【ARUHIアワード10月期優秀作品】『花舞う日』あまちてる

 祥ちゃん。サクラはもうすぐ、あなたのところへ行っちゃうの?この2日間、ほとんどご飯を食べないの。獣医さんは、「老衰」だって。点滴を打って無理やり栄養を摂らせることもできるけど、本人がもう要らない、っていってるのに、無理やり栄養を摂らせると、かえって苦しいんだって。
 でも祥ちゃん、このままサクラを行かせることは、私も佑人も苦しいです。サクラの年齢を考えたら、自然なことではあるけれど、わかっているけど、苦しいです。
 だって、私たち、サクラにどれだけ支えてもらってきたことか。祥ちゃんにもわかるよね。祥ちゃんはたった8年で私の前から消えちゃったけど、サクラは15年も私を支えてくれたのよ。祥ちゃんの分も。
 私、わかるんだ。サクラはもともといい子だったけど、祥ちゃんが逝ってから、ますますいい子になりました。祥ちゃんの代わりに私たちを守らなきゃ、って、がんばってくれていたのよね。
 私が仕事と家事と育児で疲れてイライラして、佑人に声を荒げそうになると、いつもサクラが間に立って、私をなだめてくれました。
 私が台所仕事しながら、考え事に沈んでいると、よくサクラがかそばに来て、つんつん、って、鼻で私の足をつついたの。「お母さん、あたしがついてるよ」って、言ってくれていたのよね。そんなとき、サクラに抱きついて何度も泣きました。サクラは私の頬をペロペロ舐めて、なぐさめてくれたのよ。
 私がなかなか佑人の相手をしてやれなくても、佑人がなんとか素直に育って無事に小学校を卒業できたのは、サクラがいてくれたから。私が家に仕事を持ち帰り、佑人を寝かしつけてやれなくても、サクラが佑人と一緒に寝てくれた。朝もサクラが佑人を起こしてくれました。学校から帰った佑人を玄関で出迎えてくれたのもサクラだし、一緒に遊んでくれたのも、サクラだよ。卒業式の日、中学校の制服を着て出かけていく佑人を、サクラは尻尾を弱々しく振りながら、玄関で見送ってた。佑ちゃん、立派になったね、って言ってくれているみたいだった。
 そのサクラがいなくなったら、私はどうしたらいいの?
 わかってる。今、サクラは生きるのがしんどいの。このままあなたのところへ行かせてあげた方が、サクラは楽。
 わかっているけど、苦しいよ。生きるのがしんどいサクラを見ているのも苦しいし、サクラを送るのも、苦しい。
 祥ちゃん、苦しいよ。

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