【給料日はワインの日】Vol.2「空飛ぶワイン」は安旨ボトルの宝庫

ワイン漫画として全世界で1,000万部以上を発行し、世界中で高く評価されている『神の雫』。その原作者がワインのある“暮らし”を提案する新連載です。敷居が高く、手を出しにくいイメージを払拭する “飲みテク”を伝授。毎月給料日に、自宅で飲むことを前提に、手頃な価格で楽しめるワインをご紹介します。

エア会社の目利きが選択する安旨ボトル

庶民の憧れ、国際線ビジネスクラス──。

それは、エコノミーシートの部屋とはカーテンで隔絶されたハイグレードな空間。ここでは席に着いたらすぐ、おしぼりと飲み物を持った客室乗務員が、笑顔でご挨拶に来てくれる。

快適な旅を楽しめるように、座席はベッドのようにフルフラットになるし、歯ブラシや耳栓、アイマスクなどが入ったブランド物のポーチも用意されている。食事はエコノミーのようなコンビニ弁当風ではなく、有名料理人が監修したフルコースが、陶器の皿で前菜から順番に供される…。

そしてワイン。エコノミーの場合はだいたいミニボトルの赤と白があるだけだが、ビジネスクラスでは有名ソムリエやワイン専門家が監修した立派なワインリストが用意されている。世界で最も高級なスパークリングワインであるシャンパーニュはもちろん、ボルドー、ブルゴーニュなどフランスの吟醸地のワインも、もれなくオンリストされている。 

このビジネスクラス搭載ワイン、エコノミーとのトンデモな運賃の差を考えると、庶民には手の届かない高級品であるかのように思えてしまう。ところが(あまり知られていないことだが)、実はこれらのワインは、庶民でも手の届く「安旨ボトルの宝庫」なのである。

©亜樹直、オキモト・シュウ/講談社

2,800銘柄の中から選ばれる「厳選セレクション」

そもそも航空会社のアッパークラス搭載ワインは、どうやって選ばれるのだろうか。

実は私たち亜樹直姉弟は、ANAのファーストクラス搭載ワイン選考試飲会に特別ゲストとして呼ばれたことがある。2008年のことだ。

「日本産・白ワイン」「フランスボルドー産赤ワイン」などといった具合に、6つのカテゴリーに分けられたワインを合計77本、次々と試飲して、おいしいと思った順番にランクづけしていく。ほぼ一日がかりの、かなり大変な作業だったが、担当者によれば「最初に候補にあがったワインは1,200本なんですが、今日の選考会までに77本に絞り込みました」とのことだった。この二次選考を経て、最終的にリストに載ったのは10数本だったと記憶している。つまりこれらのオンリストワインは、100 倍以上の倍率を勝ち残ったわけだ。 

ビジネスクラスのワインはファーストよりも価格が安いため、だいたい2,000本以上の候補から絞り込むようだ。ABAのHPによれば、同社が現在採用しているビジネスクラスのワインは「18ヶ国から2,800本」の候補から選んだとのこと。ファースト同様、リストに載るのは10本ちょっとである。

このように、アッパークラス搭載のワインたちは専門家のお墨付きもあるし、数千本から選び抜かれた厳選品ばかり。当然、美味しくないわけがない。特にビジネスクラスのワインは、ファーストよりずっと市場価格が安く2,000~3,000円台が中心なので、これを見逃す手はあるまい。

2,000円台の「ビジネスクラス常連ワイン」          

今回ご紹介するのは、その中でもぜひ試してもらいたい、筆者イチオシのワインである。

まずはアメリカ西海岸セントラルコースト、モントレーに拠点をおくワイナリー「HAHN(ハーン)」。ハーンは赤ワイン中心にいくつかのキュヴェを作っているが、「ハーン・ピノ・ノワール・モントレー」はJALビジネスクラスに、「ハーン・カベルネ・ソーヴィニヨン」はANAビジネスクラスに、それぞれ採用されている。海外でも英国航空がビジネス、ファーストともにハーンのワインを搭載しているというから、その実力のすごさが窺い知れる。

ピノ・ノワールは、フレッシュで果実味が横溢するチャーミングなワイン。カベルネはカシスやプラム、コーヒーのアロマがあり、渋くて濃厚なタイプとは一線を画す、喉越しのよいシルキーな味わいだ。価格はピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨン、どちらも 2,000円台前半。飲んでみればわかるが、「これが2,000円台?」と驚いてしまうほど旨い。

HAHN(ハーン)

次のオススメは「ボーグル・ヴィンヤーズ」。1968年創業の家族経営のワイナリーだが、白ワインのシャルドネ、赤ワインのメルローが、いずれもANAビジネスクラスに採用された。

このワイナリーでは自社畑ではソーラーや風力発電を使って、自然なワイン作りを心がけている。また葡萄を買い取る契約農家に対しては、持続可能なサスティナブル農法の認証取得支援を行っており、認証された農家に対しては高い値段で葡萄を買い取るなどして、ワインに使う葡萄全般のクオリティを引き上げている。

世界のワインコンクールでの金賞メダル数は、2,000年からの13年間でシャルドネ40個、ピノ・ノワール21個、メルロー20個、カベルネソーヴィニヨン17個という、驚くべき実績。それでいて、スタンダードなキュベは2,000円程度で買えるのだから、ボーグルのコスパの高さはまさに圧倒的といえる。

新樽100%で発酵する白ワインのシャルドネは、りんごや洋梨、バニラの香りがあり、しっかりとしたボディが感じられる。赤のメルローは完熟プラム、ハーブのアロマがあり、タンニンはまろやかで、くつろいだ気分になれる優しいワインだ。

ボーグル・ヴィンヤーズ

最後にご紹介するのは『神の雫』3話目で紹介して、大ブレイクした「シャトー・モン・ペラ」が作る白ワイン「モン・ペラ・ブラン」。2009年と2011年ビンテージが、なんとANAファーストクラス採用された実績を持つが、価格は安い店なら1,000円台と大変お買い得。

飲むと非常にアロマティックなワインで、ほのかなバターの香りがあり、オレンジやナッツ、メロンのニュアンスも。ピュアな酸味が心地よく、白身魚のムニエルなどに最高に合いそうだ。

ビジネスクラス搭載ワインは、機内での慌ただしいサービスの関係上、開けてすぐ美味しく飲めるものが中心になっている。また機内は湿度がかなり低く、味覚・嗅覚が鈍くなってしまうため、やや濃い口の輪郭がはっきりしたワインが多いのも特徴だろう。

モン・ペラ・ブラン

いかがだろうか。皆さんも、次の給料日はコスパ抜群の“空飛ぶワイン”を飲みながら、アッパークラスで旅をするリッチな気分を楽しんでみては?

※本記事の掲載内容は執筆時点の情報に基づき作成されています。公開後に制度・内容が変更される場合がありますので、それぞれのホームページなどで最新情報の確認をお願いします。
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