いまと昔で変わった「住宅展示場」事情、家を建てるまでに賢い利用を

「家が欲しいな」「家を建てようかな」と思うのは、結婚や子どもの成長など家族にまつわるライフイベントが起こるタイミングが多いようです。そうなったときに足を運ぶのが住宅展示場。たくさんのハウスメーカーが建てた特徴的な家を実際にその目で確認できます。とはいえ今はインターネットの時代。まずはネットで調べて、という人が増え、住宅展示場の利用法も以前とは変わってきているようです。今どきの住宅展示場事情や賢い利用法などを、住生活ジャーナリストの田中直輝さんに伺いました。

かつての住宅展示場は1日遊べる休日の憩いと「出会い」の場

住宅展示場は、広い敷地にいくつものハウスメーカーがモデルハウスを建て、長い距離を移動することなく実際の建物を比較しながら検討できる施設です。日本一広いといわれる神奈川県横浜市にある「tvkハウジングプラザ横浜」には、33のハウスメーカーが出展し、50以上のモデルハウスが建てられています。これほど大規模なところはそうそうありませんが、それでもどこの住宅展示場もじっくり見て回ると1日では足りないほどの数のモデルハウスが並んでいます。

住宅展示場ができたのは1960年代、家を買おうと考える人がイメージしやすいように実物を見てもらうことを目的に作られました

戸建て住宅の建て方が昔からある在来工法以外の工法でも建てられるようになり、実際の家を消費者に見せて納得してもらう必要もありました。高い買い物ですから、言葉で説明されるだけでは購入に踏み切れないのは当然です。

田中さんによると、この頃からインターネットが普及する前までの住宅展示場は、家族連れの憩いの場のような存在だったそうです。休日にはヒーローショーが開催され、新しくてきれいなモデルハウスを何軒か見て回ると1日はあっという間。「日曜日にお金をかけずに家族連れで楽しむのにぴったり。それでみんな足を運んでいた」のだそう。

ハウスメーカーも足を運んでくれれば、名簿が手に入りますからその後の営業につなげることができます。また、営業マンとウマが合えば、その場で話がまとまることもありました。住宅展示場は、ハウスメーカーと消費者の出会いの場として機能していたのです。

足を運ばせる仕掛けが多彩に! 超高級モデルハウスも登場

とはいえ、今やインターネットの時代です。「まず住宅展示場に足を運んで」という人は少なくなりました。誰もが一番最初にやることはネット検索。そこで、候補をいくつかに絞って住宅展示場に足を運んで確認する、そういった人が増えています。住宅展示場の利用の仕方が変わったのです。

こうした変化を受けて、住宅展示場も変わりつつあります。ヒーローショーなど子ども向けが中心だったイベントは、さまざまな年代を対象にしたワークショップに変わり、カフェなども併設されて、住宅展示場に足を運んだ時間のすべてが楽しめるようになってきています。

また、山手線内にも住宅展示場が登場しています。

ここは、「TBSハウジング渋谷 東京ホームズコレクション」。有名ハウスメーカー11社14棟社の最新モデルハウスが建ち並んでいます。都心に住む人に向けているため、単世帯~二世帯はもちろん、敷地に限りがある都心ならではの2~5階建て、リタイヤ世代に向けた賃貸併用や店舗併用タイプなど、世代やライフスタイルの対象を幅広く考えたモデルハウスが用意されています。しかも週末には託児所が開設されるほか、子ども向けの英語料理教室や大人向けのボイストレーニングのクラスなども開催されます。モデルハウスを見学しなくても参加できるので、住宅展示場を意識することなく利用できます。

住宅展示場の利用の仕方は変わっても、ハウスメーカーにとって大切なのは、やはり足を運んでもらうこと。もちろんすぐに家を建ててもらえればいいのですが、それよりもいざというときに選んでもらえることを大切に考えています。そのために誰もが長期的に気軽に足を運べるイベントや設備を準備しているのです。

思い通りの家づくりをするために、住宅展示場は賢く利用するのがおすすめ

これまで全国の住宅展示場を取材したり、購入者の人たちをたくさん取材してきた田中さんは、「もっと住宅展示場を賢く利用してほしい」と言います。家を建てようと思い立ってからハウスメーカーと契約するまでに3ヶ月から半年くらいで決めてしまっては、後悔が残ることが多いそうです。なぜなら、結局はハウスメーカーのいいなりに家を建てることになってしまうから。また、短期間では営業マンと良い関係を築くことも難しいといいます。

田中さんがいう「賢い利用法」とは、家を建てるまでの時間を有効に活用してほしいということ。「子どもができたら」「子どもが小学校に上がる前に」など、いつか家を建てようと考えているのであれば、そのときに備えて準備を進めるよう考えてほしいそうです。

モデルハウスは、各ハウスメーカー自慢の建物です。収納などの設備が凝っていたり、間取りに工夫が見られたり、知っておくと何かと役立つことがたくさんあります。また、インテリアのテイストはさまざまあっても統一感のあるおしゃれなものが選ばれています。そうしたものを参考にしてセンスを磨いたり、今住んでいる家の収納を工夫することが将来家を建てるときに役立ちます。住宅展示場に出展する多くのハウスメーカーは、そういった利用法も歓迎しています。その際には、「直近で家を建てる予定はないけど、インテリアを参考にしたいので見たい」「収納がどうなっているか見たい」というように来た目的を伝えるようにすれば、目的に応じた対応をしてくれるそうです。また、こうした目的で来たことを告げたときに対応が悪いハウスメーカーとは縁がなかったと判断できます。すぐに家を建てるハウスメーカーを決めてしまっては、こうした見極めができないかもしれません。

住まいは一生に一度か二度の大きな買い物です。家を建てれば、メンテナンスも必要になりますから、そのハウスメーカーとは一生の付き合いとなります。であれば心から信頼できるハウスメーカーを選びたいのが当然です。そのためにも、折に触れ、住宅展示場を訪れて住まいを見る目、センス、そして営業マンを見る目を養っておくことが大切なのです。

<取材協力>
田中直輝さん
早稲田大学教育学部を卒業後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。東洋経済オンライン、オールアバウトなどに寄稿している。

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