マンション老朽化問題を救う⁉ 築50年でも再生する「リファイニング建築」

「リファイニング建築」という言葉をご存じでしょうか? 一般的なリフォームやリノベーションとは異なり、既存の建築物の構造体のうち約80%を再利用しながら、耐震性を強化し、大胆な意匠の転換や用途変更、設備一新を図り、建物の超長寿命化を図る建築物の再生手法です。しかも、建て替えの60%から70%のコストで実現可能。地球環境にやさしい再生建築手法として注目度が高まっています。

注目度が高まっている理由、そしてメリットについて解説します。

築年数の長くなったマンションの再生が大きな課題に

国土交通省によると、2018年末現在、全国の分譲マンションストックは約654.7万戸に達しているそうです。現在でも、年間10万戸近くが竣工していますから、今後もますます増加するのは間違いありません。

それらがすべてきちんと維持管理されていればよいのですが、築後経過年数が長くなった物件のなかには、老朽化して防災上、防犯上、景観上などさまざまな面で不安視されるマンションが増加する可能性があります。

図表1にあるように、2018年で築50年を超える分譲マンションが6.3万戸あり、それがその10年後には81.4万戸に、20年後には197.8万戸に増加します。これは分譲マンションだけですが、賃貸用マンションを加えるともっと多くなります。

分譲マンションなら、管理組合が長期修繕計画に基づいて維持管理していくことになりますが、賃貸用マンションだと、オーナーが資金を投じて維持管理を行わなければならないという問題もあります。

図表1 築30年、40年、50年超の分譲マンション戸数

(資料:国土交通省ホームページ

老朽化→空室率上昇→賃料低下の負のスパイラル

マンションの場合、老朽化が進むのを防ぐためには、定期的に大規模修繕を行った上で、テナント交替時などに設備を更新していく必要があります。それでも、長い年月の間には、耐震性の不安も出てきますし、設備面など時代に合わない部分が多くなり、空室率の上昇、賃料の低下が進み、放置することでさらなる空室率上昇、賃料低下といった負のスパイラルが始まります。

耐震補強などの大規模な補修には膨大な資金が必要です。しかし、室率が高く賃料が低下した賃貸マンションには、融資を期待できず、オーナーが自己資金を用意しなければなりません。かといって、売却するにも更地にする必要があり、簡単ではありません。建て替えとなると、なおさらです。

そこで、注目されているのがリファイニング建築なのです。

建て替えの6~7割の費用で新築並みの仕上がりになる

リファイニング建築というのは、株式会社青木茂建築工房の登録商標で、主宰する青木茂氏が提唱した新たな再生手法です。リフォームでも、リノベーションでもなく、既存躯体の80%を活用しながら、耐震補強ののち用途変更、設備更新などを行って、新築並みのマンションに再生します。その5原則は次の通りです。

リファイニング建築の5原則
1.内外観ともに新築と同等以上の仕上がり
2.新築の60~70%の予算
3.用途変更が可能
4.耐震補強により、現行法及び耐震改修促進法に適合する
5.廃材をほとんど出さず、環境にやさしい

独自施工のほか、三井不動産グループ、ミサワホームと提携も

青木茂建築工房では、独自にリファイニング建築を手がけるほか、三井不動産グループやミサワホームなどと提携して、分譲マンション、賃貸マンション、また公共施設のリファイニングなどを手がけています。

すでに、その実績は10棟以上に達していますが、2020年3月には、三井不動産グループとの提携による東京都渋谷区初台2丁目の賃貸マンションのリファイニング工事が完了する予定で、2月からテナントの募集が始まります。

この物件は、京王新線「初台」駅から徒歩10分の、第一種低層住居専用地域のなかにある、1968年竣工、築51年の鉄筋コンクリート造、地上4階・地下1階建て、総戸数24戸の賃貸住宅です。周辺は閑静な住宅地で、都内、それも都心の渋谷区の「一低」ですから、たいへん希少性の高い場所です。

しかし、老朽化した賃貸住宅には、その「一低」ということが、逆に大きな阻害要因になっていたそうです。

三井不動産リファイニング建築第3号案件(渋谷区) 現況とリファイニング後のイメージパース

建て替えでは延床面積が狭くなってしまう可能性がある

というのも、建築後の経過年数が長いと、その間に建築規制が強化され、高さ制限、容積率の強化などもあって、現行法に基づいて建て替えると、従前の建物より延床面積が狭くならざるを得ないことがあります。この初台の賃貸マンションのケースもそうでした。「一低」という住環境重視のエリアだからこそ出てくる問題といっていいでしょう。

延床面積が狭くなることが前提になると、更地にして売却するにしても、採算を取りにくく、融資もつきにくくなって、結果、希望に見合った価格で売れなくなります。

しかし、リファイニング建築なら、当初の建築時の規制が適用されるため、現状の床面積をそのまま活用できます。現行法で建て替えると規制強化で床面積が小さくなるのに比べて、広い床面積を確保できるわけです。

この物件も、倉庫として利用していた部分を住居に転用し、エレベーターなしだったのを、内階段部分にエレベーターを設置することができました。それによって、総戸数24戸が26戸に増え、賃料収入の増加も期待できます。リファイニング建築手法は、賃貸住宅経営の収支改善に大きな効果が期待できるわけです。

現行法に適合させることでローンを組めるようになる

このようにリフォーム、リノベーションが難しく、かといって売却するにも利益を上げにくいという問題を解決するための、新たな再生手法としてリファイニング建築が注目されているのです。

しかも、リファイニングによって、現行法に適合させることで、構造躯体の信頼性を明確化できるため、新たに確認申請書を提出し、竣工後には完了検査済み証の交付を受けることができるようになります。つまり、新築と同様の評価を得られるようになって、工事費のためのローンを組むことができるわけです。

リファイニングに当たっては、耐震性を高めると同時に、戸境壁を厚くして断熱性能や遮音性能なども高めています。さらに、サッシにはLow-Eガラスを採用するなど、最新の分譲マンション並みの基本性能の確保を目指しています。

賃料は周辺の新築マンションに比べて1割安くできる

この物件の場合、各種設備も都心の「一低」にあるハイグレードマンション並みに揃える方針です。それによって、リファイニング工事終了後には、老朽化して賃料が低下していたものを3割から4割は引き上げられる見込みです。

それでいて、建て替える場合に比べて、建築費を7割程度に抑えることができるので、家賃を近隣の相場より1割ほどは安く設定しても、十分に採算がとれる見込みです。

この物件の場合、近隣の相場は坪単価1万4,000円ほどで、1LDKだと月14万円から15万円の賃料になるのを、13万円台からそれ以下に下げることができるかもしれません。三井不動産グループでも、リファイニングによって外観イメージなどは新築並みに改善されるので、テナント集めにも苦労することはないだろうとしています。

リファイニング建築によって100年以上は活用できる

わが国の住宅の寿命は欧米に比べて極めて短いといわれています。築年数が長くなると、立地条件のいいマンションなら建て替えられることもありますが、そうでないと見捨てられて廃墟化するケースもあります。それでは、防災、防犯、景観などさまざまな面で阻害要因になります。

それを再生し、住宅としての寿命を長期化する手法として、リファイニング建築が注目されます。しかも、青木茂建築工房では、50年を経たあとにリファイニングした物件を、さらに30年後にはもう一度リファイニングして、100年以上の活用を目指しています。まさに、超長寿命化住宅です。

そうしてこそ、建て替えまでの期間が極めて短い日本の住宅を欧米並みに近づけることができますし、廃材を出さない環境にやさしい取り組みとしての注目度が高まっていくのではないでしょうか。

~こんな記事も読まれています~

この記事が気に入ったらシェア