の席の高橋という女子に呼び出されて、僕は放課後、ノコノコと人気の少ない焼却炉が置いてある校舎の裏側まで出向いた。
学年で人気がある女子が複数属しているグループのリーダーである大矢っていう苗字の女子と高橋がそこにはいた。
「これ」
大矢っていう苗字の女子から渡されたのは大学ノートを切って手紙の形になっているラブレターだった。
僕が、ドキッとした表情を浮かべていると、すかさず高橋が言った。
「あんたにじゃないよ。野村君にそれ渡してね」
小学校の時から一緒にバスケをやっていて、バスケ部のキャプテンを務めている野村へのラブレターだった。僕は、世の中が不平等であることに気付いてしまったこの日は、今後の生き方を左右する重要な“ある日”となった。


20歳の誕生日は、夜勤のコンビニで迎えた。
駅から近いコンビニだったこともあり、終電が終わるまでは家路を急ぐお客さんで、店内は賑わいを見せている。
24時を回ったタイミングで、ポケットに入れているスマホが震えているのは気付いていた。ただレジを離れることができず、スマホを見ることもできなかった。
レジに並ぶお客さんの列はなかなか途切れない。
「いらっしゃいませ」
「あれ、ケンタ」
名を呼ばれ顔を上げると、そこには同じ大学で、同じフットサルサークルに所属しているタカシ。そしてその横には、チカちゃん。フットサルサークルの1個下の後輩。
なんで、という想いが頭をよぎる中、それを打ち消すようにタカシが質問してきた。
「バイト中?」
見れば分かんだろと思いつつ、適当に相槌を打ち、適当に商品をスキャンし、適当にビニール袋に商品を詰め、お会計をした。
「ありがとうございました」
タカシとチカちゃんは、頑張れよ的なことを言って店を出ていった。2人の後ろ姿を見ると手をしっかり繋いでいて、「仲睦まじい」という言葉がどんな状態を表すのかを初めて知った“ある日”になった。
レジも落ち着き、スマホを見るとメールが1件。開いてみると、こないだパソコンを買った家電量販店から「誕生日おめでとうございます。今月は誕生日割引が適用されます」的な文章が長々と。
嬉しくないお祝いって世の中にあることを知った“ある日”となった。

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