【ARUHIアワード11月期優秀作品】『家族ルール』小山ラム子

アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、3つのテーマで短編小説を募集する「ARUHIアワード」。応募いただいた作品の中から選ばれた11月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。

「家族ルールつくろうと思って」
 二階にある自分の部屋からリビングにおりてきた私に、お母さんが「相談があるの」なんて話しかけてきたと思ったらそんなことを言ってきた。
「家族ルール? 家族の間のルールってこと?」
「うん。今日お友達とランチしたんだけどね。その人の家では家族の間でちゃんとルールを決めてるんだって。例えば、夕飯の時間はスマフォいじるの禁止とか。そういうのってちゃんと決めておくの大事じゃない?」
「へえ。それだったらお母さんもいじってるときあるけどね」
「それは早く連絡したほうがいいときもあるから! それに時々でしょ! 花(はな)なんかいつもじゃない!」
「あー、まあ確かにあれは行儀悪いよね」
 妹の花は私より三つ年下の中学二年生だ。昔は家の中でもおしゃべりだったのに、今は無言でスマフォをいじっているほうが多い。
「でしょ! あの子ってばまだ中学生なのに最近帰りも遅いじゃない。言っても聞かないし。だからルールを作るの。門限も決める」
「言っても聞かないならルール作っても意味ないじゃん」
「罰金制にする」
「ば、罰金?」
「そう。友達の家はそれで成功したって。ルールを守らなかったら一回百円」
「ええ。百円はきついよ」
「じゃあ十円」
「ああ、まあ十円なら」
「というか金額云々よりもルールを作っておくのが大事なのよ! じゃあ今日の夕ご飯のときに言うからね」
「うーん、花が言うこと聞くかなあ」
「そしたら強制的にお小遣いから減らすから。それなら言うこと聞くでしょ」
「うっわ、卑怯じゃない?」
「ルール守ればいいんだから卑怯じゃない! それにこれから社会にでるためにルールを守ることも必要でしょ。そのための訓練だから」
 確かにルールが必要なこともある。でも家で訓練する必要性は感じないけどなあ。
「はあ? なにそれ。意味分かんないんだけど」
 夕飯を食べながら花がスマフォをいじりだしたところでお母さんが待ってましたとばかりに家族ルールのことを話すと、花は案の定不機嫌そうにそう言った。
「守らなかったときは罰金十円だから」
「やだ。払わない」
「ちゃんと記録してお小遣い減らすから払わなくても無駄」
 花は眉をしかめて、大げさにため息をついてからスマフォをポケットにしまった。その後は無言でご飯をかきこみ、さっさと自分の部屋へと行ってしまった。いつもより食べ終わるのが早かった気がする。
「ほら、言うこと聞いたでしょ」
「うん。でもイライラしてて怖かった」
「いつもイライラしてるじゃない」
「それはそうだけど」
 私達が話す中、父は無言で新聞を読んでいる。私はふとわいた疑問を口にした。
「スマフォだめなら新聞もだめじゃない?」
 スマフォを見てるという行為も新聞を読んでいるという行為も一人で何かをしているという点なら一緒ではないか。
「え。これだめか?」
 お父さんがあわてたように顔をあげるが、そこにお母さんが口を出してきた。
「何言ってるの。新聞は勉強になるじゃない。これはいいの」
「そういう分け方なの?」」
「あのね、お父さんは昼間一生懸命働いてるんだからね! 学校行ってるだけのあんた達とはちがうの!」
 学校に行ってるだけとはなんだ。それも結構大変なんだからな。言い返そうとしたけれどお父さんが申し訳なさそうに「気になるならやめるぞ?」なんて言ってきたので、怒りの気持ちがしぼんでくる。これで私とお母さんが口喧嘩になってしまったらお父さんが気にしてしまう。別にお父さんが新聞を読むこと自体を問題にしているわけではない。ルールが曖昧なのが気になるだけだ。でもその違和感をうまく説明できない。だったら口にしないほうがいいかもしれない。

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