「目黒川みんなのイルミネーション2019」が11月8日に始まり、来年1月5日まで開催されています。東京・東五反田から大崎方面へ続く目黒川の両岸を、桜をイメージしたピンク色のLED電球41万5800個が彩ります。装飾範囲は計約2.2km。初日の点灯セレモニーでは「冬の桜 ブルームコンサート」が五反田ふれあい水辺広場で行われました。開催は今年で10年目を迎え、「冬の風物詩」としてすっかり定着しています。このイベントを通して廃食油が引き起こす環境問題を考えます。

大崎を起点とした目黒川沿いの街づくり

目黒川、大崎周辺の桜

東京に長く住んでいる人にとって、山手線大崎駅の昔のイメージは工場地帯あるいは倉庫街でした。駅前すぐ近くまでずっと電機や化学等の工場敷地で、人が暮らす街の風景はありませんでした。しかし、1982年に東京都の「副都心」に指定され、1989年の大崎駅東口第1地区(大崎ニューシティ)がオープンすると、街の様子は劇的に変わっていきました。五反田駅から大崎駅の間にある目黒川沿いのエリアや大崎駅西口エリアから工場が移転していき、次々とオフィスビルや高層マンションが建設されました。周辺の街路や目黒川沿いの遊歩道の整備も進みました。

人が移り住んで街づくりが進むと、次はコミュニティづくりです。「みんなで街への愛着と誇りを育んでいきたい」という地域住民らの想いから、「目黒川みんなのイルミネーション」は始まりました。地元企業の積極的な協賛もあって、「ひと・企業・地域」が一体となったプロジェクトとなりました。こうした取り組みは、郊外の大規模ニュータウンでは珍しくありませんが、都心エリアの事例としてはあまり見られません。

海外のデザインコンペティションでも評価されるワケ

2018年のイルミネーション風景 「目黒川みんなのイルミネーション」HPより
2018年のイルミネーション風景 「目黒川みんなのイルミネーション」HPより

イルミネーションの点灯時間は17時~22時です。五反田ふれあい水辺広場前では、「みんなの屋台村」にキッチンカー14店が日替わりで出店しています。みんなの屋台村は12月25日までです。

12月16日から25日までは、五反田ふれあい水辺広場にドイツ生まれのアウトドアドーム「ガーデンイグルー」が登場します。ドームは直径3.6メートル、高さ2.2メートル、広さ10平方メートルと、のんびりくつろげるサイズ。雨や風にも強いので、天候を気にせず公園内で冬の桜を楽しむことができます。このイグルーも“インスタ映え”するかもしれません。

イベントはこれまでたくさんの海外メディアからも取材を受け、中国やブラジルのテレビでも放映されたといいます。また、毎年イタリアで開催される国際的なデザインコンペティション「A’Design Award 2017」では「目黒川みんなのイルミネーション」が銀賞を受賞しました。使われているLED電球は、実は市販のピンクのLEDではなく、桜色により近いものをとオリジナルで製作されたものだそうで、そうしたこだわりが実を結んだのかもしれません。

エネルギー源は廃食油で100%自家発電

イルミネーション点灯のしくみ「目黒川みんなのイルミネーション」HPより
イルミネーション点灯のしくみ「目黒川みんなのイルミネーション」HPより

「A’Design Award & Competition」は世界最大のデザインコンペティションですが、受賞理由はその優れたイベントコンセプトにもあります。

このイベント最大のポイントは、イルミネーションがすべて自家発電であること。「100%エネルギーの地産地消」をコンセプトに、開催エリア周辺の飲食店や家庭から使用済み食用油を回収しています。それを精製してできたバイオディーゼル燃料(BDF:Bio Diesel Fuel)のみ使用して、会場の発電機で発電しています。回収するトラックも廃食油で走る回収車を使用する徹底ぶり。会期は約2か月もあるので、燃料の廃食油が不足することはないのか実行委員会の事務局に聞いてみました。

「これまで足りなくなったことは1度もありません。わざわざ回収場所まで持ってきてくださる住民の方もいるくらいです」(事務局)

バイオディーゼル燃料のみ使う取り組みは2011年の2回目からで、今年で9年目。都内では唯一だそうです。

「環境・エネルギーへの取り組みは2010年の第1回目から別の形で行われていました。2011年は3月の震災後にイルミネーションに対する自粛ムードもあったのですが、むしろ積極的に新しい取り組みをということで始まったのが、このバイオディーゼル燃料発電です。このイベントを通して、21世紀の課題であるCO2の削減や、電力のあり方を見直すきっかけになればと考えています」(事務局)

家庭の廃食油が引き起こす環境問題

使用済み天ぷら油20ミリリットルを捨てると、魚が住める水質に戻すにはバスタブ(300リットル)20杯分の水が必要です

日本国内で消費される食用油は年間約200万トンといわれ、このうち、約40万トンが廃棄されています。飲食店や食品関係企業などからまとまって廃棄される業務用と、各家庭から少量ずつ捨てられているものは半々の20万トンずつですが、業務用で回収されたものは飼料、石鹸、塗料などに再生されています。

問題は家庭から出る廃食油で、9割が生活排水と一緒に流されたり、紙に含ませて捨てられています。排水口から流されると、冷えた油が固まって排水管を詰まらせてしまうトラブルになることもあるし、何より河川の汚染につながります。

例えば、使用済み天ぷら油20ミリリットルを捨てると、魚が住める水質に戻すにはバスタブ(300リットル)20杯分の水が必要だそうです(環境省「生活排水読本」)。

使用済み食用油は捨てれば有害なゴミですが、リサイクルすれば電気に変わります。バイオディーゼル燃料は軽油代替燃料としてディーゼル車を動かすことができ、大気汚染の原因となる硫黄酸化物はゼロ。まさに地球に優しいクリーンエネルギーです。

家庭から出る使用済み食用油については、買い取り業者もいますが、多くの場合、地方自治体や生活協同組合が回収しています。回収後にリサイクルして有効活用している自治体も少なくありません。京都市には回収拠点が2000箇所以上(1箇所300世帯)もあり、回収後はバイオディーゼル燃料化して市バスとごみ収集車に利用しています。

東京は世界有数の“油田”

東京では『TOKYO油田物語』の著者で、食用油の再資源化を進める株式会社ユーズの染谷ゆみ社長が、「TOKYO油田2017」というリサイクルプロジェクトを推進しています。このプロジェクトではさまざまな生活ネットワークから使い終わった天ぷら油を回収しています。

染谷社長は使用済み食用油からバイオ燃料(VDF=Vegetable Diesel Fuel)をつくる世界初の技術を2004年に開発して、特許も取得しました。また、『TIME』誌の「Heroes of the Environment 2009」に選ばれたこともあります。

目黒川みんなのイルミネーション」や染谷社長の活動を見ると、東京が世界有数の“油田”であることを思い知らされます。

(最終更新日:2019.12.04)

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