【ARUHIアワード11月期優秀作品】『オハナミ』松本侑子

(7)リンドウ

 リンドウのお花を職場でたくさんいただいた。職場にも飾ったんだけど、飾りきらなかったので、余ったお花はお家用にもらって帰った。
 庭先に咲いたとは思えないほど、立派なリンドウでいつもの大きめのグラスには飾りきれず(私の家には花瓶がないので大きなグラスがいつも花瓶替わり)、おばあちゃんの家まで(わざわざ)花瓶を借りに行った。
 ゆう君も一緒に(おばあちゃんが喜ぶので)職場からほとんどそのまま、おばあちゃんの家に直行(お昼休みにゆう君とおばあちゃんには電話をしておいた)。平日の夕方は車が混んでいて、お花が萎れてしまわないかとソワソワしながら道を急いだ。
 おばあちゃんにお花を見せると、慣れた手つきでぽきぽきと茎を少しずつ折る。そして水を張ったバケツに暫くつけておく。その間に、三人で夜ご飯。
 竹輪の煮物と、塩サバと、納豆と、野沢菜の漬物と、ご飯。おばあちゃんの普通のご飯はとってもおいしい。缶酎ハイも冷やしておいてくれたんだけど、ゆう君はこれからまだお仕事するし、運転もするので(私も運転できるけど、本当は嫌い。怖いから)お土産にもらって帰る。
 おばあちゃんがお花を活けている間に、私とゆう君でお皿洗い。おばあちゃん、ますますゆう君が好きになる。
私がお花を活けるのに、おばあちゃん、しきりとゆう君に説明をする。ゆう君、真面目に説明を聞く。おばあちゃん、さらにゆう君が好きになる。
嬉しいんだけど、ちょっと複雑な気分(多分かなりやきもち)。
 おばあちゃんはお気に入りの萩焼の花瓶にリンドウを飾る。私にはリンドウと同じ色合いの青いガラスの花瓶を貸してくれた。リンドウの青は本当にきれい。桔梗の青も好きなんだけど、リンドウの青の方が潔い感じがする。こんな風でありたいと思わせる潔さ。
やきもち、焼いてる場合じゃないぞ。私。

(8) ハギ

おばあちゃんの住んでいる地区は、私たちが住む町の中でも古い地区で、昭和の面影があちこちに残っている。通りを一本入ると車の通れないような細い路地がいくつもあって、知らない人が入ろうものなら、迷ってしまいそうだ。
立ち並ぶ家はどれも古く、崩れかかった石壁や、朽ちはじめた木の壁が狭い路地をさらに狭くしている。おばあちゃんの家はそんな通りの出口のところにあって、今では私くらいしか使わなくなった車庫(三台分ある)に近所の人が車を止めている。
そのおばあちゃんの家の一軒奥の家は、家の周りに萩がたくさん植えてある。秋になるとその花がパラパラこぼれて、秋の花吹雪みたいでとても見事だ。家を囲んで咲く紫の萩はおばあちゃんの家の居間から見ることができて、私はこの時期になると、お団子をたくさん買ってお花見をしにやってくる。
「ゆう君は?」
「本屋さんに寄ってから来るよ。」
ゆう君が大好きなおばあちゃんの一言目はいつもこれだ。今日は私が午前中に仕事があって(日曜日なんだけど、時々ある)、お昼に来る予定がお茶の時間になってしまった。
朝晩は涼しいけど、お昼は三十度なのでエアコンをいれて、アイスコーヒーをいれて、お団子と月餅(私の好物)を並べて、早速お花見。
私とおばあちゃんが居間の窓際まで机を運んで座ると、萩のお家のおばあちゃんもやって来た。豆大福のお土産付きで。
「まだ、パラパラしないね。」
「もう少しかな。」
それぞれ好きなお菓子を食べ食べ、アイスコーヒーを飲み飲み、勝手におしゃべりをしながらお花見。ここで桜も見られたらいいのにな。なんて思っていると、
「桜はゆこの家がいいわね。」
とおばあちゃんが言った。
私の部屋から見える公園の桜の事だ。お天気が良ければ、物干し台から見下ろすのも良い。でも、目的はそれだけではないはず。
「ゆう君もいるし。」
やっぱり。

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