【ARUHIアワード10月期優秀作品】『いつかわかればそれでいい。』森な子

 ゆうこちゃんは立ち上がって、上着を私の肩にかけた。そして「じゃあね、どうか幸せにね。本当にどうか、幸せにね」と泣きそうな顔で言った。
 そんなこと言える人が優しくないわけないのだ。ゆうこちゃんはアホだ。
「ねえゆうこちゃん、行かないでよ。どうか行かないで。一緒に居ようよ。
 私ゆうこちゃんが好きだよ。お嫁さんにしたいって思うもの。でもできないから、それが歯がゆいの。凄く歯がゆいの。上手く言えないけどさ、でも、いつの日か鈴木さんがゆうこちゃんを拾ったように、その家にまた私が拾われてきたように、今度は私がゆうこちゃんを拾うよ。だからそんな、全てを失ったような顔しないでよ」
 私の一世一代の告白に、ゆうこちゃんは驚いたような顔をして俯いた。しばらくしてから顔を上げた時の表情が、本当に美しくて息を呑んだ。
「ごめんね」
 何に対して、誰に対して謝ったのかわからない。けれどいい。それでいい。震える小さな手が私の手をぎゅっと掴んで離さない。もうそれだけで何もかもどうでもいい。
 いつかわかればそれでいい。

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