ローン残る家が自然災害で破壊…生活を守る「被災ローン減免制度」とは

2019年は台風15号と19号2つの台風が日本を直撃し、広範囲に大きな被害をもたらしました。川沿いの家が地盤ごと流されていく映像もニュースで報道され、もしも自然災害で自宅が被害に遭ったら、と不安になった人も多いのではないかと思います。もし住宅ローンが残る家を流されたら、生活を再建しながらローンの返済を続けていくことができるのでしょうか。

今回は、自然災害で住宅ローンが残る自宅が大きな被害に遭ったときに知っておきたい「被災ローン減免制度」(正式名称:自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン)についてお伝えします。

「災害救助法」適用で使える「被災ローン減免制度」

「被災ローン減免制度」とは2015年9月2日以降に、「災害救助法」が適用された自然災害で被災した場合に限り、住宅ローンなどの免除、減額を申し出ることができる制度です。災害救助法は都道府県知事が市区町村ごとの区域を定めて適用され、住家被害と身体・生命への危害の両面から判断されます。たとえば、住家被害への適用基準のひとつは、一定区域内の人口が5万人以上10万人未満なら80世帯以上、10万人以上30万人未満なら100世帯以上が住家滅失の被害を受けた場合等となっています。住家滅失とは全壊以外に半壊または半焼は2世帯で一の滅失、床上浸水なら3世帯で一の滅失となっています。今回の台風19号は広範囲に大規模な被害をもたらしたため、14都県の市区町村や一定区域内に災害救助法が適用されました。

内閣府:災害救助法の適用状況

「被災ローン減免制度」は災害救助法が適用された自然災害の影響で住宅ローンやリフォームローン、自動車ローン、事業用ローンなどが返済できなくなった個人の債務者を対象としています。家や車、事務所、工場などが災害で流されたりしてしまっても、ローンの返済がなくなるわけではありません。放っておくと返済が滞り、自己破産や倒産ということになり、自分自身の信用に大きな傷を残すとともに、生活の再スタートが難しくなります。

「被災ローン減免制度」は災害によってローンの支払いができなくなった人、近い将来返せなくなることが確実な人が、破産や倒産の手続きによらず、専門家を通して金融機関等と返済の減額や免除について協議し、生活再建をしやすくする制度です。

「被災ローン減免制度」3つのメリット

制度を利用することで得られるメリットは大きく3つあります。

メリット1:信用情報機関に登録されない
自己破産や個人再生の手続きを行うと、信用情報機関に登録され、その後一定期間借り入れやクレジットカードの作成や使用ができなくなります。これに対し、被災ローン減免制度では、債務の減免を個人信用情報機関に登録されないため、再度ローンを組んで住宅や車等を購入し、生活再建のための資金に充てることができます。

個人信用情報機関にはクレジット会社の共同出資による株式会社CICや貸金業を中心とするJICC、全国銀行個人信用情報センターなどがあり、自分の信用情報は一定の手続きをすれば自身で照会することができます。

メリット2:国の補助により弁護士等「専門家支援」を無料で受けられる
弁護士のほか、税理士、公認会計士、不動産鑑定士の必要な専門家の手続き支援を無料で受けられます。債権者側でも債務者側でもない中立の立場の専門家支援が受けられるメリットがあります。

メリット3:財産の一部をローンの支払いに充てず手元に残せる
被災状況や生活状況など個別の状況から、債務整理後も預貯金の一部を手元に残すことができます。破産や再生手続で手元に残せる現預金は99万円までですが、減免制度では最大500万円の現預金、家財地震保険金最大250万円、被災者生活再建支援金、災害弔慰金、義援金などを残すことができます。また、原則として保証人への支払いは請求されません。自由に使えるお金を手元に残せ、保証人に迷惑をかけることもありません。

メリットが大きい被災ローン減免制度ですが、無条件で使えるわけではありません。債務の減免についてはその人の財産や収入の状況、債務総額や返済期間利率といったローンの諸条件などから一定の要件を満たし、借入先の金融機関の同意が必要になります。また、簡易裁判所の特定調停手続を利用することになるため、特定調停の費用は自費となります。

減免制度手続きの流れ

では、制度を利用するには具体的にどのような手続きが必要なのでしょう。具体的な手続きの流れについて整理しておきます。

1. 手続きの申し出
最も多くのローンを借りている金融機関に対して手続きの申し出を行います。金融機関からは、借入先、借入残高、年収、資産の状況などを聞かれます。事前にある程度数字をまとめておくとよいでしょう。

2. 専門家による手続き支援を依頼
地元の弁護士会などを通じて東日本大震災自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関宛てに「登録支援専門家」による手続き支援を依頼します。弁護士以外の税理士、公認会計士、不動産鑑定士も「登録支援専門家」にあたりますが、一部の業務を実施することができないためできることを確認して依頼しましょう。

3. 債務整理の申し出
金融機関に債務の整理を申し出、申出書や財産目録の提出をします。書類作成に支援専門家のサポートを受けられます。債務整理の申し出を行った後は返済や督促が一時停止となります。

4. 「調停条項案」の作成
専門家の支援を受けながら金融機関と債務整理の内容を盛り込んだ書類を作成します。この書類を「調停条項案」といいます。財産の状況や今後の収入や支出の状況から債務の減免や返済の見直し案を作成するため、金融機関の同意を得るためにも専門家の支援が必要です。

5. 「調停条項案」の提出・説明
専門家を通して金融機関宛てに債務整理の内容を盛り込んだ「調停条項案」を提出し、その内容について説明します。金融機関は、1ヶ月以内に同意するかどうかを回答します。

6. 「特定調停」の申立
すべての借入先から同意が得られたら、簡易裁判所に「特定調停」を申し立てます。特定調停とは、返済が滞りつつある債務者の申し立てにより、簡易裁判所が借主と貸主の話し合いの間に入り、借金を軽減するように働きかけて生活を立て直すことができるように支援する制度です。

7. 調停条項の確定
簡易裁判所で調停条項確定の手続きが終了すれば債務整理が成立します。

債務整理の申し出から調停条項の提出・説明(上記③~⑤)まで、個人のローンであれば3ヶ月以内が原則です。期限を切ることで少しでも早く生活のリスタートができることが目的です。

東日本大震災自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関ホームページより

災害時の制度利用にあたって

2015年9月から2019年9月末までの利用状況は、登録支援専門家に手続き依頼をした件数が1,085件、債務整理成立件数は410件です。手続き中の件数も209件ありますが、決して利用が進んでいるとはいえず、申し出ても必ずしも利用できる状況ではありません。

これは、災害救助法適用の自然災害に限定されていることや自己破産するほどの大きな被災状況であることなど、要件の厳しさもあります。また、そもそもの債務の金額が大きい、税金の滞納があったなど被災以前から信用状態が悪いと、金融機関側が債務の減免に応じてくれないといったケースもあります。あくまで被災によって、返済ができない状況に陥った人を救うための制度だからです。

「被災ローン減免制度」は万能ではありません。しかし、大規模な自然災害でローン返済が残る財産を失ったとき、自己破産や倒産以外の生活再建の方法があることを知っておくのは重要です。もし数千万円のローンを組んで購入した家が入居1日で流されてしまったら…損害分の保険金は出ても、ローンの返済分までは補うことはできません。どうしても返済がむずかしくなったら、自分や家族の将来のために、「被災ローン減免制度」を頭の片隅に入れておいていただきたいと思います。

参考サイト
内閣府:災害救助法の概要
一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関:利用状況
東京第二弁護士会:「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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