【2020年住宅市場予測】首都圏の新築マンションは「高値横ばい」か

いよいよ東京五輪本番の2020年。五輪後には景気後退を予測する向きもありますが、ほんとうにそうなるのでしょうか、また、住宅業界にはどのような影響があるのでしょうか。2020年の住宅市場を、1.マンションや一戸建ての供給動向、2.物件価格の見通し、3.住宅取得に大きな影響を与える住宅ローンの金利動向――の三つの点から予測してみましょう。

マンションや一戸建ての供給動向

首都圏マンションは新築より中古中心の時代に

新築マンションは2000年初頭には全国で年間20万戸、首都圏だけでも10万戸前後の供給があったのが、最近では全国でも10万戸を切り、首都圏での供給は3万戸台に減少しています。それでも、首都圏を中心に売れ行きが鈍化していて、新規供給の拡大はほとんど期待できない状況です。
それに対して、増加しているのが中古マンションの売買。特に、首都圏では2016年に年間の新築マンション発売戸数を、中古マンション成約件数が上回り、初めて両者の関係が逆転しました。その後、2017年と2018年は両者の関係がほぼ拮抗した状態だったのですが、2019年に入って中古優位が明確になってきました。新築が減少し、中古が着実に増加するなかで、最終的には中古マンションの成約が新築を半万戸前後上回ることになりそうです。

新築マンションの供給が増える可能性は小さい

首都圏のマンション市場に関しては、現在のように、新規発売戸数が減少しているにかかわらず、月間契約率が採算ラインといわれる70%を切る厳しい状況が続き、2020年も新規発売戸数の増加は期待しにくくなっています。良くて横ばい、ともすれば2019年より減少する可能性もあります。

近畿圏やその他の地域では、2020年のような供給があったとしても、全体としては新築マンションの減少傾向は変わらないのではないかとみられます。

新築の頭打ちに対して、中古はマンションストックの増加もあって、新規登録や成約件数が着実に増加しそうです。
それだけに、これからマンションの購入を考える場合、新築だけにこだわっていると、なかなか希望の物件に出合えない可能性が強くなってきます。後になって振り返ったとき、「2019年はマンション市場において中古が主役になった年だった」ということになるのかもしれません。

物件価格の見通し

高くなり過ぎた価格でも下がる可能性は低い

次に価格動向はどうでしょうか。
民間調査機関の不動産経済研究所のデータによると、新築マンション価格は図表1のようになっています。首都圏では6,000万円を挟んだ動きが続き、高止まりしています。近畿圏も3,000万円台の半ばを中心にした動きになっています。
新築マンションの売れ行きが鈍化していますから、消費者からすれば2020年には価格の低下を期待したいところですが、それは期待薄のようです。なぜそうなのか、その理由は――。

新築マンションの価格は、土地の仕入れ値、建物の建築費、分譲会社の経費・利益、の三つの要素から成りますが、そのいずれも上昇しているのです。分譲会社からすると、原価が上がっているのですから、「とても値下げどころじゃない、上げたいくらい」というのが本音でしょう。

図表1 首都圏と近畿圏の新築マンション価格の推移(単位:万円)
(資料:不動産経済研究所調べ)

1年後の地価は東京・大阪ともに上昇か横ばいの見通し

【土地の仕入れ値】

ここ数年地価がジワジワと上がっているのは周知の通りです。なかでもマンションの多い首都圏や近畿圏のマンション適地は2割、3割と上昇しています。
しかも、今後についても図表2にあるようにさらなる上昇が見込まれています。これは、国土交通省が地価への影響力がある大企業を対象に調査しているものですが、東京23区に本社のある企業の4割近くが1年後も地価上昇が続くとみています。大阪府やその他の地域では上昇見込みは減るものの、下がるとみる企業は極めて少なくなっています。

【建物の建築費】

建物の建築費に関しても2015年、2016年と横ばいが続いてきたのが、2017年、2018年と再び上昇傾向が強まり、下がる気配はありません。

【分譲会社の経費・利益】

各社とも働き方改革を進めなければならず、負担は重くなるばかりです。

以上の通り、三つの要素ともに価格が下がる要素は皆無です。

図表2 1年後の地価水準の予想(本社所在地別)
(資料:国土交通省『企業の土地取引動向調査(2018年度第2回)』)

2020年も若干上がって2021年以降も高止まりか

こうした上昇要因が強いため、一般財団法人日本不動産研究所では、『東京23区のマンション価格と賃料の中期予測/2019年下期』と題した調査レポートのなかで、2020年も東京23区のマンション価格は前年比で0.8%の上昇になると予測しています。

その後、2021年は0.2%のマイナスに転じますが、マイナス幅は極めて小さく、高止まりになるとみています。
これに対して、中古マンションは高くなり過ぎた新築に比べての割安感から順調な成約が続き、2020年も価格の上昇が続くとみられます。実際、公益財団法人東日本不動産流通機構によると、首都圏中古マンションの成約価格は2019年2月から11月まで10ヶ月連続して上昇が続いており、上昇率も前年同月比数%と比較的高い水準になっています。

それでも、新築の平均価格に比べると中古の平均価格は2,000万円以上安いので、新築価格が高止まるなか、中古マンション価格の上昇が続きそうです。

一戸建ては新築・中古ともに市場は堅実に推移する

マンションは、首都圏を中心に新築物件は価格上昇のなか売れ行きが鈍化する厳しい環境が続き、それを中古マンションが追い上げる形になりそうですが、一戸建て市場は新築、中古ともに安定しています。
若い世代を中心に、一戸建てよりはマンションという志向が強まっているとはいえ、依然として日本人の一戸建て志向には根強いものがあります。

国土交通省が毎年実施している『土地問題に関する国民の世論調査』の最新版(2018年度)によると、「今後望ましい住宅形態」に関する質問では、全体の65.0%の人が「一戸建て」と回答しています。「一戸建て・マンションどちらでも良い」は21.8%であるものの、「マンション」とする人は10.2%でした。
こうしたニーズに支えられて、一戸建ては新築、中古ともに価格は安定し、安定した成約が続くことになるでしょう。

住宅ローンの金利動向

やや上昇も依然として低金利水準が続く

住宅市場にとっては、住宅ローン金利も大きな影響を与えます。当たり前のことですが、金利が下がれば、ローン負担の軽減を見込んで住宅取得が増え、金利が上がれば購入意欲が減退します。

その住宅ローン金利、2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入した直後に史上最低金利を記録し、その後は若干上がったものの、依然として低金利水準が続いています。
図表3は、住宅金融支援機構が民間機関と提携して実施している住宅ローンの【フラット35】の金利推移を折れ線グラフにしたものです。月によって若干の変動はあるものの、1%台前半の低い水準が続いています。

長い目でみれば、いずれは上がっていくことになるでしょうが、2019年年末の日本銀行政策会合でも、大規模な金融緩和の継続が打ち出されており、2020年も若干上がることはあっても、大きな変化はないだろうとみられます。

フラット35の最低・最頻金利の推移(単位:%)
フラット35の最低・最頻金利の推移(単位:%)(資料:住宅金融支援機構ホームページ)

税制の優遇策も続き、恵まれた購入環境続く

金利に加えて、各種の住宅取得支援策も充実しています。特に、2019年10月の消費税増税に対応して、増税感を払拭する狙いから、住宅ローン減税の拡充、すまい給付金の拡大、次世代住宅ポイント制度の創設などの住宅取得支援策が実施されています。

住宅ローン減税の拡充によって減税額が増えて、消費税増税による負担増加分を相殺できるようになっていて、それに加えて、すまい給付金の現金給付、次世代住宅ポイントのポイント付与などのメリットを享受できます。消費増税前よりもむしろ有利になっているといってよいでしょう。

2020年、住宅価格は新築マンションを中心に高止まりしていますが、金利は低水準が続き、住宅取得支援策の恩恵を享受できる環境が続きます。そろそろマイホームを取得をと考えている人にとっては、チャンスの年といってもいいかもしれません。

(最終更新日:2020.12.29)
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