世界の年金格付け日本は31位、75歳定年を見据えて改正検討も

日本年金機構は11月を「ねんきん月間」と位置づけ、公的年金制度の普及・啓発活動を展開しています。そして2014年度から厚生労働省は、11月30日(いいみらい)を「年金の日」としています。厚労省はこの機会に「ねんきんネット」等を活用して、自身の年金記録や公的年金の受給見込み額を確認するなど、高齢期の生活設計に思いを巡らしてほしいと呼びかけています。

「ねんきんネット」は、インターネットで自分の年金情報を手軽に確認できるサービス。年金記録の確認、将来の年金見込み額の確認、電子版「ねんきん定期便」の閲覧、日本年金機構から郵送された各種通知書の確認、などが主な内容です。また、日本年金機構に提出する一部の届書をパソコンで作成・印刷することができ、持ち主のわからない年金記録の検索もできます。「ねんきんネット」の利用には、基礎年金番号とメールアドレスをネットで登録申請することが必要です。

11月30日の「年金の日」は、すべての年金事務所及び街角の年金相談センターで週末相談を実施します。11月25日から12月5日は、「ねんきんダイヤル」への携帯電話からの通話料金を引き下げるというサービスもあります。

また、丸の内の東商ホールでは13時から「年金の日フォーラム」が行われます。イベント内容は、年金シンポジウムや柳家さん八師匠による「年金落語」などとなっており、先着550名・入場無料なので足を運んでみてはいかがでしょうか。

世界年金格付け、日本の年金制度は37か国中31位

日本の年金制度についてはさまざまな意見がありますが、公平かつ客観的に評価するためにも、海外の制度や年金レベルと比べるのも1つの手です。
米国のコンサルティング会社マーサーは、世界各国の年金を比較・評価した「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2019年度)」を先月発表しました。このランキングで日本の年金制度は37か国中31位となっています(表参照)。

「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2019年度)」
「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング(2019年度)」

この年金指数は、もらえる年金額が十分か(十分性)、年金制度に持続性はあるか(持続性)、年金制度に運営報告の義務はあるか(健全性)という3つのポイントから総合指数が算出されています。
年金関連のニュースを見て、「今の年金額で老後は生活できるのかな?」(十分性)、「自分の老後に年金は約束どおりの額が支払われるだろうか?」(持続性)、「年金制度はしっかり運営されているのかな?」(健全性)と思ったことがあるかもしれません。こうした疑問を中心に、世界の年金制度を評価しているのが、この年金指数です。

例えば、現在の年金支給額が高すぎると将来に渡って持続的な制度とは言えず、逆に年金支給額が低すぎると持続可能ではあっても老後の十分な所得としての役割を果たせません。望ましい年金制度は、給付水準と平均寿命や労働人口のバランスをとりながら、高い透明性が担保された制度ということになります。

日本は各項目で点数があまり高くありませんが、特に持続性の指数が32.2と著しく低く、これが全体の順位を大きく押し下げています。ただ、持続性については、イタリア(19.0)やオーストリア(22.9)の指数が低いように、高齢化が進む日本以外の先進国でも大きな課題なのかもしれません。「北欧は高福祉社会」というのが日本人の昔からのイメージですが、ランキング上位に北欧が多いのは、そのイメージどおりと言えそうです。

働く意思と体力のある高齢者ができる限り長く働ける仕組みを

今回の結果について、マーサージャパンのプリンシパル・北野信太郎氏は、年金制度の改正だけでは不十分だと言います。

「自分の支払った分が将来どれだけ戻ってくるのかということばかり考えがちですが、社会保障制度のそもそもの意義に立ち返るべきです。年金は老後のリスク、『長生きしすぎるリスク』に備えるという性質であるべきです。すなわち、老後は働けなくなるというリスクです。そう考えると、65歳というのは働けなくなる年齢ですかと問い直さなければならない。そもそも、自営業や第一次産業の方は、70歳以上で働いている方も多い。サラリーマンだけなぜ65歳定年なんですか、ということです。企業側も年功型の賃金制度を変え、高齢人材のリ・スキル(新しい技術の修得など)によって生産性向上を図るべきでしょう。国は年金の支給開始年齢を上げて、社会全体の雇用のあり方まで含めて見直す必要があります」

一方で、北野氏はこのランク付けの基となる年金指数自体に含まれていない要素にも注目すべきだと言います。

「ランキングはあくまで収入(入ってくるお金)について指数化したもので、支出については考慮されていません。高齢期には医療費の支出が多くなりますが、日本の社会保障としての医療は手厚いので、その分老後はお金がかからない形になっています」

厚生年金制度、75歳まで働く時代を見据えて改正か

年金改正の議論は厚労大臣の諮問機関「社会保障審議会」の年金部会で集中的に行なわれており、10月18日の年金部会に厚労省は重要な改正ポイントをいくつか提示しました。その中に「厚生年金加入期間を75歳まで延長」と「年金繰り下げ受給の上限年齢を75歳に引き上げ」が含まれています。これらは、サラリーマンとして75歳まで働く人がたくさん出てくる将来を想定したものです。
65歳までの安定した雇用を確保するために、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」もあり、この法律では企業に「定年制の廃止」、「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を取るように義務付けています。

国の調べでは、従業員31人以上の企業約16万社のうち、高齢者雇用確保措置を実施している企業の割合は99.7%(155,638社)で、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は75.6%(118,081社)になっています。ただ、この数字には多くの中小企業が含まれており、人材確保が難しいと言われる中小企業だからこそ、高齢者人材の活用が進んでいる側面もあります。

国の年金制度も時代によって改正されてきてはいますが、高齢化のスピードについていけるかどうかが焦点ではないでしょうか。

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