アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア (SSFF & ASIA)が展開している、短編小説公募プロジェクト「BOOK SHORTS (ブックショート)」とARUHIがコラボレーションし、3つのテーマで短編小説を募集する「ARUHIアワード」。応募いただいた作品の中から選ばれた10月期の優秀作品をそれぞれ全文公開します。

 ふと目が覚めるとカーテンのすき間からは強めの陽光が射し込んでいた。置き時計に目をやると九時半を示している。当然ながら隣のベッドに美花の姿は無い。階下からはカチャカチャと食器のふれ合う音や、子供達の話し声がかすかに聞こえてくる。ベッドから降りてカーテンを開けると、空は文字通り目の覚めるような晴天だった。
 階段を降りていくと、対面式のキッチンで洗い物をしている美花と目があった。彼女と子供達はとっくに朝食を終えていた様だった。
「おはよう」
「おはよう」
 朝ご飯、と美花はアゴで目の前のダイニングテーブルを示した。私がいつも座る場所にベーコンレタスサンドとキウイ、コーヒーポットとマグカップが用意してある。
「ありがとう」
 私はテーブルにつき、マグカップにコーヒーを注いだ。すぐ横のリビングに目をやると、長女の百花がソファーに腰掛け、テレビでアニメを見ている。少女が変身して悪と戦う巷で人気のやつだ。土曜の朝は姉妹で仲良く肩を並べてこのアニメを見るのがお決まりの光景だったが、今日は違う。次女の千花は、私のはす向かい、ダイニングテーブルの自分の席で、画用紙に何やら絵を描いている。私はカップを口に運びつつ、横目でその画用紙を確認した。画用紙には四人の家族らしき姿が描かれている。一番背の高い女性は美花で、長い黒髪を一つしばりにしているのは百花、一番小柄でおかっぱの女の子は千花で間違いないだろう。と、なると唯一の男性らしき人物は私という事になるだろうか。皆笑顔で、幸せそうに描かれている。幼児特有のかわいらしい絵に、思わず目を細めてしまった私だったが、よく見ると、その絵には一つ不思議な点がある事に気付いた。画用紙の上の方に、「おたんじょうびおめでとう いつもありがとう」というメッセージが添えられているのだ。おたんじょうび・・・・・・。誰の?
「みないでよ!」という千花の言葉とともに、画用紙は小さな両手で覆われてしまった。私はいつの間にか彼女の絵をガン見していたのだ。
「どうしたの?千花。お父さんに何かされた?」
 洗い物を終えた美花がアイランドキッチンを回り、テーブルの方へとやって来た。
「あら、上手ねえ」
 美花の言葉に、千花は「へへ」と嬉しそうに笑う。私には隠したくせに、母親である美花に絵を見られるのは構わない様だった。
「どうしたの?」
 こちらの様子が気になったのか、テレビを見ていた百花もやって来た。
「かわいい!・・・・・・でも、『おたんじょうびおめでとう』って誰の事だろう?」
 そう。私もまさに同じ疑問を抱いていたのだ。家族で、直近に誕生日を控えている人間はいない。美花と百花は、一ヶ月前の九月に終えたばかりだ。逆に私は十一月なので、まだ一ヶ月ほど間がある。
「お母さんの事じゃないかな?」
 美花が少しおどけた調子で言った。
「『いつもありがとう』って書いてあるし。だってほら、みんなのご飯つくったり、お洗濯したり、家のお掃除したりって、全部お母さんやってるでしょ?」
 その言葉に、百花が「私だって」と対抗する。
「いつも千花ちゃんとお風呂入ってあげてるし、一緒に学校も行ってあげてるし、一緒に遊んであげてるもん。『いつもありがとう』って言うのは、きっと私に対してだよ」
「そうかなあ?」
美花は首をかしげる。
「昨日千花の事泣かせてたの誰だっけ?」
「あれは・・・・・・千花ちゃんが私の色鉛筆勝手に使って、芯を折っちゃったから・・・・・・。千花ちゃんだって謝ってくれたし、私だって許したし、ちゃんと解決したもん」
 百花は少しムキになって答えた。
「そういうお母さんだって、おととい千花ちゃんの事泣かせたじゃん」
「おととい?」
「ほら、千花ちゃんが選んだ豆乳の今川焼、お母さんが間違って食べちゃったでしょ?」
「ああ・・・・・・」
 美花は一瞬だけ気まずそうな表情を見せたが、「だってあれ外見じゃ全然分からないんだもん」とすぐに開き直った。

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