【ARUHIアワード9月期優秀作品】『いつかのターコイズブルー』八嶋 祥子

 そうこうしているうちに、佐久間が俺に作らせようとしているのはどうやらコップらしいとわかった。また、先程まで全体が赤かったため、てっきり佐久間は赤色を選んだのかと思っていたけれど、実は青と緑だったこともわかった。
「綺麗でしょ。青と緑の組み合わせ。せっかくだから俺らの名前からとったんだ。我ながら良いアイデアだよね」
 得意気に佐久間は笑う。
 翠の『緑』と航青の『青』。こんなに近くにある色同士なのに、交わらないのがなんだか皮肉みたいで。
 でも、すごく綺麗だった。
 そこから、棒を叩いてコップと離し、ひっくり返して後ろをバーナーで焼いて濡らした板でおさえる。その鮮やかな所作を見つめていると、すぐにコップを挟んで、別の炉に入れてしまった。
「ここから冷やすから」
「え、もっとよく見たいんだけど」
「駄目だよ、出来てからのお楽しみ。渡せるのは二日後くらいかな」
二日後か。
その時スマホが振動する。
確認すると、遼からのメッセージ。
『ごめんまじで宿題終わらなくてさー助けてくれよ!』
そのメッセージのあとに手を合わせるうさぎのスタンプが続く。
想定より随分早い協力要請。急に現実に引き戻された気分になる。

このコップが出来る頃には、またいつもの日常が始まっている。
きっと俺は遼の機嫌を伺って、へらへら笑っているんだろう。
将来の夢は学校の先生のまま、親の期待を裏切らないように生きていくんだろう。
いままでと何一つ変わらない。

けれど、
「自分の作ったコップで飲むサイダーは格別だよ」
そう言って笑いながらコップを持って傾ける仕草をする佐久間を見ていたら、
なんだかそういう日常も悪くはないような……。
そんな気がしていた。

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