【給料日はワインの日】Vol.4 令和初の年末年始のオススメ! ハイコスパの泡ワイン

ワイン漫画として全世界で1,000万部以上を発行し、世界中で高く評価されている『神の雫』。その原作者がワインのある“暮らし”をご提案。敷居が高く、手を出しにくいというワインのこれまでのイメージを払拭する “飲みテク”を伝授。毎月給料日に、自宅で大切なパートナーと、手頃な価格で楽しめるワインをご紹介します。

1年は、華やかな泡ワインで締める

年末年始はやはりスパークリングワインで、旧年の疲れを吹き飛ばしつつ新年をパーッと祝いたいもの。懐に余裕があるなら、お高い「シャンパーニュ」で乾杯したいところだが、なにかと物入りな季節でもあり、そうそう大盤振る舞いはできないという人も多いだろう。
そこで今回は、シャンパーニュに近い美味さを備えつつも、値段は半分程度のハイコスパなスパークリングワインをご紹介しよう。

本題に入る前に、「シャンパーニュ」と「スパークリングワイン」の違いについて、ちょっとだけ解説しておきたい。
シャンパーニュという言葉は、イメージとして発泡性ワインの代名詞みたいになってしまっているが、これはフランスの「シャンパーニュ地方」でつくられるワインに固有の名称。フランスのその他のワイン産地にも、他の国にも「シャンパーニュ」は存在しない。実に限られたエリアで、厳しい基準の中でつくられるワインが、シャンパーニュ。そしてすべてのスパークリングワインの中で、品質も値段も知名度においても、頂点に立つのが、シャンパーニュ。要するにスパークリングワインにおけるエベレストみたいな存在が、シャンパーニュなのだ。

ではなぜ、シャンパーニュだけが特別なのか。それは、発泡性のワインがどうして生まれるか、に関わっている。

ワインづくりの過程では、葡萄ジュースに酵母を入れて発酵させると、果糖に酵母が反応して、アルコールと二酸化炭素が発生する。通常、この二酸化炭素は空気中に拡散していくが、瓶や密閉した容器で発酵を行うと、液体のなかに二酸化炭素を封じ込めることができ、炭酸の泡が生まれる。この泡が、スパークリングワインになっていくわけだ。

なので、発泡性ワインをつくるには、2段階の製造工程が必要となる。1.まずベースとなるワインをつくる。2.そしてできたワインを密閉容器に移して二度目の発酵を行い、炭酸を液体内に溶け込ませるのだ。

この二度目の発酵を密閉タンクで行うのが「シャルマ方式」と呼ばれるもので、一度に大量に、手っとり早くつくれるため、コストが低い。

それに対して、シャンパーニュなどの高級ワインで行われているのが「瓶内二次発酵方式」(トラディショナル方式とも呼ばれる)だ。これはワインを瓶詰めしたのちに糖分と酵母を加えて密閉し、瓶のなかでアルコールと二酸化炭素を発生させる。発酵後は、酵母の死骸である「澱(おり)」とともにワインをそのまま寝かせておき、酵母の旨味をたっぷりと浸透させる。この澱と寝かせる期間は短くても1年。その後、1本ずつの瓶から澱を取り去る作業をしてのち、初めて完成・出荷となるのだ。

大変な手間とコストと時間がかかるやり方だが、この方法でつくられた発泡性ワインは、酵母由来の深いコクと旨味があり、泡も繊細で、とても美味しい。この方式でつくられる最高レベルのワインが、シャンパーニュというわけだ。
シャンパーニュを名乗るためには、産地がシャンパーニュ地方であるほか、「瓶内二次発酵方式」でつくることが義務づけられており、瓶を寝かせる期間は1年以上(ほとんどの場合、3~4年寝かせる)。ガス圧、アルコール度数も決められた水準をクリアしなくてはならず、使う葡萄も3種類に限定されている。世界の発泡性ワインでこれほど厳しい基準が設けられているものは他になく、したがって値段も世界一高い。

さてここからが本題。安くて上質なスパークリングワインを見つけ出すには、このシャンパーニュと同じ製法──つまり「瓶内二次発酵」で作られたワインかどうか、が最大のポイントになる。

美味いスパークリングのキーワード「瓶内二次発酵」

瓶内二次発酵でつくられたスパークリングは、実は世界にたくさんあり、2,000円台から買えるものも少なくない。

その代表が「クレマン」と名前の付く、フランス産スパークリングワイン。クレマンは、シャンパーニュ地方以外のフランス国内の 9ヶ所の指定産地で作られており、シャンパンと同じ瓶内二次発酵による伝統的方法でつくられる。シャンパーニュほどではないが、瓶熟成の期間は 9ヶ月以上だし、その他にもいろいろと厳しい基準が設けられている。いってみれば、「準シャンパーニュ」といっていい存在である。

©亜樹直、オキモト・シュウ/講談社 26巻より

クレマンはどれも悪くないが、私の推しクレマンをふたつ挙げておく。まずはロワール地区で1885年創業の老舗メゾンがつくる『クレマン・ド・ロワール ラングロワ・シャトー』だ。

このワインは、ロワール地方の代表的葡萄品種のひとつ、白葡萄シュナン・ブランを中心にブレンドされており、なんと24カ月の瓶熟成を行っている。『神の雫』ではこちらのロゼを紹介したが、どのキュベもコスパが高く、はずれがない。澱と寝かせている期間が長いのでコクも備わっているが、酸味は爽やかで、飲み口はかろやか。世界的シャンパーニュ企業の「ボランジェ」がこのメゾンの品質にほれ込み、1973年に買収したが、それ以降、品質はますます向上したといわれている。

2年以上の長期熟成を経たこだわりのスパークリングワイン。『クレマン・ド・ロワール ブリュットNV ラングロワ・シャトー(白泡)スパークリング』。産地:フランス、750㎖、約1,800円

ふたつめの推しは『クレマン・ド・リムール・クロ・デ・ドモワゼル』。リムーという産地は南フランスにあるが、世界で初めて発泡性ワインが誕生した地としても知られている。ジ・ロレンスは、1980年代にシャンパーニュをつくっていた醸造家が立ち上げたドメーヌ。「ドモワゼル」は高級白葡萄のシャルドネが60%で、果汁の一番搾りだけを贅沢に使っており、熟成期間も20ヶ月。シャンパーニュに劣らぬクリーミーな泡、エレガントさを備えている。
このふたつのクレマンは、ありがたいことに、どちらも2,000円台で手に入る。

元シャンパーニュの生産者がリムーで開業したワイナリーによる泡ワイン。『クレマン・ド・リムール・クロ・デ・ドモワゼル』、産地:フランス、750㎖、約2,300円

「瓶内二次発酵」でつくられる世界の安旨スパークリングワイン

フランス以外でも、ヨーロッパでは瓶内二次発酵方式が法的に義務づけられているワインがいくつかある。ドイツの「ゼクト」、イタリアの「フランチャコルタ」、スペインの「カバ」などである。これらももちろん、品質は一定レベルをクリアしていると思う。

しかし瓶内二次発酵が法的に定められてなくても、美味しいワインをつくるために、自主的にこの方法を選ぶワイナリーも多い。南アフリカのグラハム・ベックもそのひとつだ。

ここは南アにおけるスパークリングワインのトップランナーで、醸造家のフェレイラ氏は長年、大手シャンパーニュメゾンで仕事をしてきた人。オバマ元大統領が、就任の祝いに飲んだというエピソードも有名である。写真の『ロゼ・ミレジム』は値段こそ2,000円台だが、グラハムの中では高級レンジのワインで、瓶熟成は21ヶ月とかなり長い。飲んでみると泡はスムージーで、ラズベリーやイチゴ、リンゴの甘いアロマが絡み合い、ミネラルの余韻が長く口の中に残る。オバマ氏でなくても、アゲた気分のときに思わず乾杯したくなるワインである。

南アフリカが世界に誇る高品質スパークリングワイン。『グラハム・ベック ブリュット・ロゼ・ミレジム』産地:南アフリカ、750㎖、約2,600円

いかがだろうか? 美味い泡を見つけたければ、まずはスマホに「瓶内二次発酵」と入力して、検索してみるのが近道だ。日本やアメリカでも、この方式を採用して、安くて美味いスパークリングワインをつくっている生産者がかなりいる。

瓶内二次発酵でつくられたワインは、どれも一定レベルの味わいだが、より美味しいものを探すなら、熟成期間が長いことがひとつのサーチポイントになる。18ヶ月以上をメドに絞り込んでみると、意外なお宝にめぐり合えるかもしれない。

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